cinema / 『ザ・センチネル/陰謀の星条旗』

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ザ・センチネル/陰謀の星条旗
原題:“The Sentinel” / 原作:ジェラルド・ペティヴィッチ(ソニー・マガジンズ刊) / 監督:クラーク・ジョンソン / 脚本:ジョージ・ノルフィ / 製作:マイケル・ダグラス、マーシー・ドロギン、アーノン・ミルチャン / 製作総指揮:ビル・カラッロ / 撮影監督:ガブリエル・ベリスタイン / プロダクション・デザイナー:アンドリュー・マッカルパイン / 編集:シンディ・モロ / 衣装:エレン・マイロニック / 音楽:クリストフ・ベック / 出演:マイケル・ダグラス、キーファー・サザーランド、エヴァ・ロンゴリア、キム・ベイシンガー、マーティン・ドノヴァン、リッチー・コスター、ブレア・ブラウン、デヴィッド・ラッシュ、クリスティン・レーマン、ライナー・ショーン、チャック・シャマタ、ポール・カルデロン / ファーザー・フィルムス&ニュー・リージェンシー製作 / 配給:20世紀フォックス
2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2006年10月07日日本公開
公式サイト : http://movies.foxjapan.com/sentinel/
有楽町スバル座にて初見(2006/10/07)

[粗筋]
 ベテランのシークレット・サービス・エージェントであり、かつて大統領を庇って被弾し生還したことで伝説ともなっているピート・ギャリソン(マイケル・ダグラス)。いまも現役で活躍を続ける彼だったが、現在どうしても人には言えない秘密を抱えている。それは、現在の大統領バランタイン(デヴィッド・ラッシェ)の夫人サラ(キム・ベイシンガー)と不倫関係に陥っていることである。大統領への忠誠と敬意は備えながら、そのファースト・レディと恋愛関係にあるというジレンマ。ギャリソンは心のバランスをギリギリで保ちながら職務を遂行していた。
 事件はある日、忽然と発生した。ギャリソンらの同僚であるチャーリー・メリウェザー(クラーク・ジョンソン)が自宅前で何者かによって射殺されたのである。FBIや現地警察が駆けつけるなかへ、シークレット・サービスの調査官として評価の高いデヴィッド・ブレキンリッジ(キーファー・サザーランド)が担当者として、新人エージェントのジル・マリン(エヴァ・ロンゴリア)とともに現場入りする。物取りではなく純粋にメリウェザーを狙ったものだと判断したブレキンリッジは、メリウェザー夫人(グロリア・ルーベン)ら身近な人々への聞き込みを開始する。
 結果、浮上してきたのは、メリウェザーが生前ギャリソンに女性スキャンダルがあることを仄めかしていた、という事実。そして、どうやらシークレット・サービス内部の情報を精査していた痕跡があることだった。ブレキンリッジはかつてギャリソンと親しく付き合っていたが、妻シンディ(クリスティン・リーマン)とギャリソンとが不倫関係に陥った疑惑から仲違いを起こし、最終的に離婚に発展した経緯があり、いまも感情的な軋轢がある。対するギャリソンはブレキンリッジの才能を評価し、自らが指導したマリンを彼のもとへと推薦するほどだったが、ブレキンリッジの頑なな態度に業を煮やしていた。
 そんな折り、ギャリソンが別部署にいた当時に懇意にしていた情報屋ウォルター・ゼイビアー(レイナー・シャイン)が突然連絡を取ってきた。彼が齎した情報は、大統領が暗殺計画に晒されている、しかもその為に必要な情報をシークレット・サービス内部のものが漏らしている――メリウェザーの死も、この一件に絡んでいる可能性がある、という衝撃的なものだった。
 ギャリソンは捜査をブレキンリッジに要請するが、その矢先、彼のもとへと恐るべきものが届いた。それは彼と、ファースト・レディ=サラが口づけを交わしている場面を撮した写真と、彼にある行動を支持した文書であった……

[感想]
 マイケル・ダグラスとキーファー・サザーランド、ともにアクションを伴うサスペンスに意欲的に出演して人気を勝ち取ってきた俳優である。マイケル・ダグラスはスキャンダルの匂いを孕んだ人物像に定評があり、キーファー・サザーランドは一癖も二癖もあるキャラクターを演じて存在感を発揮する役者であり、双方共に得意な役柄を選んでいる本編には、いい意味での安心感、安定感がある。
 またそうした作品の製作も多く手懸けるマイケル・ダグラスの指導もあるのだろう、シークレット・サービスの活動ぶりの描写にはかなりのリアリティが備わっている。大統領との接し方やそれ以外のデスクワークの様子、別のラインで行動する調査員と外部組織との反目の様子、また細部で語られるシークレット・サービスの特徴と、それを活かした話運びなどなど。ディテールの精度の高さで魅せている部分も多い。そうした描写が事件の捜査として意味を為し、更には主人公ギャリソンとファースト・レディとの不倫がより大きなトラブルへと発展していく様子はスムーズで巧い。
 ただし、そうして全体を見ると、あまりに多くの要素を盛り込みすぎているせいで、焦点がぼやけてしまったきらいはある。純粋にシークレット・サービスの活動とそこから発展する事件の様子を描きたいのか、そこに縛られず人間関係や謀略が織り成す政治的なサスペンスを強調したかったのか、またかつての親友同士が追う者と追われる者に別れ、最終的にふたたび合流していくドラマを構成したかったのか――要はそのすべてなのだろうが、あまり綺麗に束ねられているとは言い難い。それ故に、重厚でありながら散漫な印象を齎し、特に序盤は少々牽引力に欠いている。構成にもう一工夫が欲しかったように感じられた。
 肝心の“裏切り者”の正体が、話運びの都合からも見え見えで、かつその裏切りに至る背景が少々安易であること、反対に主人公が陥れられた必然性についてあまり語っていないことなど、全般に動機がきちんと説明されていないことも、観終わってからの消化不良な印象を助長しているようだ。本編にはきちんと原作があって、そちらでは丁寧に描かれていることなのかも知れないが、もう少し別の要素を削るなりしてでも、映画の中に盛り込んで欲しかった。
 とは言うものの、終始プロフェッショナルとしての仕事ぶりを丹念に描き、その格好良さや渋さをわざとらしくなく描き出した語り口、終盤における銃撃戦のリアリティと迫力、類を見ない緊迫感は出色だし、ハッピーエンドながら苦みを伴う大団円は単純な大作映画とは一線を画していて印象深い。個々の要素を抽出していくと悪いところは少なく、見応えは間違いなくある。
 全体の組み上がりについてあまり過剰に追求せず、ディテールの整った娯楽サスペンスと割り切って鑑賞すれば、充分に楽しめる佳作である。もう一踏ん張りして欲しかった、というのも正直なところだが。

 細部では非常に丁寧に作られている本編だが、反面それ故に損をしている箇所も少なくないと感じられる。顕著なのは、漏れてきた情報に基づき実際に暗殺計画を遂行する面々の描写だ。
 鑑賞時に同行した某氏は、中盤においてショッピング・モールで銃撃戦を起こした男はどうなったのか、と首を傾げていたが、実はちゃんと最後の銃撃戦に登場している。服装が極端に違うため、解りづらいのである。日本人の目には外国の人々の顔は区別がつきづらい、という事情はあるにせよ、はっきりと解るように描いていない点は責められても致し方のないところか。
 だが、観賞後によその感想を眺めていて、さすがにそれは気の毒だろ、と感じた部分がある。終盤の展開に抵触するので、以下伏せ字にて記す。
 その方は、最後の銃撃戦、大統領を包囲しながら車列に送り届けているとき、ギャリソンは接近する男が首から提げているタグで犯人の最後のひとりだと気づき、相手が銃を抜くより早く銃撃して難を免れる、という箇所について、「犯人だと解るものをぶらさげてるなんておかしい」と指摘している。
 だが、あそこで犯人がぶら下げているのは、国際会議の会場に犯人が潜入するために必要である偽造の通行許可証なのだ。それがなければ犯人は堂々と内部に侵入することが出来ない。そして、ギャリソンが彼を犯人と看破したのは、直前に犯行グループのひとりの部屋に潜入していた彼がいちど目撃しながら、ブレキンリッジがあとから捜索に入ったときには紛失していた、そのタグだったからである。この点はきちんと作中で描写されているし、台詞でもちゃんと説明されている。

 そういう肝心のことを失念されて、安易だと謗られるのはさすがに可哀想だと思う――しかしまあ、そうして見逃された描写によって責められてしまうのも、表現というものの逃れ得ぬ宿命ではあるのだけど。

(2006/10/09)


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