/ 『ポロック 二人だけのアトリエ』
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『light as a feather』トップページに戻るポロック 二人だけのアトリエ
原題:“POLLOCK” / 原作:スティーヴン・ネイファー&グレゴリー・ホワイト・スミス / 監督・主演:エド・ハリス / 脚本:バーバラ・ターナー、スーザン・J・エムシュウィラー / 製作総指揮:ピーター・M・ブラント、ジョゼフ・アレン / 製作:フレッド・バーナー、エド・ハリス、ジョン・キリク / 撮影監督:リサ・リンズラー / プロダクション・デザイン:マーク・フリードバーグ / 編集:キャスリン・ヒムオフ / 衣装デザイン:デイヴィッド・C・ロビンソン / オリジナル・スコア:ジェフ・ビール / 音楽スーパーバイザー:ドンディ・バストーン / 主題歌:トム・ウェイツ / 絵画指導:リサ・ローリー / 出演:マーシャ・ゲイ・ハーデン、エイミー・マディガン、ジェニファー・コネリー、ジェフリー・タンパー、バド・コート、ジョン・ハード、ヴァル・キルマー、ロバート・ノット、マシュー・サスマン、サダ・トムソン、ノーバート・ウェイサー / 配給:Sony Pictures
2000年アメリカ作品 / 上映時間:2時間3分 / 字幕翻訳:川本Y子
2003年11月01日日本公開
公式サイト : http://www.spe.co.jp/movie/pollock/
日比谷シャンテ・シネにて初見(2003/11/15)[粗筋]
1941年、兄のサンド(ロバート・ノット)夫妻と共同で暮らすジャクソン・ポロック(エド・ハリス)のアトリエを、ひとりの女性が訪れた。グレアム企画展で一緒に名前を連ねる予定の彼に興味を抱いたその女性リー・クラズナー(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は一目でその才能を認めるとと、いつでも自分のアトリエに来て欲しい、と住所を置いていく。だが、ポロックが彼女のもとを訪ねたのは実にそれから三週間後のことだった。
才能を認め合った二人が惹かれ合うのは早く、徴兵忌避のため地方で軍需産業に就くことを決めた兄夫婦がアパートを出て行くと、入れ替わりにリーがポロックの生活の一部となった。誰よりもポロックの才能を認めていたリーは彼を積極的に周囲に売り込みはじめる。やがて彼のアトリエを訪ねたハワード・ピュッツェル(バド・コート)の登場が、ポロックの運命を本格的に動かした。ポロックの絵画に魅了されたハワードは、富豪の娘であり西洋アートの信奉者であった画商ペギー・グッゲンハイム(エイミー・マディガン)に紹介、彼女の協力により遂にポロックは初の個展を開催するに至った。ペギーの新居のために描いた壁画の評価も上々で、ポロックはモダン・アート界の寵児としての道を歩み始めていた。
一方で、ポロックの生活は破綻を来しつつあった。徴兵免除の理由ともなったアルコール中毒が悪化し、路上で寝起きしたりペギーの家に泊まったりと長いあいだ自宅に戻らないという生活が続いた。やがて憔悴しきって帰宅したポロックをリーは黙って受け入れる。
だが、リーはニューヨークでの生活に限界を感じ始めていた。サンド夫妻の提案も受けて、ロング・アイランドへの移住をポロックに勧めながら、リーは自分との暮らしに何らかの決断をするようポロックに求める。別れるか、さもなくば結婚するか――ポロックは後者を選んだ。
郊外の農家を買い取り、犬や烏を拾ったり家庭菜園を作ったり、ニューヨークでは不可能だった伸びやかな生活が始まると、ポロックの状態はしだいに改善していった。医者の指導によりようやく酒を断ち、画家としても新しい手法を発見したことで限界を突き破る。順風満帆に見えたポロックだった、が……[感想]
久々に「静か」なドラマを見た。ナレーションを廃しBGMを抑え、会話も最小限に留めた映像は淡々と流れていき、凪いだ水面のように穏やかだ。
あくまで実在の人物の半生をなぞっているため、カタルシスを意識した伏線とか、ストーリー全体としてのまとまりはない。ジャクソン・ポロックという人物がリー・クラズナーとの出会いを契機に画壇で名を為していく姿を、折々の出来事を拾いながら描いていくという形を取っている。場面ごとに説明を添えることもしていないため、しばしば何が起きているのか、先のシーンから何時間か何日か後の出来事なのか把握しづらくなる。ジェットコースターのような展開や随所にちりばめられた小細工や伏線などに慣れきった目には退屈に映るだろう。
だが、ポロックという人物の芸術的視野や私生活での苦悩、そんな彼と共同生活を送るために様々な覚悟を決め、懸命に順応していったリー・クラズナーの姿は実に見事に描かれている。ポロックの絵画には馴染みのない私だが、それでもどうしてああいう画風に発展していったのか、何を籠めようとしていたのか解る(ような気分にさせられる)。
まだアルコール中毒の影響も少なく、不器用ながら精気に満ちていた時分から、次第にアルコールに犯され憔悴していった姿、そしてロングアイランドで人間性をいちどは取り戻し、再び壊れていくまでを巧みに演じたエド・ハリス、そしてその変遷に合わせて芸術家にもなりマネージャーにもなり、悲劇的な暮らしに疲れ果てた妻までを完璧に表現したマーシャ・ゲイ・ハーデン、この二人によって意義を与えられた映画と言ってもいいだろう。抽象的な芸術というものに身を窶した男と彼を愛した女のさまを感じて欲しい。プログラムで確認するまで全く意識していなかったが、実は本編、アカデミー賞を獲得している。妻のリー・クラズナーを演じたマーシャ・ゲイ・ハーデンが助演女優賞を戴き、エド・ハリス自身も主演男優賞にノミネートされている。
それほどの話題作なのに、本国での公開から日本での公開まで二年を費やしたのは……やっぱり、地味すぎたからなんでしょうね。単館じゃないと入らないもの、これ。(2003/11/15)