cinema / 『もうひとりいる』

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もうひとりいる
監修:清水 崇 / 監督・脚本:柴田一成 / プロデューサー:山口幸彦 / ライン・プロデューサー:鈴木浩介 / 撮影:早坂 伸 / 照明:原 春男 / 美術:橋本 優 / VFX・音楽:坂本サク / ビジュアル・モデル:大國千緒奈 / 出演:佐久間信子、世那、河辺千恵子、榊 英雄、諏訪太朗、稲田千花、松澤仁晶、津田寛治 / 配給:東京テアトル、キングレコード
2002年日本作品 / 上映時間:1時間1分
2002年12月07日公開
公式サイト : http://www.stingray-jp.com/mouhitori/
劇場にて初見(2002/12/14)

[粗筋]
 夏真っ盛り、都内にある廃校を貸し切って、新人グラビア・アイドルたちの撮影会が行われた。気丈で素直、いまいち噛み合わない3人のまとめ役になろうとしている上野瑞貴(佐久間信子)、自分の容姿の愛らしさをよく解っていて積極的だが我の強さが目立つ北条有香(河辺千恵子)、クールで万事反応に乏しいが、どうやら幼少の頃にロリータモデルとして活動したこともあるらしい島崎摩耶(世那)。マネージャーとして3人を紹介した井坂洋樹(津田寛治)に対し、雑誌編集者の滝本康則(諏訪太朗)は何かと難癖を付ける。そんな2人を後目に、カメラマンの山崎浩平(榊 英雄)とメーキャップ担当の倉橋晶子(稲田千花)は淡々と仕事をこなしていく。
 酷暑の校舎にて撮影が続くなか、一同のあいだに奇妙な気配が漂いはじめた。級に姿の見えなくなった井坂が、ひとり余計に彼らのまわりを徘徊しているような。現実主義者の山崎は意に介さないが、滝本はドッペルゲンガーの俗説――自分そっくりの人間を目撃した人は間もなく死んでしまう、という話を口にして少女たちを怯えさせる。
 やがて校舎のなかに井坂の姿を見た、と言い出して滝本は校舎に消えていく。停滞した状況に焦れた山崎らが行動を起こそうとした矢先に、突如頭上から巨大なものが落ちてきた。それは、不可解な格好に捻れた惨い姿で息絶えた井坂だった。視線を上げた彼らは、上の階から覗き込む滝本の姿を見る。
 少女たちの元に戻った滝本は、こっそりと服用していた薬の所為もあって半ば錯乱状態にあった。井坂が二人いた、という話を信じず警察への通報を進言する山崎らに被害妄想を募らせ、携帯していたナイフで脅して教室のひとつに監禁してしまう。異様な事態に少女たちは不安を隠せない。
 やがて、ドアの前で監視していた滝本の姿が見えなくなった。この隙に助けを呼ぼう、と言う山崎に対して、倉橋がその任を買って出た。
 廊下に出た彼女は、だが間もなくおかしな気配を察する。誘われるように入りこんだトイレで、彼女が見たのは――まさしく自分自身の姿だった。倉橋の見る前で、もうひとりの彼女は奇怪な変貌を遂げ、そして……
 倉橋の悲鳴に飛び出した山崎はトイレのなかに、倉橋の死体を見た。井坂と同様に、全身を異様な形にねじ曲げられた死体を。

[感想]
 Vシネマ『呪怨』シリーズを契機に、和製ホラー映画の旗手となりつつある清水 崇監督が初めて監修を務めた作品。これがデビュー作となる監督は清水氏と縁のある映像制作会社の販売担当者であり、のちに制作プロデューサーとなった人物でもある。だからどーなんだ、と訊ねられると非常に困るが。
 舞台を都心の廃校に限定しているため、いかにもインディペンデント映画っぽい雰囲気を纏っている。ホラーの舞台設定に、地方の廃校を使うのではなく都心の、しかも日中の校舎内を用意したあたり、却ってこうしたホラーへの造詣を窺わせて興味深い。闇に頼るのではなく、陽光が照りつける酷暑のなかで展開される怪奇現象が、「焦げ付くような」と形容したくなる一風変わった恐怖感を醸成しているのだ。
 学校特有の長い廊下や高い天井を利用したロング・ショットや、怪奇描写のために随所に導入した癖のあるVFXが特色となっているが、大作とはその使い方も異なり不思議な味わいがある。特殊効果と音楽を同一人物が担当しているという、映画では珍しい役割分担だが、そのお陰で双方のイメージに一貫性が保たれ、監督の演出技法と相俟って単純ながらスタイリッシュな映像に仕上がっている。こと、ドッペルゲンガーが殺した本体を指さして笑うシーンなど、そこだけ切り出すと滑稽なのだが、全体に収まるとおぞましい悪意を感じさせる描写となっていて巧い。
 自主制作映画の分野でキャリアを積んできた、というだけあって、短い尺の中に物語が綺麗に収まり、そつがない。ただ、折角のドッペルゲンガーという、手垢が付きながらも魅力を損なわないシチュエーションが、単純な怪物映画のガジェットのように扱われているのが勿体ない。加えて終盤の展開は想像しやすく、あまり捻りのない着地となってしまったためにどうもこぢんまりとした印象を受けた。
 物語にやや雑さを感じるものの、低予算と限られた舞台で如何にホラーを作るか、という方法論からすれば理想的な完成度と言えるだろう。……最大の難点は、この尺でしかもレイトショー上映なのに一般のミニシアター作品と同額の入場料を取られることかも知れない。せめて前売り1300円、当日1500円ぐらいにしてくれないと。

 インディペンデント系列のホラー映画、という観点から評価した本編だが、しかし本当のところは成長株のアイドルを贅沢に使ったプロモーション的中篇映画、とでも言った方が正しいような気がする。グラビア撮影会、という設定のお陰で、短い時間と限定された舞台ながらセーラー服に体操服、私服姿まで見せてもらえるのはそーとーお得である。

(2002/12/18)


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