cinema / 『シッピング・ニュース』

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シッピング・ニュース
原題:“THE SHIPPING NEWS” / 原作:E・アニー・ブルー / 監督:ラッセ・ハルストレム / 脚色:ロバート・ネルスン・ジェイコブス / 音楽:クリストファー・ヤング / 出演:ケヴィン・スペイシー、ジュリアン・ムーア、ケイト・ブランシェット、ジュディ・デンチ / 配給:Asmik Ace、松竹
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 字幕:石田泰子
2002年03月23日日本公開
2002年08月02日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.shippingnews.info/
劇場にて初見(2002/04/23)

[粗筋]
 クオイル(ケヴィン・スペイシー)の不器用な人生は幼少の頃、父に海に投げ込まれても犬かきひとつできなかったときから始まっていた。入った短大は退学し、就職しても身につかず各地を転々とする。ようやく、新聞社印刷所のインク係という職を得、ひょんなことからペタル(ケイト・ブランシェット)という女性と出会い結婚、バニー(アリッサ、ケイトリン、ローレン・ゲイナー)という子供をもうける。
 だが、元々飽きっぽい性分のペタルはクオイルとバニーとを蔑ろに浮気放題、クオイルの両親が病苦から自殺したそのあと、娘を闇組織に売り飛ばしてボーイフレンドと逃避行に出た直後、車ごと海に転落しボーイフレンドもろとも即死してしまった。
 混乱と失意に見舞われたクオイルに、旅の途中に兄を弔うため立ち寄ったという叔母アグニス(ジュディ・デンチ)は転居を勧めた――クオイル一族の郷里、クオイルの父やアグニスが生まれ育った、カナダのニューファンドランド島へ。
 アグニスが新居としてクオイル父子を導いたのは、父たちが離れたあと住む人もなく朽ちかけた家。ワイヤーで大地に打ち止められたその家は、かつて一族が氷の上を引き、いまは「クオイル岬」と名付けられたその地まで運んできたものだった。
 島でも今までと同じ職に就こうと新聞社を訪れたクオイルは、だが彼の祖先が“海の一族”であったというレッテルひとつで新聞社の長にして漁師であるジャック・バギット(スコット・グレン)の目に留まり、港湾(シッピング)ニュース――船の入出港の報告やコラムの担当にされてしまった。困惑するクオイルだったが、この辞令が思いがけず、不器用だった彼の人生を変える大きな転換点となる――

[感想]
 ――あっ、ジュリアン・ムーアまで辿り着かなかった。
 第一印象は、「散漫・頑張ってストーリー圧縮したんだねぇ」。原作はピュリッツァー賞を獲得した重厚な小説で、プログラムにもその映像化の困難ぶりが記されている。そういう背景を知っているが故の感想だが、しかし気にしなければ「散漫」という印象も受けないだろう。これは半端な予備知識が災いした典型的な第一印象だと思う。
 生憎原作そのものが未読なので正確な判断はできないが、相当に端折りエピソードを圧縮させているだろうに、観ている間は駆け足という感覚はない。それどころか、終わる時間も気にせずいつまでも眺めていたい、という感慨に囚われる。描かれている出来事はひとつひとつ明確に結びつかず、ただ無作為に繋ぎ合わせたように見える――実際にはクオイルと、ジュリアン・ムーア演じるヴェイヴィとの恋愛模様、それにクオイル一族の過去という二つの軸が存在するのだが、基本的にはばらばらと言ってもいい。その散漫さを飽きさせず、クオイルの精神的成長と治癒のさまをきっちりと平易に観客に伝える手管は素晴らしいの一言に尽きる。この点にはエピソードの繋ぎ方の巧さのみならず、随所に鏤めたユーモアと一癖も二癖もあるが憎めない登場人物たち、効果的に画面に収められたニューファンドランド島の壮絶だが美しい光景も貢献しているだろう。
 監督の巧さは『サイダーハウス・ルール』あたりから現在までの諸作で証明済み、役者も主演のケヴィン・スペイシー(ダメ男を演じさせると絶品だ)はじめケイト・ブランシェット、ジュディ・リンチ、『ユージュアル・サスペクツ』のピート・ポスルスウェイトに『ヒューマン・ネイチュア』のリス・エヴァンスなどなど演技巧者揃いとあって、賞レースとは無関係の安心感がある。
 特に注目したいのは、最近めきめきと頭角を顕しているクリストファー・ヤングのスコアである。スリラー『ソードフィッシュ』にサスペンス調コメディの『バンディッツ』、恋愛映画である『スウィート・ノベンバー』にホラー風味の『ギフト』『ブレス・ザ・チャイルド』、最近だけでもこれだけ色合いの違う作品に参加しており、それぞれで存在感を示しているが、こと本編の時間的・空間的広がりを感じさせる音楽は作品の価値を確実に高めている。
 恐らく原作全体を反映しているとは言えないだろうが、2時間足らずの尺ならこれ以上は何も必要あるまい、と思わせるだけの完成度を備えている。滂沱と涙を流すような感動作ではないが、胸を打つものは確かにある、一級の佳作。

 ちなみにバニー役は三つ子が一人を演じているためにああいう表記をしております御了承を。見事に見分けはつきませんでしたけど。

(2002/04/23・2004/06/22追記)


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