cinema / 『猟奇的な彼女』

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猟奇的な彼女
原題:“My Sassy Girl” / 監督・脚本:クァク・ジョエン / 原作:キム・ホシク(日本テレビ出版部・刊) / 製作:シンシネ / プロデューサー:パク・クォンソプ、シン・チョル / アソシエイト・プロデューサー:チェ・スヨン、ソ・ユンヒ / 音楽:キム・ヒョンソク / 撮影:キム・ソンボク / 美術:ソン・ユンヒ / 編集:キム・サンボム / 出演:チョン・ジヒョン、チャ・テヒョン、キム・インムン、ソン・オクスク、ヤン・グムソク、ハン・ジンヒ、ヒョン・スキ、キム・イル、イム・ホ / 配給:Amuse Pictures
2001年韓国作品 / 上映時間:2時間2分 / 字幕:根本理恵
2003年01月25日日本公開
2003年07月25日DVD日本発売 [amazon]
公式サイト : http://www.ryoukiteki.com/
日比谷シャンテ・シネにて初見(2003/02/01)

[粗筋]
 七歳になるまで女の子のように育てられ、恋愛漫画のヒロインを理想とし、好みのタイプは積極的にナンパしようとするもタイミングの合わない、何にしてもいまいち風采の上がらない青年・キョヌ(チャ・テヒョン)。彼の波瀾万丈の生活は、ある日偶然に始まった。
 怒ると手に持っているものでキョヌを殴打する母(ソン・オクスク)に急きたてられて、久し振りに叔母に会いに行く途中。ホームの端から爪先が出るような危険な状態で電車待ちしている女の子(チョン・ジヒョン)を見かけたキョヌは、咄嗟に後ろに引いて彼女を助ける。酔っぱらいは苦手だが、容姿だけは好みのタイプだった彼女を車中でも眺めていると、この女やることなすこと無茶苦茶である。老人を前に不貞不貞しく座席を占領する若い男を叱りとばし、座った老人の頭上に嘔吐し、何故かキョヌのほうに向かって「ダーリン」と呼び掛けて酔い潰れてしまった――最後のが決め手ですっかり乗客全員から彼氏扱いされてしまったキョヌは不承不承彼女を負ぶさり、当初予定していた駅で降りたあと近場の旅館に連れて行って介抱するが、最後にはどこかの事件の巻き添えを食って、押し込んできた警官に拘束され留置所に入れられて世を明かす羽目になる。
 あんな女の子と付き合うのはもう懲り懲りだ、と思っていたら翌日、当の彼女から携帯電話に連絡が入り、呼び出されてしまう。なにか不興を買ったか、と戦々恐々とするキョヌを喫茶店に連れ込んで勝手にコーヒーをおごらせるわ、ついで訪れた居酒屋では隣席で援助交際を始めたと思しい女の子ふたりを罵倒し、何杯も酒をかっくらって「わたし、昨日好きな人と別れたの」と告白し泣き崩れたかと思うとふたたび酔い潰れ、――結局、昨晩と同じ旅館の厄介になるのだった。
 眠る彼女に酔い止めを飲ませ、子供のような寝顔を眺めながらキョヌは漠然と、彼女が抱えているらしい心の傷を癒してあげられたらいい、と思う。
 それから、ふたりの付き合いはなし崩しに継続する。果てもなく彼女に翻弄されるキョヌの運命や如何に。

[感想]
 書き続けたらきりがないのでここらへんで切っておこう。更に凶悪さを増す彼女の行動と顛末については劇場で直接ご確認ください。
 最初にひとつ粗をあげておこう。感情の変遷を描こうとしたわりには、ひとつひとつの言動が唐突で意味不明になっている箇所が多い。真面目に解釈しようとして損をした、というパターンが少なくなかったし、多分に単なる受け狙いだけの言動が多かったように感じた。
 が、換言するとそれだけ細かい笑いに気遣っている、とも言える。こうして繰り出される細かいジャブが、妙に楽しい雰囲気を醸し出して観賞後まで余韻を残す。
 ……それ以外の部分で、文句の付け所は思い浮かばない。独創性、展開の妙、丁寧な伏線と最後のサプライズに至るまで、完璧の一言に尽きる。インターネット上で連載されていた、あまりにインパクトの強い女の子の話が元になっているというが、その点だけに甘えず物語としての道筋を作り、更にツイストまで施しているあたりに拘りが光っている。
 演出面でも、常道を踏まえながら次の場面では微妙に逸らす、というテクニックを連発して最後までまったく飽きさせない。破天荒なヒロインの造型、切ないクライマックスと驚きの結末、これだけ押さえているだけでも大したものだと思うが、映像的にも演出的にも見所が多く、話題性以前に映画として出来が非常にいいのだ。
 キスやセックスそのものを直接描かずに「恋愛」を描いた、という点においても稀有な成功例。ハリウッドにリメイク権が売却されたそうだが果たしてあちらの感性でこのバランス感覚が再現できるか、と首を傾げるほどの傑作。やー、参りました。リメイクなんか待たずに、劇場でもビデオでもオリジナルにまず触れておくことを強くお薦めします。

「猟奇的」と呼ばれる彼女がその実非常にチャーミングであることは言うまでもないが、個人的にはうだつの上がらない主人公キョヌに親近感抱きっぱなしで、それが楽しかった。お馬鹿な行動が目立つのだがそのお馬鹿っぷりが素直で憎めないのだ。ただ、本国で女性相手に行われたアンケート「デートしてみたい男性タレント」No.1になったというのは……この映画がきっかけとなった一位であるならばどうだろう。なにか疑問を感じないか韓国女性。

(2003/02/01・2003/07/24追記)


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