cinema / 『ザ・リング』

『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る


ザ・リング
原題:THE RING / 原作:鈴木光司『リング』(角川ホラー文庫刊) / 監督:ゴア・ヴァービンスキー / 脚本:アーレン・クルーガー / 製作:ウォルター・F・パークス、ローリー・マクドナルド / 撮影:ボージャン・バゼリ / プロダクション・デザイン:トム・ダフィールド / 編集:クレイグ・ウッド / 衣装:ジュリー・ワイズ / 音楽:ハンス・ジマー / 特殊メイク:リック・ベイカー / 視覚効果監修:チャールズ・ギブスン / 出演:ナオミ・ワッツ、マーティン・ヘンダーソン、デイヴィッド・ドーフマン、ブライアン・コックス、アンバー・ダンプリン、レイチェル・ベラ、ダヴェイ・チェイス / Asmik Ace Entertainment+DREAM WORKS提供 / 配給:Asmik Ace
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 字幕:戸田奈津子
2002年11月02日日本公開
公式サイト : http://www.thering.jp/
劇場にて初見(2002/11/30)

[粗筋]
 ただの噂話だと思っていた。ケイティ(アンバー・ダンプリン)の家に泊まったベッカ(レイチェル・ベラ)は、だから話の流れで何気なく口にしただけだった。見ると七日後に死ぬビデオが存在する、と。だが、ケイティはそれを見ていた――一週間前に。
 シアトル・ポスト誌の記者レイチェル・ケラー(ナオミ・ワッツ)は、姪であるケイティの葬儀の席で、ケイティの母に死の真相を調査してほしい、と請われる。死因すら特定できない状況でどれほどの調査が可能か訝るレイチェルだったが、列席していたケイティの同級生の話を聞いて慄然とする。ケイティが死んだのと同じ日に、彼女のボーイフレンドと他の同級生2人が死んでいる、というのだ。しかも、その理由は呪いのビデオテープを見たからだ、と同級生たちは噂している。更に詳細に調べてみると、死因こそ心臓麻痺、自殺、原因不明の事故死とばらばらだが、いずれも同じ午後十時に死んでいると判明し、ケイティは俄然興味を抱く。
 ケイティらのアルバムを調べてみると、楽しそうなキャンプ風景に奇妙な写真が混ざっていた。どういうわけか、ある時点から彼らの顔が全て歪んで映っている――それがとある山中のコテージ前での集合写真から始まっていると気づいたレイチェルは早速現地を訪れる。そこでレイチェルは、彼らが現地でテレビを録画したと思しいビデオテープを発見した。微かな怖れを振り払い、レイチェルはケイティらが泊まったコテージでそのビデオをデッキに挿入する――映ったのは、皆既月食のような光景、椅子、梯子、鏡に映る女性と不気味な影、波打ち際に転がる巨大な生物、画面を埋め尽くす虫――そして最後に、井戸の遠景。細切れの不気味な映像が不意に途切れたあと、コテージの電話が鳴り、少女の声がレイチェルに囁いた。「あなたは、あと七日で死ぬ」
 レイチェルは問題のビデオテープと、どうしても歪んで映るようになった自分の写真を携えて、親しい友人であり映像処理の仕事に携わるノア(マーティン・ヘンダーソン)のもとを訪れた。ビデオを見せた上で意見を求めるが、これだけでは何も言えない、詳しく調べるためにダビングして寄越してほしい、と頼まれた。レイチェルは勤め先のデッキを使ってコピーするが、どういうわけか問題のビデオテープを動かすと機材のカウンターが奇怪な表示になってしまう。更に、ビデオテープの原盤を調べたノアは、このテープには録画に使用した機材のデータが一切残されていない、と言う。
 レイチェルはビデオの画像を手懸かりにするため、視認しづらいポイントを鮮明化しようと専用の機材を借りて調査する。そこに見えた灯台と地形をヒントに探していくと、とある島が見つかった。そうして立て続けに判明したのは、島で突如起きた悲劇の数々だった――果たして、呪いの謎を解くヒントはそこにあるのだろうか?
 テープの怪異を目の当たりにし、レイチェルの話を信用したノアとともに真相解明に務めるレイチェルだったが、その最中、最悪の出来事が発生する。真夜中、眠れずに鬱々としていた彼女の息子エイダン(デイヴィッド・ドーフマン)が、あのビデオテープを見てしまったのだ。自らだけでなく息子の命をも守るため、レイチェルは問題の島へと向かう――

[感想]
 ちょっと個人的な理由から、日本版映画『リング』は未だに見ておりません。故に、どの程度忠実なのかは推測するしかないのだが、恐らく相当に日本版にの映画に敬意を払って作ったのだろう、ということぐらいは断言できそうだ。
 東西問わず近年のホラー映画は随分と観てきたが、これ程ハリウッドらしからぬホラーは知らない。ハリウッド発のホラーというと、殺人鬼や猫騙しのような映像演出と不気味な特殊メイク、という定型に縛られがちなイメージがあるが、本編で観られるのはあまりに日本的な「間」を駆使した、直接に表現されない恐怖である。ハリウッドでリメイクされる、と聞いたとき、ここを無視されれば一発で駄作になるだろうな、という点をきっちりと抑え、シナリオ面でも極端な改竄は(あくまで原作と較べて、だが)認められない。このことだけでも十分評価に値する。先に公開されたアメリカではスマッシュヒットとなったようだがそれもその筈、彼らはこういうタイプのホラーにはあまり縁がないだろうから。
 無論、そのまま導入しては違和感しか生まれない、というところは、実に巧みにアメリカナイズしている。プログラムの文章でも指摘しているが、最も顕著なのは怪異の源泉となる貞子=サマラの設定。とりわけ、ビデオテープという形で呪いが顕現するに至る動機の変更は出色だった。この辺、基本のネタが変わっていないだけにあまり説明するといよいよ日本の観客には興醒めとなるはずなので詳述は省く。
 些かスピーディすぎて「間」の足りない箇所が多い、という嫌味はあるが、基本的には完璧と言っていいリメイクだろう。結末もハリウッド特有の予定調和に走らず、その異様な後味の悪さにいっそ好感を抱いてしまう。原作ファン、中田版映画ファン共々観て損はない。ホラー映画好きなら尚更である。

(2002/11/30)


『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る