/ 『歌謡曲だよ、人生は』
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『light as a feather』トップページに戻る歌謡曲だよ、人生は
☆共通クレジット
企画・製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ / 配給:XANADEUX
2007年作品 / 上映時間:2時間10分
2007年05月12日公開
公式サイト : http://www.kayomusic.jp/
スペースFS汐留にて初見(2007/04/25) ※特別先行試写会[概要]
十一名の監督がそれぞれ昭和の歌謡曲から1曲を採りあげ、そこから自由な発想で撮影した短篇を一堂に会した、史上初の歌謡曲オムニバス・ムービー。以下、諸般事情から粗筋には触れずに、各編の感想のみざっと羅列していく。オープニング『ダンシング・セブンティーン』
クレジットなしのオープニングは、盆踊りの映像をコラージュしたイメージ・ビデオ風の作り。実のところ労作という意味ではもっとも手の込んだ1本と思った。歌詞を象徴した動きをよくもまあ巧く集めたものだと感心する。第一話『僕は泣いちっち』
監督・脚本:磯村一路 / 出演:青木崇高、伴 杏里、六平直政、下元史朗、スタス
如何にも昭和歌謡風の叙情的な一篇だが、正直なところ何を訴えたいのかよく解らない筋で、観ていて戸惑う。運命の皮肉のようなものを描こうとしたのかも知れないが、あまりにも首尾が一貫していないので、「だから?」という気分にさせられる。雰囲気はあるのだけど、少なくとも1本目に持ってくるのに相応しい作品とは思えなかった。第二話『これが青春だ』
監督・脚本:七字幸久 / 出演:松尾 諭、加藤理恵、池田貴美子、徳井優、田中要次
一転、いま流行りのエアギターを題材に、青春の暴走っぷりを汗くさくパワフルに描いた作品。如何にもな、という滑稽な行動と熱気の果て、失望のなかで披露するエアギターが本当に格好良く見えるのは見事。ちなみにエアギターの場面で用いられているのは、元メガデス所属、現在は日本在住で歌謡曲にも造詣の深いことで知られる個性派ギタリスト、マーティ・フリードマンによる楽曲。この選曲も憎い――と思う一方で、肝心のテーマである楽曲の印象が薄いのが難点。第三話『小指の想い出』
監督・脚本:タナカ・T / 出演:大杉 漣、高松いく、中山卓也
先行する話よりも更にぶっ壊れた話である。叙情的に見せていったかと思えば、一般的にはシュールな、マニア的にはありがちな結末が来る。ただ、大杉漣の怪演ぶりだけが記憶に残り、全体の印象は薄い。第四話『ラブユー東京』
監督・脚本:片岡英子 / 出演:正名僕蔵、本田大輔、千崎若菜
色々な意味で問題作である。どの辺が問題なのか、逐一採りあげていくと、これからご覧になる方の興を削いでしまいそうなので、詳しくは語らない。途中に挿入される特撮のチープさまで含めて、計算の行き届いた一篇であることは確かだ。ただ、オチはもうちょっと鮮烈にしてもよかったのでは、と思うが。第五話『女のみち』
監督・脚本:三原光尋 / 出演:宮史郎、久野雅弘、板谷由夏
唯一、テーマとなった曲を歌う本人が出演しているのが特色だが、もっともストレートにギャグを、というよりもコントを志向した、ある意味潔く解り易い一篇。少年がこの状況に巻き込まれていく心理と、クライマックスの流れをもうちょっとインパクトたっぷりに描けていればもっと記憶に留まったと思うのだが。宮史郎はなかなかの存在感を醸し出していて、見応えはあった。出来れば最後のショットには、“ロケ地・京都”と記して欲しかった――というのはちょっと付けすぎか?第六話『ざんげの値打ちもない』
監督・脚本:水谷俊之 / 出演:余貴美子、山路和弘、吉高由里子、山根和馬
第一話同様に如何にも昭和歌謡らしい物語の流れだが、こちらのほうがまだしも筋が通っており、どこかハードボイルドな雰囲気もあって好感が持てる。惜しむらくは、主人公である女の重要な行動に、心理的な必然性を感じさせる伏線をあまり張っていなかった点だ。短篇とはいえ、もう一工夫欲しかった。第七話『いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー』
監督・脚本:蛭子能収 / 出演:武田真治、久保麻衣子、インリン・オブ・ジョイトイ、矢沢心、希和、長井秀和
蛭子能収は映画を撮っても蛭子能収だった、という代物。シュールにも程がある。虐められて裸に剥かれた直後のヒロインのポーズに、クライマックスで意味もなく公園で会議をしている人々の姿、何よりも全然行動理念が理解出来ない主人公の凄まじさ。演じている武田真治が終始愉しそうだったのが印象的である。第八話『乙女のワルツ』
監督・脚本:宮島竜治 / 出演:マモル・マヌー、内田朝陽、高橋真唯、山下敦弘、エディ藩、鈴木ヒロミツ、梅沢昌代
これもありがちな昭和歌謡の世界観を軸にしながら、現代の視点を盛り込むことでよりノスタルジーを加速させた1本。双方で独特の可憐さを発揮した高橋真唯の存在が大きいが、現代過去ともに妙に描き方がリアルなのが、やや賛否が割れるところだろう。第九話『逢いたくて逢いたくて』
監督・脚本:矢口史靖 / 出演:妻夫木聡、伊藤歩、ベンガル、江口のりこ、堺沢隆史、寺部智英、小林トシ江
このオムニバスではいちばんよく出来た“映画”である。さすが『ウォーターボーイズ』の矢口史靖、コメディとして計算し尽くした脚本の緊密さ、密室劇を中心とすることで短篇のなかで無理なくストーリーを作りあげ、主題となる歌謡曲をきちんとオチで活かしているなど、短編映画の理想であり本オムニバスの白眉とも言える仕上がりであった。徹底したバカ野郎を演じきり、それ故にラストでちょっとした涙を誘う演技を披露した妻夫木聡が素晴らしい。第十話『みんな夢の中』
監督・脚本:おさだたつや / 出演:高橋惠子、烏丸せつこ、松金よね子、キムラ緑子、本田博太郎、鈴木ヒロミツ、田山涼成、北見敏之、村松利史
最も郷愁的な作品。流れは定番であり、いささかあざとい発想ではあるのだが、映像的な伏線を張り巡らし、構成も洗練されているので、印象はいい。ノスタルジー主体の作品では、このオムニバスにおいていちばんの出来だと思う。エンディング『東京ラプソディ』
監督・脚本:山口晃二 / 出演:瀬戸朝香、田口浩正
台詞をいっさい使わず最初から最後まで歌を流し続け、字幕を表示させた作りはもう完璧にカラオケのBGVである。このオムニバスはもともと“歌える映画”を意図して企画されたとのことだが、最後の最後でその趣旨を全うした趣だ。試写会で鑑賞した際、予め場内アナウンスにて「是非ともご一緒に歌ってください」と提案していたが、本当に歌える作りである。実際私も小声で歌った。それ故に、正直内容はよく覚えてない。だがそれこそ目的を全うした作り、と言えるだろう。[総評]
なかなか個性豊かで、それぞれの方向性を予め掴んでいれば楽しめるオムニバスだが、しかし全体として、いまいち対象として想定している層が掴みにくい仕上がりである。昭和の歌謡曲を題材にした、というポイントは高年齢層を狙っているようだが、しかし話の作りは概ね爽やかで、シュールすぎて柔軟な考え方が出来ないと受け入れづらいものもあり、どちらかと言えば若い層を想定しているようにも見える。どちらの層が鑑賞しても、狙いが把握しかねて戸惑う可能性も大きい。
また、全体の方向性からすると、1本目に『僕は泣いちっち』を持ってきたのは失敗ではなかったか、と感じる。全体の基本的に様式とは隔たっているうえ、そもそもお話として着地点を明確に定めていないこの作品は、オープニングにおかれたために、予備知識の乏しいまま訪れた観客を置き去りにしてしまう危険が大きい。ならばどれがオープニングに相応しいか、と問われると、どれが来ても微妙ではあるのだが、少なくともこれよりは『これが青春だ』や『乙女のワルツ』のほうが狙いが解り易く、まだしもその後におかしな影響を齎さなかっただろう。
オムニバスという企画の性質上仕方のないことだが、全体としての狙いが不明瞭であるため、観るうえでの意識の置き方も、薦めるときの対象も定めにくい作品となっているのが勿体ない。ただ、もし嵌ってしまえば、製作者の狙い通り、最後の『東京ラプソディ』で本当に一緒に歌ってしまえるくらいなので、とりあえず歌謡曲が好きな方、或いはある程度当たり外れがあることを覚悟の上で、様々な表現が楽しめるオムニバスという様式を好む方は観てみて損はないだろう。少なくとも、『いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー』や『逢いたくて逢いたくて』あたりは充分に楽しめるはず。(2007/05/01)