cinema / 『スリープレス』

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スリープレス
原題:“NONHOSONNO” / 監督:ダリオ・アルジェント / 脚本:ダリオ・アルジェント、フランコ・フェリーニ / 製作:ダリオ・アルジェント、クラウディオ・アルジェント / 撮影:ロニー・テイラー / 音楽:ゴブリン / 作中詩:アーシア・アルジェント / 出演:マックス・フォン・シドー、ステファノ・ディオニジ、キアラ・カセッリ、ロベルト・ジベッティ、ロッセーラ・フォーク / 配給:日本コロムビア
2001年イタリア作品 / 上映時間:1時間57分 / 字幕:? / 英語版上映
2002年03月30日日本公開
2002年12月21日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://columbia.jp/dvd/titles/sleepless/index.html
イタリア公式サイト : http://www.nonhosonno.it/
新宿武蔵野館にて初見(2002/04/13)

[粗筋]
 1983年、イタリア・トリノで、女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生した。作家であり詩人である侏儒の青年が犯人であると目されたが、ある日を境に彼は行方を眩まし、数ヶ月後に射殺死体となって発見される。以後類似事件が認められなかったことから、事件は解決した、と見られていた――2000年のその日までは。
 トリノ市内のある駅で、駐車場の車のなかにひとり、そこを通過した列車の個室内でひとり、いずれもナイフでめった刺しにされた女性の遺体が発見された。列車内で殺された女性に助けを求められたが、何者かに殴打され意識を失っていた車掌は、女性が「小人殺人事件の真犯人に狙われている」と言っていた、と証言する。
 ローマの中華料理店で働いていた若者ジャコモ(ステファノ・ディオニジ)は、昔の友人であるロレンツォ(ロベルト・ジベッティ)からの電話でその事実を知った。こっちに戻らないか、という言葉に、あの事件を忘れたいジャコモは一度は首を横に振ったが、甦る記憶と襲う頭痛に耐えられず、結局仕事を辞してトリノに舞い戻る。――ジャコモは「小人殺人事件」二番目の犠牲者の息子であり、僅かな隙間から母が惨殺される一部始終を目の当たりにしてしまった、唯一の目撃者でもあった。
 トリノに戻ったジャコモは警察を訪れて情報を得ようとするが、過去の事件の関係者に過ぎない彼に口を開く捜査官はいない。だが、そこで彼は懐かしい顔に出逢う。モレッティ元捜査官(マックス・フォン・シドー)――彼は「小人殺人事件」最初の担当捜査官であり、いまは現役を退いて隠棲していたのだが、当時の乏しい捜査資料を補うよう協力を求められたことをきっかけに、直接捜査を始めようとしていたところなのだった。モレッティはあの事件の直後、ジャコモに対して「必ず犯人を捕まえる――一生を費やしても」と約束した。いまこそその約束を果たそう、とふたりは共同で事件捜査に乗り出す。
 まるでかつての悪魔が甦ったかのように、ジャコモの帰還に合わせて殺人鬼は再び闇を跳梁した。まずクラブの女性ダンサーが撲殺され、片腕の爪だけを切り落とされた状態で発見される。その次は、ファーストフード店の女性店員。帰宅した矢先に犯人に襲われ、壁に幾度も顔を叩き付けられた無惨な姿で発見される。その一方で、ジャコモの身にも危険は迫っていた――

[感想]
 ……うわー、綾辻行人『囁き』シリーズだ。
 終始付きまとった印象がそれである。無論、綾辻行人氏の『緋色の囁き』がそもそもアルジェントの『サスペリア』をモチーフにしているのだから、寧ろ似ているのは『囁き』シリーズのほうだと言うべきなのだけれど。直接・間接に流血を随所に挟み、視覚面と心理面の双方から緩急自在に恐怖を煽る演出技法、何よりイタリア・トリノの古色蒼然たる佇まいが醸し出す雰囲気が魅力的であり、愉しいのもそうだが何より「このままここに浸っていたい」と思わせる(ホラーであるにもかかわらず、だ)世界観の表現が素晴らしい。
 ストーリー的には、メインとなるある仕掛けは古典的名作そのままだし(但し利用の仕方がちょっと異なる)、あまりに丁寧に伏線を張りすぎたため早くから犯人に思い至るし展開も読みやすいのだが、それだけ定番を押さえながら緊張感をスタッフロールの直前まで持続させる技は巧み。一見不自然な行動とか、よくよく考えると妙な展開も随所に見られるが、この完成されたイメージのなかではあまり重要ではない。
 ミステリ、というよりスリラーとして必要なガジェットを随所に鏤めつつ、恐怖映画としての空気をも最後まで保つことに尽力した、妙な言い方だが愛すべき一本である。全体の完成度では金をかけた大作や気鋭の入魂作に及ばないだろうけれど、妙に推したくなる。――あ、当然だが作り物であっても血に弱い、とかどうしても心臓が不安だ、という向きにはお薦めしない。その程度のパワーは充分にある。

(2002/04/14・2004/06/22追記)


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