cinema / 『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』

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パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち
原題:“Pirates of Caribbean : The Curse of the Black Pearl” / 監督:ゴア・ヴァービンスキー / 脚本:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ / 原案:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ、スチュアート・ビーティー、ジェイ・ウォルバート / 製作:ジェリー・ブラッカイマー / 製作総指揮:ポール・ディーソン、チャド・オーメン、マイク・ステンソン、ブルース・ヘンドリックス / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー,A.S.C. / プロダクション・デザイン:ブライアン・モリス / 編集:クレイグ・ウッド、スティーブン・リヴキン,A.C.E.、アーサー・シュミット / 衣装デザイン:ペニー・ローズ / 視覚効果スーパーヴァイザー:ジョン・ノール / 特殊視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 音楽:クラウス・バデルト、ハンス・ジマー / 音楽監修:ボブ・バダミ / 出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ、ジョナサン・プライス、ジャック・ダヴェンポート、リー・アレンバーグ、マッケンジー・クルック、ケヴィン・R.マクナリー、ゾーイ・サルダナ、トレヴァ・エチエンヌ、デヴィッド・ベイリー、アイザック・C.シングルトン,JR、ギルス・ニュー、アンガス・バーネット、マイケル・ベリー,JR. / 配給:BUENA VISTA INTERNATIONAL(JAPAN)
2003年アメリカ作品 / 上映時間:2時間23分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2003年08月02日日本公開
2005年12月21日DVD日本最新盤発売 [amazon]
公式サイト : http://www.disney.co.jp/movies/pirates/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2006/07/14) ※イベント上映

[粗筋]
 18世紀。海賊に憧れる少女エリザベス・スワンは、父ウェザビー・スワン(ジョナサン・プライス)との渡航中、船が襲われ漂流していた少年ウィル・ターナーと遭遇する。沈没した船の救援に慌ただしい他の乗組員たちに代わってウィルを介抱していたエリザベスは、彼の首に髑髏をあしらったメダルが下がっているのを目にして胸をときめかせる。だが、船の沈没に海賊が関わっているらしい、と息巻いている父たちの姿に、エリザベスはメダルを咄嗟に自分の懐へと隠してしまう。
 それから8年。未だメダルを大切に身近に携えたまま美しく成長したエリザベス(キーラ・ナイトレイ)は、軍の新たな提督に就任するノリントン(ジャック・ダヴェンポート)に求婚された。一緒に成長し、いまは街の鍛冶屋に弟子入りしたウィル(オーランド・ブルーム)へのほのかな想いも抱えていたエリザベスはその驚きで――というよりは、就任式のために無理をして着たコルセットの苦しさに、城から海へと転落してしまう。
 そんなエリザベスを救ったのは、ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)という奇妙な男。一目で彼が海賊であることを見抜いたノリントンは逮捕しようとするが、ジャックは人を食った言動と機敏な動きで軍隊を撒く。だが、偶然迷い込んだ鍛冶屋でウィルと戦いを繰り広げた挙句に、思わぬ展開で昏倒、結局捕らえられてしまう。
 その晩、ポート・ロイヤルを惨劇が見舞った。バルボッサ船長(ジェフリー・ラッシュ)の指揮する“ブラックパール号”が突如として襲撃を始めたのである。阿鼻叫喚のなか、バルボッサの部下ピンテル(リー・アレンバーグ)とラゲッティ(マッケンジー・クルック)に襲われたエリザベスは彼らの目的が自分の持つメダルにあることを察し、“パーレイ”――海賊特有の取引を要求する。この要求が為されたとき、海賊は長同士の交渉が終わるまで相手に手出しは出来ない。そうして生じた停戦状態に加え、メダルとポート・ロイヤルの安全とを交換するために、エリザベスは“ブラックパール号”に赴く。
 当初は彼女を侮っていたバルボッサ船長だったが、エリザベスが総督令嬢という身分を隠すために咄嗟に偽ったエリザベス・ターナーという名前に、バルボッサ船長は食いついた。ポート・ロイヤルからの撤退を約束する代わり、彼女を解放することなく出航したのだった。
 エリザベスが攫われるさまを目撃したウィルは、スワン総督やノリントン提督にすぐさま救出に向かうよう訴えるが、行く先が解らなくては迂闊に船を出せない、と難色を示す。だがそのとき、兵士が口にした言葉――あの男なら行く先が解るかも知れない――に縋って、ウィルは牢獄に囚われたジャック・スパロウに助けを求める。最初こそ乗り気でなかったジャックも、バルボッサ船長の名に忽然と意欲を見せた。
 ウィルの手を借りて脱獄したジャックは、巧みな策略によって軍最速の船・インターセプター号を略奪すると、勇躍海へと乗り出していく。目指すは“ブラックパール号”が根城とする、“死の島”――

[感想]
 最初の劇場公開時に見逃し、最初のDVDリリース時に購入はしたものの、私より観たがっていた両親に先に見せて「面白かった」という評価を聞いて納得してしまい、結局観る機会を逸したまま第2作の公開が迫ってしまった。これに合わせて、六本木にてジョニー・デップ出演作を金曜日深夜に2本ずつかける特別イベントが催され、その第1回がシリーズ1作目と最新作とを立て続けに上映する内容だったのを好機と捉え、ようやく鑑賞した次第である。
 結論から言えば、確かに面白かった。優秀なアトラクション風の娯楽映画に仕上がっている。
 原型はディズニーランドの人気アトラクション“カリブの海賊”である。私はさほど入ったことはないので詳しくは検証できないが、随所にアトラクションの演出を模した場面があるそうだ。だが、本編が優秀であるのは、話の組み立てや演出の結果として齎されるカタルシスが、見事にアトラクションのような爽快感を備えている点にこそあると思う。
 細部は荒唐無稽なのである。狂言廻しの役を務めるジャック・スパロウ船長からして、登場は沈みかけた船に乗ってであり、ポート・ロイヤルに着いた頃にはマストだけが海面に出ている状態になっている。その彼が追われるようになり、やがてウィルと剣を交える際、工房にある機材の扱い方はほとんど曲芸であるし、囚われた牢獄から脱出し、ウィルと二人で海に乗り出すまでの経緯などはもうまるっきりアスレチックのようだ。
 だが、続けざまの窮地をそうした曲芸的な手法で乗り越えていく痛快感は、昨今の大作映画ではなかなか観られなかったものだ。最終的に物語は様々な要素が絡みあって、何処に決着があるのか解らない大混戦へと陥っていくが、その大混乱のなかでも見応えはあるし、きちんと明確な下げどころを用意しているのが素晴らしい――いささか理由付けが不充分であることは否めないまでも、“約束”として明確な伏線が提示されている出来事であるので、カタルシスはきちんと確保している。
 しかし本編を魅力的にしているのは、他の何よりもジョニー・デップ演じるジャック・スパロウ船長であることは誰しも認めるところだろう。まるで酔っ払いのような身振りで能弁に語り、だが口にしていることのほとんどの真偽は定かではない。だがそのハッタリの利いた態度とメリハリの豊かな表情とが、この男になら騙されてもいい、という気分にさせてしまう。はじめから海賊に対して憎悪や偏見のあるノリントン提督はともかく、海賊に憧れを抱いていたエリザベスを呆れさせ、生真面目なウィルを困惑させ、しかし最後には惹きつけてしまう強烈な個性は出色である。海賊の舌先三寸の生き様を誰よりも色濃く体現しながら、完璧な悪党になりきっておらず、やたらと憎めないキャラクターになっていることも賞賛に値する。キャラクターの肉付け自体が優れていることも間違いないが、やはり最大の功労者は彼を演じるジョニー・デップである。受賞こそ逃したものの、アカデミー賞の候補に挙がったのも充分に頷ける名演であり、老若男女問わず愛される異色の“アンチ・ヒーロー”として見事に完成されている。
 海賊という、本質的に犯罪者である設定を礎とした物語にしてはいささか綺麗すぎる決着も、だがそんなジャック・スパロウ船長のキャラクター性や、終始痛快感を重視した話運びが正当化している。まさに観ていて興奮、展開は痛快、終われば爽快の、極めて良質なアトラクション・ムービーである。ちょっとひねた大人でも、これが楽しくないとは言えないはずだ。

(2006/07/16)


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