/ 『プレッジ』
『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻るプレッジ
原題:THE PLEDGE / 原作:フリードリッヒ・デュレンマット / 監督・製作:ショーン・ペン / 製作:エリー・サマハ、マイケル・フィッツジェラルド / 脚本:ジャージー・クロモロウスキ、マリー・オルソン=クロモロウスキ / 撮影監督:クリス・メンゲス / 編集:ジェイ・キャシディ / 美術:ビル・グルーム / 衣裳:ジル・オハネソン / キャスティング:ドン・フィリップス / 音楽:ハンス・ジマー、クラウス・バーデルト / 出演:ジャック・ニコルソン、ロビン・ライト・ペン、サム・シェパード、ベニチオ・デル・トロ、アーロン・エッカート、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ミッキー・ローク、ディーン・スタントン、ヘレン・ミレン / 制作:フランチャイズ・ピクチャーズ / 配給:GAGA
2001年アメリカ作品 / 上映時間:2時間3分 / 字幕:松浦美奈
2002年06月29日日本公開
2003年01月25日DVD日本版発売 [amazon]
2003年11月27日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.gaga.ne.jp/pledge/
恵比寿ガーデンシネマにて初見(2002/08/31)[粗筋]
その日、ジェリー・ブラック(ジャック・ニコルソン)は永年勤め上げた刑事の職を引退することになっていた。引退パーティーでは同僚たちの拍手で迎えられ、餞別に全署員のカンパで購入したメキシコまでの航空券を受け取って、心置きなく趣味の釣り三昧の暮らしに入るはずだった――もし、その事件の一報に気づかなければ。
雪に覆われた山中で、8歳の少女が暴行を加えられ、性的凌辱を受け、喉を切り裂かれた無惨な姿で発見された。正規の捜査官でさえ正視を躊躇う惨い反抗のために、初動捜査に就いた警官達の足並みも乱れ、被害者の家族に対する報告も行っていなかった。見るに見かねたジェリーは、最後の仕事と割り切って家族の許に向かう。
少女の家族の悲嘆は目を覆いたくなるほどだった。必ず犯人を捕まえて欲しい、という母の言葉に、ジェリーは「約束する」と頷く。だが、少女の母親はそれだけでは納得しなかった。少女が作ったという十字架をジェリーに突き付け、「これに誓えますか」と迫る。「誓う」と応えるほかなかった。
検問が奏功して、その晩のうちに容疑者が署に連行された。男の名はトビー・ジェイ・ワデナ(ベニチオ・デル・トロ)、レイプなどの前科を持つ、知的障害のあるインディアンだった。ジェリーの後輩に当たる刑事スタン(アーロン・エッカート)の訊問にあっさりと「レイプした」「殺した」と応えるワデナだが、モニター越しに見るジェリーの目には訳も解らず適当に応えているとしか思えなかった。留置所に護送される途中、ワデナは警官の腰から銃を奪い、「俺が殺した」と叫びながら銃口をくわえ、引き金を引いた。
翌朝、空港でメキシコ行きの便を待っていたジェリーだったが、どうにも違和感が拭えない。最終的に飛行機を見送り、返す足で殺された少女の祖母(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)を訪問する。少女の人柄と、殺害される前の行動から犯人――ワデナではない、真犯人の痕跡を嗅ぎ取ろうとしたのだ。
少女の親友に会い、スタンに懇願して類似した未解決犯罪を探り出し、ジェリーはこれが連続殺人であると確信し、上司であるエリック(サム・シェパード)に再捜査を願い出る。だがエリックは一笑に付し、ジェリーの行動を新しい生活に馴染めないが故のストレスから来るものだと決めつけて取り合わない。しかし、少女の母親と約束したジェリーが引き下がることはなかった。彼は過去の犯行を鍵に、密かに網を張り巡らせる――[感想]
先のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたショーン・ペンが、ノミネート作と同年に手掛けた監督第三作。自らは全く顔を出さず、かわりに「ホームランバッター」と評される名優・怪優が名前を連ねており、キャストの名前だけでも壮観である。しかも使い方が憎い。全編に渉って登場するのはジャック・ニコルソンのみ、アカデミー助演男優賞を獲得したデル・トロも先のアカデミー賞で助演女優賞候補となったヘレン・ミレンも10分たらずの登場、しかもあのミッキー・ロークが名前も思い出せないようなちょい役で出ているりもまた凄い。
だが、これこそ監督の力と感じるのは、そんなちょい役であっても印象に残らない人物が殆ど存在しない点である。決して派手さはないが、独特の乾いた色調と幾分変わったカメラ配置から人物を捉え、些細な台詞からも過去や背景を匂わせ印象づける演技と演出をしている。表情さえ変えて挑んだデル・トロはもとより、本当にワンシーン、物語全体を通しても鍵とならないような役柄の人物でさえ記憶の片隅に残りそうな気がするのだ。
作中モノローグを一切排除し、唐突な行動にも殆ど説明を施していないのだが、それでも一見普通の暮らしを始めたように見えながら次第次第に常軌を逸していくジェリーの姿が納得のいく形で描かれている。意味不明に見えた行動が、続く場面で関連づけられた瞬間は背筋が凍るような心地さえする。
前述のように派手さはなく、その経過も結末も悲劇としかいいようのない代物のため、恐らく万人に受けるものではない。だが、迎合を避けながら決して難解にせず、後味の悪さよりも深い余韻を留めるはずのこの結末は一見に値する。こと、ミステリ愛好家には是非ともお薦めしたい――ミステリという手法の極地には、間違いなくこういう結末も有り得るのだ。
斯くも簡単に人は壊れてしまう、ということをシンプルかつ巧妙に描き出した名作。凄いぞショーン・ペン。
それにしても、後半で出てくる子役の名前がプログラムに書いていないのが痛かった。あんな可愛いのにー。(2002/08/31・2004/06/23追記)