cinema / 『NIN×NIN 忍者ハットリくん・ザ・ムービー』

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NIN×NIN 忍者ハットリくん・ザ・ムービー
原作:藤子不二雄A(小学館、ブッキング・刊) / 監督:鈴木雅之 / 製作:森 隆一、亀山千広、荒井善清、島谷能成、亀井 修、柴田克己 / 企画:遠谷伸幸、千野毅彦、関 一由、大多 亮 / 企画協力:飯島三智 / プロデューサー:福山亮一、和田 行、宮澤 徹、瀧山麻土香、和田倉和利 / アソシエイトプロデューサー:黒田知美 / ラインプロデューサー:山本 章 / 脚本:マギー / 撮影:高瀬比呂志 / 照明:松岡泰彦 / 美術:清水 剛 / 編集:田口拓也 / 画コンテ:ヒグチしんじ(樋口真嗣) / 特撮監督:尾上克郎 / VFXプロデューサー:大屋哲男 / VFXディレクター:西村 了 / VFXスーパーヴァイザー:田中貴志 / 音楽:服部隆之 / 出演:香取慎吾、田中麗奈、ゴリ(ガレッジセール)、知念侑李、戸田恵子、浅野和之、宇梶剛士、東 幹久、草g 剛、川田 広樹(ガレッジセール)、酒井敏也、村上ショージ、乙葉、瀬戸朝香、大杉 蓮、西村雅彦、田中要次、升 毅、伊東四朗 / 「NIN×NIN 忍者ハットリくん・ザ・ムービー」製作委員会:電通、フジテレビジョン、GENEON ENTERTAINMENT、東宝、小学館、日本出版販売 / 制作プロダクション:シネバザール / 配給:東宝
2004年日本作品 / 上映時間:1時間41分
2004年08月28日公開
公式サイト : http://www.nin-nin.com/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2004/09/20)

[粗筋]
 三重県の山奥深い場所にある伊賀の里。戦乱の頃には忍術の里として栄えていたこの地にも、伝統を引き継ぐのは服部一族のみとなってしまった。その後継者である服部カンゾウ(香取慎吾)は父であり師匠でもあるジンゾウ(伊東四朗)から、修行のために江戸へと赴くように命じられる。そこで初めて出逢った人物を主と定め、命を賭けてお守りせよ――しかし、他の者には決して姿を見られてはならない。もし見咎められたならば即刻破門とする。
 早速江戸――東京を訪れたカンゾウが最初に出逢ったのは、ごく平凡な小学生・三葉ケンイチ少年(知念侑李)。困惑する彼に対して、カンゾウは強引に主従の誓いを立ててしまった。
 そのケンイチ少年、学校ではクラスメイトから見下され、自分でも運動音痴を自認して一緒に遊ぶことさえ諦めている、ちょっと卑屈な男の子だった。どうやらカンゾウが本物の忍者らしいということは理解出来たけれど、身の危険を感じるどころか身の置き所さえ信じられないケンイチは、カンゾウの存在がいささか鬱陶しかった。
 同じころ、謎の連続傷害事件が世を騒がせていた。最初は警備員が、続いて屋台のラーメン屋が襲われ、謎の毒物によって意識不明の重体に陥った。被害者の手には奇妙な刺青があり、彼らの傍らには細長い特殊な形状の刃物が転がっていた。かつて日光江戸村でバイトしていたという柏田刑事(東 幹久)は“忍者”の関連を上司に仄めかそうとするが、田原警部(宇梶剛士)はまっったく聞く耳を持たない。
 そんなある日、産休に入った担任の代わりに佐藤という先生がケンイチのクラスにやってくる。洗礼代わりに生徒たちが投げつけた消しゴムの破片をすべてキャッチし、缶蹴りでは圧倒的な強さを見せつけた佐藤のことをケンイチから報告されたカンゾウは、懇願してケンイチの教室を訪れる――佐藤の正体は、カンゾウの宿敵である甲賀忍者・ケムマキケムゾウ(ゴリ)だった! かつての一騎打ちで不本意な敗北を喫したカンゾウは勝負を挑むが、ケムマキは自分を含めた多くの甲賀忍者が既にその伝統を捨てて野に下ったことを告げ、戦う気がないと応える。カンゾウは半信半疑のまま刀を収めるのだった。
 子供達に混ざって遊び、活躍しているケムマキ=佐藤先生の姿をどこか羨ましそうな目で見つめるケンイチを、ケムマキは缶蹴りに誘う。渋々輪に交ざるケンイチだったが、やはり勇気が出なくて、ケムマキが着々と子供達を見つけていくなか、最後のひとりになるまで顔を出せない。既に捕まったほかの子供達から非難の声が上がりはじめたとき、ケンイチはかつてカンゾウの口にした言葉を思い出す。「やりもしないで諦める方がカッコ悪いでござる」――ケンイチは見よう見まねでカンゾウの忍術を応用し、見事ケムマキに勝利する。その瞬間、ケンイチは本当の意味でカンゾウを受け入れたのだった……

[感想]
 最初に製作が告知されたときは「冗談だろ」と思いました。まともな代物になるはずもない、と思っていました。が、色々感じるところがあって鑑賞したところ……なかなか悪くない仕上がりでした。
 そもそも印象を変える理由は、監督がドラマ『古畑任三郎』や『HERO』を手がけ、昨今の連続ドラマにある潮流のひとつを完成させた演出家のひとりである鈴木雅之、脚本がお笑い集団ジョビジョバの演出を手がけ、『SMAP×SMAP』のコント台本なども執筆したマギーが担当している、という話を聞いたことにあった。加えて、うるさ型に属する人々の評価も漏れ聞く限りでは悪くない。それでもなお半信半疑で劇場を訪れたのですが、そういう意味ではなかなかに快い裏切りっぷりでした。
 変と言えば変なところは沢山ある。忍術に絡む運動能力の非現実性は許容するにしても、最初にケンイチ少年とハットリくんが出会う経緯が序盤の説明と食い違っているとか、ケンイチ少年がハットリくんを受け入れるようになる筋にいちいち無理があるとか、上の粗筋のあと表舞台に登場するマドンナ的存在・みどり(田中麗奈)の設定が少々超人的であること、などなど。
 が、その辺を粗として否定材料にするのは基本的に正しい姿勢とは言えまい。本編はあくまで、忍者という設定を子供向けにアレンジして導入した漫画を原作とする、いわば実写で描かれた“漫画”である。誇張された忍術やいささか現実離れしたシチュエーションなどは、物語を個性的にするためのアクセントに過ぎず、そういう作品を鑑賞しているときにいちいち気に掛かる点に否定的意味合いでつっこみを入れるのは単なる野暮だろう。
 一連の不自然さをお約束として許容してしまえば、寧ろそうしたお約束を巧妙に活かした娯楽映画と言え、その意味での完成度は非常に高い。主君以外には姿を見せてはいけない、けれど腹は減るのでケンイチくんのいない自宅を放浪して見知らぬ電化製品の立てる音や動作に困惑するハットリくんの姿。伊賀と甲賀の対立を背景にした、ハットリくんとケムマキのやり取りと事件の推移。別々に流れていたふたつのエピソードが合流する、簡単ながらカタルシスを齎す構成の妙。
 可能な限り実写を使用し、しかし必要な場面では徹底的にCGを用いて描かれた忍術やアクション・シーンの迫力もなかなか見応えがある。一連の場面を支えるキャラクターがそれぞれに完成され、また役者陣の動きもそれに見合ったものになっているからこそである。
 全体のエピソードがバラバラなままで、決して充分に纏まらないのが少々不満だが、キャラクター同志の絡みが随所で細かなコントを組み立てており、それぞれでは飽きさせることがない。特に一見傍流にある刑事ふたりに、一連の事件でなぜか立て続けに目撃者になってしまう男とのやり取りは物語にとって絶妙なアクセントとなっている。もともとお笑い中心の舞台を手がけ、コント台本も執筆していた脚本家の面目躍如というところだろうか。
 言ってみれば本編は、膨大な予算と贅沢なスタッフ・キャストによって仕上げられた、大人でも(その分野に理解があれば)楽しめる特撮映画である。堅いことは言わずに、子供が素直に成長していくファンタジーを味わいましょう。

(2004/09/20)


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