cinema / 『恋愛小説家』

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恋愛小説家
原題:“As Good As It Gets” / 監督・製作:ジェームズ・L・ブルックス / 脚本:マーク・アンドラス / 音楽:ハンス・ジマー / 撮影:ジョン・ベイリー / 出演:ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント、グレッグ・キニア、キューバ・グッディングJr.、スキート・ウールリッチ、シャーリー・ナイト / 配給・DVD発売:Sony Pictures Entertainment
1997年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 字幕:戸田奈津子
1998年10月23日DVD日本版発売 [amazon]
2003年10月22日DVD最新版発売 [amazon]
DVDにて初見(2002/06/12)

[粗筋]
 60冊を超える作品を著し、愛読者も多い恋愛小説作家・メルヴィン(ジャック・ニコルソン)――だがその実、彼は徹底した人間嫌いの皮肉屋で、一時カウンセリングを受けていたほどの潔癖性でもあった。隣人であるゲイの画家サイモン(グレッグ・キニア)の飼い犬ヴァーバルをダストシュートに入れてみたり、行き付けのカフェでは理由もなくウェイトレスを揶揄ったりする。他人と相容れない人生ながら、彼は彼なりに満足していたのだ――ある時期までは。
 メルヴィンはその日、いつものようにカフェで昼食を注文しながらウェイトレスを言葉で虐めていたが、小耳に挟んだ話から彼女の息子の病気について揶揄したとき、メルヴィンはそのウェイトレス――キャロル(ヘレン・ハント)に静かに厳しく叱責され、萎縮する。一方で、潔癖性でひねた物云いしかできない彼に理解を示し、唯一人並みに接してくれるキャロルに、メルヴィンは次第に惹かれていく。
 同じ頃、メルヴィンの隣人サイモンが思いがけない災厄に見舞われた。モデルとして雇ったヴィンセント(スキート・ウールリッチ)が最後の日に仲間たちを手引きし、盗みを働こうとしたところを目撃してしまったサイモンは、賊の暴行を受け重傷を負わされたのだ。彼の展覧会に協力し、親交の深いフランク(キューバ・グッディングJr.)は金策に奔走しながら、世話する者のいないサイモンの愛犬ヴァーバルを、よりによってメルヴィンに預ける。
 脅されて嫌々引き受けたメルヴィンだったが、道を歩くときに敷石の継ぎ目を避ける些細な癖に気づいたときからヴァーバルに親近感を覚えるようになる。次第に懐くようになったヴァーバルに、メルヴィンの意識も次第に変わり始めるが、しかしサイモンの退院と共にヴァーバルは本来の飼い主のもとに引き取られる定めだった――
 思いがけない感情の揺らぎ、次第に崩れていくこれまでの人生――果たして、このひねくれ者の恋愛小説家に、幸せは訪れるのだろうか……?

[感想]
 DVDで初めて見た作品の感想を書くのは随分久し振りの気がする。そういう気にさせるぐらい、久々にクリーンヒットを喰らったのだ。
 シナリオはちと安定感が悪い。着地までの紆余曲折は楽しいのだが、妙にあちこちの伏線や感情の説明が取り残されている感覚があって、落ち着きが悪い。また、あまり主人公の「恋愛小説家」という設定が存分に活かされていないのもマイナスである――尤もこの点は、邦題に「恋愛小説家」が採用されてしまったから余計に気に掛かるだけで、脇に置いて考えるとさほど欠点には感じないかも知れない。が、題名としてそちらが先に眼についてしまう日本人のひとりとしていちおう苦言を呈しておく。
 しかしそれを補ってあまりあるのが、登場人物たちの魅力なのだ。ジャック・ニコルソン演じるメルヴィンの、身辺にいたら確かに迷惑だが、周りの人々に翻弄され次第にリズムを崩していく様はいっそ愛らしく映る。喘息持ちで殆ど毎日のように発作を起こす息子があり、息子を中心に生活を廻していたキャロルを演じるヘレン・ハントも、それ故にちょっとピントのずれた雰囲気を巧みに醸し出している――後半旅行に誘われるが、あまりに久し振りのことで荷造りのコツさえも忘れてしまっているあたり、非常に説得力があり微笑ましい。人生最大の不運に見舞われながらもあるきっかけから自分を取り戻し、最後にはメルヴィンたちの最高の理解者となるサイモン、善人とも悪人ともつかないがいずれにしても憎めないフランク(キューバ・グッディングJr.)、などなど、キャラクター一人一人がきちんと立っているために、ややバランスを欠く物語の価値を押し上げているのである。
 やや音楽が煩わしい場面があったり、くどい台詞や描写も目立つのだが、それさえ含めて独特の親しみと愛らしさを感じさせる、珍しくも優れたコメディである。アカデミー主演男優・主演女優賞同時受賞は伊達じゃない。

(2002/06/13・2004/06/22追記)


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