cinema / 『シークレット・ウインドウ』

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シークレット・ウインドウ
原題:“Secret Window” / 原作:スティーブン・キング「秘密の窓、秘密の庭」(『ランゴリアーズ』収録/文春文庫・刊) / 監督・脚本:デヴィッド・コープ / 製作:ギャビン・ポロン / 製作総指揮:エズラ・スワードロー / 撮影監督:フレッド・マーフィー,A.S.C. / 美術監督:ハワード・カミングス / 編集:ジル・サヴィット,A.C.E. / 衣装デザイン:オデット・ガドゥーリー / 音楽:フィリップ・グラス / 出演:ジョニー・デップ、ジョン・タトゥーロ、マリア・ベロ、ティモシー・ハットン、チャールズ・S・ダットン / コロンビア映画提供 / 配給:Sony Pictures
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2004年10月23日日本公開
公式サイト : http://www.sonypictures.jp/movies/secretwindow/
日比谷スカラ座1にて初見(2004/11/01)

[粗筋]
 人気作家モート・レイニー(ジョニー・デップ)はスランプに陥っていた。妻エイミー(マリア・ベロ)の裏切りから別居生活となり、購入した一軒家を彼女に明け渡して自分は山中の別荘で執筆を続けているが、遅々として進まない。躰は疲れ果てていて、幾ら眠っても寝足りなかった。
 ある日、カウチで昼寝していたモートは、けたたましいノックの音に叩き起こされる。戸口に立っていたのは、黒い山高帽と訛りのきつい喋り方をする薄気味の悪い男。ジョン・シューター(ジョン・タトゥーロ)と名乗ったその男は、モートにこう言って、紙の束を突きつけた。
「お前は、俺の小説を盗んだ」
 モートは相手にせず、彼が盗作したと訴える小説が書き連ねられた紙束をゴミ箱に投げ入れる。盗作の疑いをかけられたのはこれが初めてではないモートは、対応には慣れているつもりだった。
 だが気づくと、お節介な家政婦が捨てた紙束をモートの原稿だと早合点して机の上に戻していた。好奇心に駆られるようにモートはその作品「種まきの季節」と自分の小説「秘密の窓」を引き比べる。微妙な表現の差違はあるが、確かにほとんどその内容は同一といって良かった。モートは降ってかかったような災厄に頭を抱える。
 後日、ふたたびシューターが現れた。モートはかねてから疑問に思っていた点――「種まきの季節」の執筆時期を訊ねる。答は1997年。モートは事態が相手の妄想に起因している、と確信した。何故なら、モートは1995年に問題の作品を執筆、翌年には“エラリイ・クイーン・ミステリ・マガジン”に掲載されていたからだ。妻に明け渡した家にまだバックナンバーが残っており、それを引き取れば解る、というモートに、シューターは三日間の期限を言い渡して去っていった。
 約束したものの、エイミーに自分から連絡する気にはどうしてもなれず、お座なりにするつもりでモートはカウチに倒れ込む。目醒めて、異様な気配に屋外の様子を窺うと、そこにはドライバーで刺し殺された愛犬チコの姿と、「三日間だぞ、俺は本気だ。警察は呼ぶな」と記した貼り紙が残されていた。
 モートは地元の警察に被害届を提出しようとするが、直接的な被害が飼い犬にしか及んでいないと言って乗り気な様子を見せない。窮したモートは旧友で探偵のケン・カーシュ(チャールズ・S・ダットン)に調査を依頼する……

[感想]
 細部がよく練り込まれ、構成の実にしっかりしたスリラーである。伏線を張るためにだらだらと日常を描いたりすることなく、謎めいた導入のあと、冒頭でいきなり全体の焦点となる出来事を突きつけて、すぐさま奇妙な緊張に彩られた物語を開始する、その呼吸もいい。
 だが、あまりに練り込んでいるせいで、ちょっとこの類のスリラーに慣れた人間には、早々に物語を貫くからくりが読み解けてしまう。いったん読み解けてしまうと、この作品の中盤はいわば終盤のための繋ぎに過ぎないので、どうしても牽引力が弱まる。緊迫感を演出する数々の出来事も、理由が把握できてしまえばすべて予測の範疇にあるからだ。
 この解りやすさの一因は、ジョニー・デップが巧すぎる点にもあるように感じた。キャラクターを完璧に作りあげ、感情の変化を実に細やかに表現する卓越した演技力は、それ故にこの作品を解りやすいものにしてしまっている。
 無論、そのデップの演技そのものは見物だし、全篇ほぼ出ずっぱりであるために彼のファンにとっては、彼の変幻自在の演技を心ゆくまで堪能できる久々の作品となっている。
 また、そのからくりは読み解けても、ハリウッド的予定調和から脱した結末は長いこと奇妙な余韻を観客に齎す。作中、登場人物に「小説の命は結末だ」と言わせていることもあって、この不気味なラストシーンのお陰で、スリラーというには平易になりすぎた作品に一本、芯を通しているとも言えるだろう。
 サスペンス・スリラーとしてはかなり物足りないが、丁寧に配された伏線や象徴、台詞によって裏打ちされたラストシーン、そして全篇で気を吐くジョニー・デップの演技によって独特の印象を齎す作品。

(2004/11/03)


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