/ 『ラスト・キャッスル』
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『light as a feather』トップページに戻るラスト・キャッスル
原題:THE LAST CASTLE / 監督:ロッド・ルーリー / 原案:デヴィッド・スカルパ / 脚本:デヴィッド・スカルパ&グラハム・ヨスト / 製作:ロバート・ローレンス / 製作総指揮:ドン・ツェッペル / 撮影:シェリー・ジョンソン,ASC / 編集:マイケル・ジャブロー,A.C.E.&ケヴィン・スティット / プロダクション・デザイナー:カーク・M・ペトルッセリ / 衣装:ハ・ニューエン / 音楽:ジェリー・ゴールドスミス / 衣裳:サーシャ・ミルコヴィック・ヘイズ / 出演:ロバート・レッドフォード、ジェームズ・ガンドルフィーニ、マーク・ラファロ、スティーヴ・バートン、デルロイ・リンド、ポール・カルデロン、クリフトン・コリンズJr.、ブライアン・グッドマン、フランク・ミリタリー / 提供:DREAMWORKS / 配給:UIP Japan
2002年アメリカ作品 / 上映時間:2時間12分 / 字幕:戸田奈津子
2002年11月16日公開
公式サイト : http://www.uipjapan.com/lastcastle/
劇場にて初見(2002/12/07)[粗筋]
ウィンター大佐(ジェームズ・ガンドルフィーニ)が所長を務める軍刑務所は、恐怖によって支配されていた。遊び半分に懲罰が行われ、抵抗する者は執拗な嫌がらせを受け、いつか囚人たちはそもそも軍人であったことへの誇りを見失っていた。その甲斐あって、と言うべきか、ウィンター就任後の刑務所は脱走者ゼロという成績をうち立てたものの、囚人たちの間には確実に鬱屈が募っていた。
ある日、刑務所に新たな囚人が収監された。彼の名はユージーン・アーウィン陸軍中将(ロバート・レッドフォード)――かつてアメリカ軍人の鑑とまで言われた英雄であり、最後の任務で8人の部下を死なせたかどにより懲役10年の刑を言いわたされた男だった。ひとりの軍人としてアーウィンに憧れすら抱いていたウィンターの胸中には複雑なものがあったが、最初の面談中、ウィンターが席を外したあいだにアーウィンが漏らした「軍事品のコレクションなど、現場の痛みを知らない人間がするものだ」という台詞に、明確な敵愾心を抱く。
一方、アーウィンもまた、野外活動の時間帯に目撃したあからさまな囚人いびりの光景に、驚きを隠せなかった。支給するバスケットボールをわざとひとつだけにして囚人たちのあいだに諍いを起こさせ、頃合いを見て全員をひれ伏させ――タイミングを見失った男をゴム弾で銃撃した。そして、アーウィンに対して敬意を隠さず、彼に敬礼の作法を教わったことで畏敬の念を増した囚人のひとりアギラー(クリフトン・コリンズJr.)には、囚人同士の敬礼を禁ずる規則を破ったとして、雨の中数日に亘り野外に立たせ続けるという懲罰を行う。抗議したアーウィンに対しても、ウィンターは見せしめとして、刑務所内にある伝統的な壁の再建に使われていた、10kg相当の石を幾度も移動させる罰を与えた。
最初こそ賭けの対象とし冷やかし半分で成りゆきを見守っていた囚人たちだったが、決して屈服しようとしないアーウィンの姿に心打たれ、敬意を抱くようになっていく。壁の再建作業のなかでもアーウィンは統率力を発揮し、囚人たちは次第に誇りを取り戻していた。
当然それはウィンターにとって愉快な事態ではない。ウィンターは重機を投入し、警備員たちに壁を破壊するよう命じた。誰よりもアーウィンに心酔し、再建作業に熱心に携わっていたアギラーは重機の前に立ち塞がり、サイレンによる警告を無視して立ち続けた結果、ゴム弾の銃撃を頭に受けて死亡する。
だがその日、ウィンターは決定的なものを見せつけられた。アギラーが死んだあと、壊された壁の前に、元曹長デルウー(ポール・カルデロン)の号令の元整列した囚人たちの姿があった。彼らの前でアーウィンは短く自分たちの尊厳を説き、囚人たちの結束をいよいよ固いものにする。恐懼したウィンターは、アーウィンを追い出すための工作をはじめる――[感想]
予告編の大雑把な印象から、刑務所が舞台でレッドフォードがクーデターを起こす、というふうに捉えていたのだが、流石に大雑把すぎたらしい。本編の着眼は、刑務所は刑務所でも軍人のみが収監される刑務所である点だ。
外界ではそれぞれ異なった階級にあるが、一旦収監された以上はいずれも同じ囚人となり、刑務官たちの支配下におかれることになる。基本的に収容されるのは階級の低い者達が中心だが、そこへ元英雄アーウィン=ロバート・レッドフォードが送られてきたことで軋轢が生じ、劇的なドラマに発展する。アーウィン自身は軍務に固執しすぎたが故に失っていた家族の絆を取り戻したいと考えており、平穏に刑期を勤め上げることを願っているが、まわりはそうはいかない。軍における彼本来の階級は中将であり、所長であるウィンターよりも高く、また真面目な軍人はいずれもアーウィンの顔と名前を知っている。いい意味でも悪い意味でもアーウィンを放っておくはずがない。この端緒となる設定だけで、ドラマの質と方向性は半ば決定づけられている。あとはそれを丁寧に裏打ちするだけだ。
また、舞台が密室となっていることもポイントだ。大袈裟な武器を携行できない囚人たちは様々な工夫を凝らし、アーウィンの指示のもと緻密な裏工作を施してある計画を実行するが、その過程は間違いなくこの舞台でしか成立しない。これに同じ軍人同士であり刑務官には管理者として囚人の生命を徒に脅かすことが出来ない、という軛が組み合わさることで、後半は策略が入り乱れながら、犠牲という考え方がギリギリまで抑えられ、張り詰めた空気を漂わせながらも残酷な場面を想定する必要がなく、不安を覚えることなく推移を見守っていられる。
ドラマを成立させるための優れた設定と、監督や脚本家の経験がものを言うディテールとプロットの巧みさがうまく噛み合い、派手さはないが堅実な娯楽作品に仕上がっている。
国旗というモチーフが内容をいかにもなアメリカ礼賛に見せてしまっているのが唯一にして最大の難だが、アメリカという骨格を取り払ってしまえば、どこの軍部組織であっても成立しうる話だと気づくはずだ。惑わされてはいけない。
だがやはり、最大のキーはレッドフォードの説得力に満ちた演技だろう。落魄しながらも矜持を喪わない、といういかにもなヒーロー像を嫌味もなく完璧に演じきれるのは、常にアメリカのヒーローを演じ続け年輪を重ねてきたレッドフォードだからこそだ。他の誰が演じても、ここまできっちりと噛み合うことはなかっただろう。
とどのつまり、レッドフォードは幾つになっても格好いい、という話である。面白いのだが、この強烈なヒロイズムが鼻につく向きがあることも否定できないので、その点は予め了解の上ご鑑賞ください……っても、あと1週間ぐらいで日本での公開も終わる筈なんだけど。鑑賞当日の更新で書き忘れたことをちょっと追加。
本編の監督ロッド・ルーリーが本編の前に手掛けた作品は、『ザ・コンテンダー』。アカデミー主演女優賞候補を出したことで知られる政界サスペンスだが、最大の見所はラスト近くでジェフ・ブリッジス演じる大統領の演説場面である。アメリカという社会に誇りを抱きながら危機感をも窺わせる主張は本編にも通じるところがある。或いはこの監督、こうした作風を今後も貫く方針なのかも知れないが――さて。今後の活躍を見守ってみたいところである。(2002/12/07・2002/12/08追記)