cinema / 『リベリオン』

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リベリオン
原題:“EQUILIBRIUM” / 監督・脚本:カート・ウィマー / 製作:ヤン・デ・ボン、ルーカス・フォスター / 製作総指揮:ボブ・ウェインスタイン、ハービー・ウェインスタイン、アンドリュー・ローナ / 撮影:ディオン・ビープ,A.C.E. / プロダクション・デザイン:ウルフ・クローガー / 編集:トム・ロルフ,A.C.E.、ウィリアム・イエー / 衣裳デザイン:ジョセフ・ポロ / VFXスーパーバイザー:ティム・マクガバン / 特殊効果:ユーリ・ネフゼル / 音楽:クラウス・バデルト / 音楽提供:メディア・ベンチャーズ / スタント・コーディネート&格闘シーン演出:ジム・ヴィッカーズ / 出演:クリスチャン・ベール、テイ・ディッグス、エミリー・ワトソン、アンガス・マクファーデン、ショーン・パートウィー、マシュー・ハーバー、ショーン・ビーン / 配給:Amuse Pictures
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:岡田莊平
2003年03月29日日本公開
2003年10月24日DVD日本発売 [amazon]
公式サイト : http://www.amuse-pictures.com/rebellion/
丸の内シャンゼリゼにて初見(2003/04/01)

[粗筋]
 二十一世紀初頭に発生した第三次世界大戦によって、世界は壊滅寸前の状態にまで陥った。人類の数少ない生存者たちは、その経験から一つの教訓を得た――「感情」こそ、あらゆる諍いの源なのだ、と。
 結果として誕生した理想郷“リブリア”は、独裁者“ファーザー”(ショーン・パートウィー)の名の許に徹底化された管理社会であった。人々は“プロジウム”と呼ばれる感情抑制剤を定期的に投与し、一切の娯楽・享楽・刺激物から遠ざけられ、画一的な生活を営んでいた。一部の反逆者――“プロジウム”の摂取を拒否し、禁制のものである美術品や音楽、装飾性の高い調度を隠し持つ者達は、“クラリック”と呼ばれる戦闘のエキスパート達が率いる部隊によって粛正の弾幕に包まれることが約束された世界。
 ジョン・プレストン(クリスチャン・ベール)はそのクレリックの中でも、彼らにのみ伝承される銃器を用いた武術《ガン=カタ》に秀でた超一級の人物として活躍していた。四年前に感情規制法違反の容疑によって妻が処刑された経験を持ちながらもなお一流のクレリックであり続けたプレストンだったが、ある日の任務の帰途、相棒のパートリッジ(ショーン・ビーン)の態度がおかしいことに気づく。現場から持ち去ったイエーツの詩集を懐中に潜め、プレストンには「証拠品として提出する」と言いながら、保管所に届けていなかった。プレストンが反逆者達の巣窟となっている廃墟を訪れると、そこには詩集に読み耽るパートリッジの姿があった。反抗の様子を見せたパートリッジを、プレストンは容赦なく射殺する――が、彼の胸の裡には、パートリッジが引用した言葉が染みのようにこびりついていた。
 明くる日、自宅の洗面所で顔を洗っていたプレストンは、その日の午前中に摂取するプロジウムのカプセルを誤って床に落とし、割ってしまう。イクイリブリウムと名付けられた配給所を訪れたプレストンだったが、何故かその前に立ち往生したまま時間を過ごし、迎えに来た新たな相棒ブラント(テイ・ディッグス)の運転する車に乗ってしまう。
 そのまま彼は次の現場に向かい、新たな反逆者の逮捕に立ち合う。その人物――メアリー・オブライエン(エミリー・ワトソン)は長年に亘ってプロジウムの投与を拒否し、壁の向こうに多くの芸術品や装飾品を隠し持っていた。プレストンの訊問に対し、メアリーは「あなたの生きる目的はなに?」と問いかける。プロジウムを失ったプレストンは、返答に窮した。
 反逆者のアジトで一斉摘発の名の許に行われた虐殺の現場で、プレストンの混乱は頂点に達する。容赦なく殺されていく無辜の人々の姿に動揺し、地下の隠し部屋に貯め込まれた装飾品の数々に震え。そして、部隊の人間がいない隙にレコードの針を落とし、ベートーヴェンの音色に耳を傾けた彼は、遂に顔を覆って泣いた。
 やがてプレストンは、感情を弾圧する社会に対する反逆者=リベリオンに変貌していく……

[感想]
 実はアクションほど様式を大切にする映画のジャンルってないのではなかろうか、と最近感じることがままある。長年に亘る修行で育まれた美しい形を看板とするジェット・リー主演作、飛び立つ鳩に二挺拳銃といった定番のモチーフを多用するジョン・ウー監督作品、そして漫画やゲームなど他の分野への敬意を盛り込んだ『マトリックス』系統の作品群、などなど。ただ異常な格闘シーンがあればいい、というのではなく、名作と言える作品には執着的なほど一貫したポリシーがある。
 そういう意味で本編は、いかにも低予算な作りだが、上記の名作群にも比肩しうる作品に仕上がっている。武道の「形」に拳銃を組み合わせ、一対多の戦いをスピーディに合理的に展開する『ガン=カタ』なる武術を創造し、それを最大限に活かし美しく魅せることに執心している。初の格闘シーンをいきなり真っ暗闇で行わせ、主人公プレストンの放つ銃弾の軌道と音とだけでその華麗さを表現してしまうあたりに、製作者達の美学とこの新しい武術への自信を窺わせる。
 感情を抑圧する独裁社会、というかなりハードなSFモチーフすら、この武術を華麗に見せるための素材の一つとしか映らない。感動を呼び起こす芸術的要素の一切を廃し、すべてが均質化された世界、という設定が逆説的に「芸術」を思わせる『ガン=カタ』の動きを際立たせているのである。これもどうやら予算の問題が多分にあったようだが、近年のアクション映画に多用されるスローモーションでの演出を限界まで使用せず(記憶ではワンシーンぐらい使われていたはず)、ほとんどが一発撮りだったというアクションシーンの美しさとスピード感を味わうだけでも、本編を鑑賞する価値はある。アクション映画好きを自負するなら必見だろう。
 が、同時にSF的設定も、シンプルながらよく考えられており、本編にただのアクション映画とは違う味わいを添えている。その乾いた肌触りと不安を催す雰囲気は、フィリップ・K・ディックの世界観をも思わせる。
 アクションの美しさにのみ惑わされずに作品を鑑賞すると、異常な強さを発揮する主人公が決して単純なヒーローではなく、またテーマが解りやすい勧善懲悪ものではないことにも気づくはずだ。次第に意志を変えていく主人公が、その過程で多くの犠牲を見過ごしてしまっていることにも、倒される権力の側にも多少なりとも理が存在することにも、無関心でいられないだろう。そうした痼りが、爽快な結末にも一筋縄ではいかない余韻を残している――
 とは言うものの、いまこのご時世に鑑賞すると、ただのフィクションとして眺められない要素も多々あって、結構複雑な感情を抱くかも知れない。それどころか、嫌悪感を抱く危険だって否定できない。細かなメッセージを受け取りながらも、フィクションとして、エンターテインメントとして割り切って受け止められる向きでないと、特にいまはお薦めできない。感情を抑圧された世界、という設定だからこそ鮮烈な印象を刻む、ラストシーンにおける主要登場人物たちの表情にも、かなり複雑なものを感じずにいられない。
 が、その条件を満たす自信があるなら、観てみる価値は間違いなく、ある。アクションそれ自体がここまでスタイリッシュで美しい映画は、実のところジェット・リー主演作か『マトリックス』ぐらいしかなかったのだから。

 しつこいようだがこの映画、見た目の美しさと完成度に似合わず異様に予算が少なかったようで、セットよりもロケを多用していた気配がある。ではこの画一化された背景を、CG以外ではいったいどこで用意したのかと思えば――ドイツだったそうな。しかもベルリンの壁があった付近だそうな。さもありなん、という感じである。

 題名の『リベリオン』、「反逆者」とはよくつけたものだ、と思いきや、実は邦題だったらしい。原題は上記の通り“Equilibrium”、「均衡」「平均」といった意味合いの単語で、劇中では薬品を供給する施設の名称となっている。近年、原題をそのまんま(『インソムニア』など)とか若干変えただけ(『ロード・オブ・ザ・リング』など)の邦題が多いなか、実は考えられている方だと思うのだけど……うううん。

(2003/04/02・2003/10/23追記)


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