cinema / 『M:i:III』

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M:i:III
原題:“Mission: Impossible III” / 監督:J.J.エイブラムス / 脚本:アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー、J.J.エイブラムス / 製作:トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー / 製作総指揮:ストラットン・レオポルド / 撮影:ダン・ミンデル / プロダクション・デザイナー:スコット・チャンブリス / 編集:マリアン・ブランドン,A.C.E.、メアリー・ジョー・マーキー,A.C.E. / 衣装:コリーン・アトウッド / 第2班監督?スタント・コーディネーター:ヴィック・アームストロング / 視覚効果スーパーヴァイザー:ロジャー・ガイエット / 特殊効果コーディネーター:ダン・スディック / 音楽:マイケル・ジアッキノ / テーマ曲編曲:カニエ・ウェスト / 出演:トム・クルーズ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ヴィング・レイムス、ビリー・クラダップ、ミシェル・モナハン、ジョナサン・リス=マイヤーズ、ケリー・ラッセル、マギー・Q、サイモン・ペッグ、ローレンス・フィッシュバーン / 配給:UIP Japan
2006年アメリカ作品 / 上映時間:2時間6分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2006年07月08日日本公開
公式サイト : http://www.mi-3.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2006/07/01) ※先行上映

[粗筋]
 これまでに極限状態から繰り返し生還し、超A級のエージェントという評価を獲得していたイーサン・ハント(トム・クルーズ)だったが、いまは現場を退き、教官として後進の育成に努めていた。看護師のジュリア(ミシェル・モナハン)との婚約も決まり、かつてのような危険に身を投じる生活とは距離を置くようになっていた。
 だが、そんな彼のもとをIMF補佐官マスグレイブ(ビリー・クラダップ)が訪ねてきた。イーサンが自信を持って現場に送り出した教え子であるリンジー(ケリー・ラッセル)が任地において、追跡対象であったオーウェン・デイヴィアン(フィリップ・シーモア・ホフマン)の手の者に捕らえられたという。既に別途奪還チームが組織されたが、マスグレイブは思い入れの強い教え子のこととして、イーサンに加わるよう要請したのだ。
 悩んでいる時間はない。昔馴染みのルーサー(ヴィング・レイムス)を含む奪還チームに加わると、監禁されている施設に囮や罠を駆使して潜入、リンジーを発見する。だが、救出された彼女の様子は終始おかしかった。一刻も早くこの場を離れねばならないときに、イーサンだけに話したいことがあると盛んに言い、現場を離脱するヘリのなかで激しい頭痛にのたうち回った挙句、頭のなかに仕掛けられた特殊爆弾によって命を落とした……
 奪還するべきリンジーを死なせ、チームのひとりゼーン(マギー・Q)が回収してきたパソコンも黒こげ、本来の目的であるデイヴィアンの身柄はおろか情報のひとつも得られなかったイーサンたちの作戦行動を、上官であるブラッセル(ローレンス・フィッシュバーン)は痛烈に批判する。
 ゼーンの回収してきたパソコンから辛うじて発掘したメールに、デイヴィアンが“ラビットフット”なる兵器の情報取引のためバチカンでのパーティに出席する旨が記されていたことを知ると、リンジーの遺恨を果たさんとばかり、イーサンたちはローマへと赴く。
 四方を高い城壁に囲まれたバチカンへの潜入は容易ではなかったが、イーサンたちは巧みに策を弄し、パーティの開催される現場へと各個で乗り込み、デイヴィアンの身柄と“ラビットフット”の情報を見事に確保した。
 さすがにブラッセルも認めざるを得ない成果であったが、デイヴィアンの搬送中、戦闘機とヘリの襲撃に遭い、デイヴィアンは逃亡してしまった。去っていくデイヴィアンの姿を呆然と見送るイーサンの脳裏に、バチカンから移送中、彼による訊問を受けたデイヴィアンの台詞が蘇る。
「お前の愛する女の前で、お前を殺してやる」
 ジュリアが危ない。イーサンは彼女の安全を確保するべく疾走するが、そのあいだにも事態は悪化の一途を辿っていた……

[感想]
 恐らくどんな世代であっても、『スパイ大作戦』というTVドラマのテーマ曲は聞き覚えがあることだろう。この根強い人気を誇るTVドラマ・シリーズを下敷きに、トム・クルーズが自ら製作も兼ねて主演する劇場版シリーズの、本編は6年振りとなる最新作である。
 完成に至るまで、共演者の名前がじわじわと挙がってくる一方、監督がころころと入れ替わりファンをやきもきさせた本編だが、いざ仕上がった作品はこれまでのトム・クルーズ主演による2作品と比較して、最も『ミッション:インポッシブル』らしい作品になっていると感じる。
 ブライアン・デ・パルマ監督による第1作のような謎解きの要素は薄く、ジョン・ウー監督による第2作のような神憑りなアクションも少ないが、しかし全篇弛むことなく持続する緊迫感が凄まじい。まずプロローグ部分で、女性の命を楯に“ラビットフット”を要求されるイーサン・ハントの姿を描いたかと思うと、オープニングを挟んだあとでいったん時間を戻し、恋人との婚約を記念したパーティの様子が描かれる。そこへマスグレイブからの呼び出しがかかると、あとはほとんど息をつく暇もない。潜入、戦闘、駆け引き、そして背景に横たわるドラマとが入れ替わり立ち替わり繰り広げられ、2時間を超える尺をほとんど意識させないほど強烈に観る側を引っ張っていく。1回ごとに見せ場を用意して視聴者を牽引する必要の強いTVドラマの世界で監督・脚本として活躍してきたJ.J.エイブラムス監督の本領というべき側面であろう。
 注目したいのは、これまでになくイーサンという人物が掘り下げられていることである。第1作では謎解きの視点人物という趣が強く当人のバックグラウンドはやや軽んじられた趣があり、第2作はそのアクションがあまりに華麗すぎて人間離れした印象を齎していたが、本編では現場を退き、危険に直面することがないという安心からか恋人と家庭を作る決心までしている。結果的に、スパイが家族を持つことの難しさに直面し、このジレンマが危機また危機の本編の緊迫感をよりいっそう強めている。イーサンを除いて唯一シリーズ皆勤となったルーサーのよき理解者ぶりにブラッセルの石頭ぶり、教官と教え子という枠では語り尽くしているとは思えないリンジーとの関係性に、イーサンをして「昔の純粋さを思い出させてくれる」と言わしめる恋人ジュリアの純真な佇まいなど、綺麗に色分けされたキャラクターの存在感もまた物語を巧みに彩っている。こうした人物描写の巧さが、圧倒的なサスペンスをより盛り上げているのだ。
 ほぼ完璧に近い仕上がりのプロットと演出だが、贅沢を言えばクライマックスはもっと派手でも良かったように思われる。ただ、締め括りの見せ場にきちんと伏線が設けられており、カタルシスの演出という点では申し分のないひと幕であり、やはりこれはこれで正解であろう。少し丸く収まりすぎなエンディングも、このひと幕のあとだとスッキリとした後味を残す。
 何せ緊張感がほぼ頭からお尻までぴっちり詰まっているため、観終わったあとの疲労感も強い。だが、それに値するだけの満足感は齎され、観終わったあとにいっさい引きずるもののない、娯楽に徹した仕上がりは見事である。いずれも一定の評価を得ている第1作・第2作を受ける作品として良質であるのみか、『スパイ大作戦』の衣鉢を引き継いだシリーズとして、いちばん“らしさ”のある一本と言えよう。
 ――ただ、そう考えると、出来ればラストにはお約束のアレをもう一回やって欲しかった気はするのだが、まあそれは趣味の問題である。スリルとアクションを堪能してスッキリしたい、哲学的な主題や晦渋な描写は要らないからとにかく娯楽に徹した作品が観たい、という方には心からお薦めする。

(2006/07/02)


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