cinema / 『僕はラジオ』

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僕はラジオ
原題:“Radio” / 監督:マイク・トーリン / 脚本:マイク・リッチ / 製作:マイク・トーリン、ブライアン・ロビンズ、ハーバート・W・ゲインズ / 製作総指揮:トッド・ガーナー、ケイトリン・スキャンロン / 撮影監督:ドン・バージェス,A.S.C. / 美術監督:クレイ・A・グリフィス / 編集:クリス・レベンゾン,A.C.E.、ハーベイ・ローゼンストック,A.C.E. / 音楽:ジェームズ・ホーナー / 衣装デザイナー:デニス・ウィンゲート / 出演:キューバ・グッディングJr.、エド・ハリス、アルフレ・ウッダード、S・エパサ・マーカーソン、デブラ・ウィンガー、クリス・マルケイ、サラ・ドリュー、ライリー・スミス / 配給:Sony Pictures Entertainment
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:松崎広幸
2004年09月25日日本公開
公式サイト : http://www.sonypictures.jp/movies/radio/
日比谷シャンテ・シネにて初見(2004/10/09)

[粗筋]
 1976年のアメリカ、サウスカロライナ州アンダーソンという小さな町。ハナ高校の運動部主任として同校の名門フットボール部イエロージャケッツのコーチを務める教師ハロルド・ジョーンズ(エド・ハリス)は、一人の青年に目を留めた。ショッピングカートを押して町中を徘徊する彼は、ある日グラウンドのそばに現れ、練習風景を眺めていた。ジョーンズは別段問題には思わなかったのだが、一部の生徒はカートの彼がグラウンドの外に出たボールを何気なく持ち去ってしまったことを根に持って、彼を虐める。偶然その場を目撃したジョーンズは生徒たちに罰を与えるとともに、彼に何かしてやれないかと考えて、その結果、彼をフェンスの内側に招き入れることにした。
 はじめは激しい人見知りをしてろくに口も利かない彼を、常にラジオを持ち歩いていることからラジオ(キューバ・グッディングJr.)と呼んだジョーンズは、彼に練習の手伝いを頼んだ。ダニエルス校長(アルフレ・ウッダード)の危惧をよそに、ラジオは少しずつ自分の仕事に馴染んでいき、同時に口数も増え快活になっていった。
 ジョーンズはラジオの母・マギー(S・エパサ・マーカーソン)にも相談のうえ、ラジオを遠征試合にも一緒に連れていくつもりだったが、ダニエルズ校長にやんわりと止められる。生徒でない人間があちこちに顔を出すことを快く思わない人間もいる、と。
 選手にも恵まれていると言われた今シーズン、しかしイエロージャケッツの成績は五割に終わった。試合後恒例になっている理髪店での後援者とのミーティングで、フランク(クリス・マルケイ)から彼の存在が邪魔になっている、と仄めかされて、ラジオに対する視線の厳しさを実感する。加えて、もともとフットボール主体の生活のために妻のリンダ(デブラ・ウィンガー)と、ハナ高校に通う娘のメアリー(サラ・ドリュー)をおざなりにしがちになっている自分をも自覚しはじめる。
 ジョーンズはシーズン後行き場のないラジオを同じ運動部のコーチである同僚に頼んでバスケットボール部で預かってもらった。ラジオの無垢で素直な言動はすぐに生徒たちに受け入れられ、校内放送のアナウンスを任されるほど愛される存在になっていった。しかし、一部の生徒の心ない行動のために、ラジオはちょっとしたトラブルを起こし、理事会に目をつけられてしまう……

[感想]
 毎回言ってますが文句の付け所のないドラマほど感想書くのが難しいものもありません。
 本編は実在するラジオことジェームズ・ロバート・ケネディに関する記事を目に留めた監督が、本人や関係者の証言と許可を得たうえで映像化したものである。脚本化する際にエピソードを取捨選択し、多くのコーチとの関係をやはり実在するコーチ・ジョーンズとの絆に絞って描いている。
 この圧縮とエピソードの組み立てが実によく纏まっていて、感動的なドラマを映像化しました、というわざとらしさがなく、しかしテンポ良く物語を展開している。序盤、どうしてジョーンズがラジオという青年に興味を惹かれるのかが謎のままだが、それを後半、意外な形で活かしている。目覚ましいほど綺麗に決まるシーンはあまりないのだが、エピソードのひとつひとつが自然で美しく、静かに胸にしみいってくる。
 やはり際立っているのは主人公となるラジオと、全篇でほぼ視点人物といっていい役割を果たすジョーンズをそれぞれ演じた名優ふたりである。実は台詞らしい台詞もないラジオというキャラクターを愛嬌たっぷりに、しかし迫真の表現をしてみせたキューバ・グッディングJr.に、決して理性的とは感じられないコーチ・ジョーンズの言動に説得力を齎す安定感を示したエド・ハリス。ほぼこの両者の演技合戦と言ってもいい趣だが、火花散らすという風情はなく、実によく調和して作品の温度を心地よく高めている。
 更にもうひとり、ジョーンズの妻・リンダを演じたデブラ・ウィンガーの存在感が凄い。あくまでジョーンズを陰から支える立場で、出番も決して多くないのだが、一言一言が異様なまでの光芒を放って忘れがたい。
 強いて言うなら、あまりにバランスが良くリズミカルに話が進みすぎる嫌いがあるが、挙げられる欠点はそのくらいしかない。驚異的な完成度だがそれを押しつけもしない、心地よく本当の意味で感動的なドラマ。

(2004/10/09)


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