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『light as a feather』トップページに戻るヘルハウス
原題:“The Legend of Hell House” / 原作・脚本:リチャード・マシスン / 監督:ジョン・ハフ / 製作総指揮:ジェームズ・H・ニコルソン / 製作:アルバート・フェネル、ノーマン・T・ハーマン / 撮影:アラン・ヒューム / 音楽:ブライアン・ホッジソン、デライア・ダービーシャー / 出演:パメラ・フランクリン、ロディ・マクドウォール、クライヴ・レヴィル、ゲイル・ハニカット、ローランド・カルヴァー、ピーター・ボウルズ / 配給:20世紀フォックス / DVD日本盤発売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
1973年イギリス作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:岡枝慎二
1974年09月日本公開
2004年08月02日DVD日本盤最新版発売 [amazon]
DVDにて初見(2005/12/24)[粗筋]
物理学者のバレット博士(クライヴ・レヴィル)はさる富豪の依頼で、とある邸宅の調査に赴く。そこは、かつて悪逆非道の限りを尽くして、ついに27人もの屍体を残して消えてしまったエメリッヒ・ベラスコの屋敷であり、調査のためにやって来た霊媒や有識者がただひとりを残して全員犠牲となったために、“地獄屋敷”という通称のついた曰く付きの場所だった。
バレット博士と同様に依頼を受けてやって来たのは、若く美しい霊媒フローレンス・タナー(パメラ・フランクリン)と、かつての調査隊のひとりであり、唯一の生き残りとなったベン・F・フィッシャー(ロディ・マクドウォール)の2名。それにバレット博士の妻・アン(ゲイル・ハニカット)を加えた四人で五日間にわたって“地獄屋敷”に滞在、それぞれの方法で続発する怪奇現象を調べることとなった。
タナーは得意とする心理的霊媒で屋敷に束縛される霊達に接触を試み、特にベラスコの息子・ダニエルと名乗る霊が頻繁に接近してくることに目をつけ、彼を解放することが事態終結の糸口になると説く。一方、バレット博士はそんな彼女の超心理学的アプローチを、自ら調達した機材で科学的に検証することにより、物理的に収束する方法を考える。ただひとり、フィッシャーだけは不気味な沈黙を保ち続けていた。
期限は12月24日。果たして彼らは謎を解き明かし、屋敷から無事帰還することが出来るのか……?[感想]
オカルト・ホラーの分野では古典的名作と呼ばれているだけあって、出来についてはもはや言うことはない。虚仮威しや流血に頼らず、異様な状況に積み重ねによって染みこんでくるような恐怖を演出する手管、巧妙に鏤められた伏線を一気に解きほぐし、ホラーとしての結構を保ちながらも理知的な解答を導いていくストーリーも見事。決着の日を12月24日に設定する、意地の悪さも異様な余韻を残す。
話を過剰に拡げることなく、基本的に屋敷の内部だけで完結させているのも効果的だ。仕事という名目で縛り付けられた一同は、迎えの来る期日である24日まで出て行くことが出来ない。行動も限られ、交流できる人間も限られたなかで、次第に人間関係の緊張感が高まっていく。あからさまな怪奇現象を起こすまでもなく、その強烈な軋みが恐怖を盛り上げているのだ。
やもすると華に乏しくなるそうした状況のなかで、パメラ・フランクリンの凜とした清楚さが際立った彩りを添え、物語にアクセントをつけていることにも注目したい。思うままにならない状況に苛立ち、憤り、怯えながらも澄み切った表情を覗かせる彼女の存在が、やもすると陰湿になりがちな展開をいい具合に引き締めている。とりわけ、シルエットながら可憐な裸身を披露し、悲壮な決意のもと、ある行動に走るひと幕は衝撃的ながら光るものがある。
明かされる異様な真相は、しかし道義的な問題もあるため、恐らく今日では構想されても実際に作られることはないだろうし、翻って本編のように匙加減を調整して描くということも却って難しいだろう。
特殊効果や画面作りは古びているが、その精神性は未だに清新さを保つ、優秀なホラー映画である。これから映画や小説、漫画などでホラーを作ろうとするなら、いちど通っておいて間違いはないだろう。(2005/12/25)