cinema / 『マップ・オブ・ザ・ワールド』

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マップ・オブ・ザ・ワールド
原題:“A MAP OF THE WORLD” / 原作:ジェーン・ハミルトン / 監督:スコット・エリオット / 製作:フランク・マーシャル、キャサリーン・ケネディー / 脚本:ピーター・ヘッジス、ポーリー・プラット / 撮影:シーマス・マクガーヴェイ / 編集:クレイグ・マッケイ / 音楽・演奏:パット・メセニー / 出演:シガニー・ウィーバー、ジュリアン・ムーア、クロエ・セヴィニー、ルイーズ・フレッチャー、デイヴィッド・ストラザーン / 配給:アートポート、アースライズ
1999年アメリカ作品 / 上映時間:2時間6分 / 字幕:堀 真由美
2002年03月23日日本公開
2002年10月25日DVD日本版発売 [amazon]
2003年11月27日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.emovie.ne.jp/movie/map/
新宿武蔵野館にて初見(2002/04/21)

[粗筋]
 アリス・グッドウィン(シガニー・ウィーバー)は家族と共に牧場で暮らしている。だが、自分でも今の暮らしが性にあっているとは思っていなかった。夫・ハワード(デイヴィッド・ストラザーン)と同様に家事の才能には恵まれておらず、癇性の強い娘・エマ(ダラ・パールマッター)と、落ち着きに欠けるその妹のクレア(ケイラ・パールマッター)の扱いと家事・家業の並立にいつも悩んでいる。加えて、学校での保険医の仕事も、ロビー・マッケシー(マーク・ドナート)という、ギャンブル狂の母親に蔑ろにされがちな少年の処置に日頃頭を悩ませている。近所との関係も思わしくない彼女にとって唯一の安らぎは、ただひとりの親友テレサ・コリンズ(ジュリアン・ムーア)と彼女の家族との交流である。
 ――その日も、遠出するコリンズ夫婦の娘ふたりを預かって、牧場にある沼で泳ぎを楽しむはずだった。見当たらない自分の水着を捜している途中、幼い頃の自分が死の床にある母の傍らで描いた想像上の世界地図を眺めていた、その一瞬の隙に、テレサの下の娘リジーは沼に辿り着いてしまっていた――そうと気付いて駆け付けたときには、もうテレサの幼い娘は、沼に力無く浮かんでいた……
 アリスにとっての不幸はそれだけで済まされなかった。あろうことか、ロビー・マッケシーの母親キャロル(クロエ・セヴィニー)は、アリスをロビーに対する虐待のかどで裁判所に訴えたのだ。訴えが受理された背景には、アリスの気持ちが最も不安定だった時期に、調査員に対して感情の赴くままに漏らした一言も絡んでいた――「わたしが、みんなを傷つけた」。真意は歪められ、かつ元々近所から奇異の眼差しで見られることの多かった彼女に課せられた保釈金は法外な額となった。
 壊れてしまった平穏、アリスを救うために奔走するハワードと、娘の死と親友の不幸の狭間で揺れるテレサ。果たしてアリスは再び家族と、平穏な日々を取り戻すことが出来るのだろうか……?

[感想]
 いい映画だ。おわり。
 ……正直、日本ではマイナーな扱いをされている一本だが、私にとっては待望の作品だった。日記の方では幾度か説明したが、音楽担当はジャズ界のトップギタリストであるパット・メセニー。この人の大ファンである私が最初に本編のサントラを聴いたのは、実に2000年の頭――CDそのものは1999年の発売である。映画よりもメセニーの愛好家のほうが多いと判断されたためか、日本での公開が決まる遙か以前にサントラの日本盤が発売された。アルバムとしてのクオリティも高いが、メセニーにこれ程のイメージを喚起させた小説と映画版、いやが上にも興味が湧こうというもの。
 ただ、映画に先駆けて発売された小説版は、心理描写が鬱陶しく途切れ途切れに読んでいるとその進行の遅さにうんざりさせられて、結局未だに読み終えていない。読み終えていないのに、映画の方が都内での上映を間もなく終了するという情報を聞きつけ、慌てて劇場に馳せ参じたというわけ。まったく慌ただしいことこの上ない。
 原作がいまいち肌に合わなかったこともあり、やや不安を抱えての鑑賞だったが、映画は意外にも、と言うより驚くくらいに見事な仕上がりだった。インディペンデント系らしく、派手さも悪戯な盛り上がりもないが、終始堅実で考えさせられるシナリオ。アメリカ映画らしいエンディングではないが、しかし物語は見事にアメリカという社会構造が抱える矛盾を摘出したうえで、甘えのない決着を選択していると評価できよう。ただ、その率直さと複雑さがあまりにもアメリカの生活に根ざしており、印象も地味であるために、本国での評価と裏腹にいまいち日本で話題にならなかったことも頷ける――勿体ないとは思うけど。
 幾つか不要と思われる描写も見受けられたが、シガニー・ウィーバーらの堅実な演技ぶりもあって、丁寧で落ち着いた、印象深い一本。メセニーの音楽の使い方も巧みで、ファンとしても満足でした。ああ、5.1チャンネルはやっぱり違う。

(2002/04/21・2004/06/22追記)


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