cinema / 『スネーク・フライト』

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スネーク・フライト
原題:“Snakes on a Plane” / 監督:デヴィッド・R・エリス / 原案:デイヴィッド・ダレッサンドロ、ジョン・ヘファーナン / 脚本:ジョン・ヘファーナン、セバスチャン・グチエレス / 製作:ゲイリー・レヴィンソン、ドン・グレンジャー、クレイグ・ベレンソン / 製作総指揮:トビー・エメリック、ジョージ・ウォード、サンドラ・ラビンス、ペニー・フィンケルマン・コックス、ストークリー・チャフィン、ジャスティス・グリーン / 製作協力:ジェフ・カッツ、タウニー・エリス、ヘザー・ミーハン / 撮影:アダム・グリーンバーグ,A.S.C. / 美術:ジェームズ・ヒンクル / 衣装:カレン・マシューズ / 編集:ハワード・E・スミス,A.C.E. / VFX監修:エリック・ヘンリー / SFX監修:マット・カッチャー、アレックス・バーデット / 蛇調教&コーディネート:ジュールス・シルヴェスター / 音楽:トレヴァー・ラビン / 出演:サミュエル・L・ジャクソン、ジュリアナ・マーグリース、ネイサン・フィリップス、ボビー・カンナバル、フレックス・アレクサンダー、トッド・ルイーソ、サニー・メイブリー、キーナン・トンプソン、レイチェル・ブランチャード、リン・シェイ、デイヴィッド・コクナー、エルザ・パタキー / 配給:MOVIE-EYE
2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:林完治
2006年10月21日日本公開
公式サイト : http://www.movie-eye.com/snake
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2006/11/08)

[粗筋]
 物語の舞台となるのは、ホノルル空港発ロサンゼルス空港行パシフィック・エアー121便。だがそれも、ひとりの男の不運がきっかけであった。
 オフロード・バイクでハワイの森林のなかを心ゆくまで疾駆していたショーン・ジョーンズ(ネイサン・フィリップス)は途中、凶悪な犯罪集団の調査を行っていた検事が、その対象であったエディ・キムによって惨殺される現場を目撃してしまう。エディらの言動から、地元の警察さえ頼れない、と通報することを躊躇していたショーンだったが、その隙にエディの配下の襲撃を受ける羽目になった。
 ギャングたちより先んじて彼のもとに辿り着いたFBI捜査官ネヴィル・フリン(サミュエル・L・ジャクソン)によって辛うじて助け出されたショーンは、説得の末に法廷で証言することを約束する。
 地元警察とキムが内通していることを想定して、フリンはチャーター機を囮として用意しながら、民間機のファーストクラスを借り切ってショーンを護送する計画を立てる。ラッパーのスリーG(フレックス・アレクサンダー)などのファーストクラスを利用するつもりだった乗客たちは一様に不快を示し、これが最後の添乗となるクレア・ミラー(ジュリアナ・マーグリース)たち客室乗務員も、そんな彼らへの対応を迫られて苛立ちを禁じ得ない。
 だが、本当に最悪の“乗客”は貨物室のなかで、じっと目醒めの時を待っていた……

[感想]
 逃げ場のない飛行機に、膨大な数の毒蛇が出没したらどうなるか――単純だが恐ろしく、同時にどこか滑稽なこの着想が本編のすべてである。
 まず、どうすればそんな荒唐無稽な発想を正当化出来るか、というところから始まり、いったん飛行機内に蛇が持ち込まれたあとは、ひたすらに娯楽映画の王道を突き詰めている趣だ。最初に犠牲になるのは誰か。どんな発言がその後の“扱い”に影響するか。あらゆる定石を熟知し、丁寧に踏まえていく手捌きはいっそ快感を覚えるほどだ。ベタベタと鬱陶しいカップルがどうなるか。こういう現場に連れこまれた犬の運命は。観客の目にも苛立つような人間をどう扱うか。そして、ひとりずっと黙って観ていろと言われた人間が、この場に置いて本当に黙っていられるか。いわゆる“死亡フラグ”を立てた人間はきちんとその立場に応じた死にざまを見せてくれるし、気に掛かる言動をした人物はそれ相応の変化や活躍をきちんと披露する。
 そして、“蛇”というあまりに馴染み深い“凶器”を、その特性を存分に活かして徹底的に使いつくしているのがまた素晴らしい。小型の蛇はあらゆるところから出没して、観ているほうの背筋がぞわぞわしそうな箇所から襲撃してくる。かと思えば、特大級の蛇はいかにもというところから侵入し、そうでなくても混乱状態にあった乗客たちを更なるパニックに陥れる行動をしてくれる。他方、随所でマゾヒスティックな笑いもきちんと提供してくれるのがまた憎い。
 こうした徹底ぶりは、真面目にスリルとサスペンス、人間ドラマを期待して劇場を訪れた人も、逆に発想の面白さからどれだけのネタを引き出してくれるかを楽しみにしてきた人も、等しく満足させてくれる完成度を作品に齎している。そのうえ、必要以上にハッピーな決着でも、お約束通りの締め括りをこれでもかとばかり用意する。まさにかゆいところに手が届く、そんな内容なのである。
 あまりの徹底ぶりゆえに、実のところ中身はなく、観終わったあとに残る余韻もさしてない。だが、それこそある意味では娯楽映画の本懐とは言えまいか。2時間足らずひたすら熱中させてくれて、観終わったときには日頃の鬱憤ごと吹き飛ぶほどスッキリとさせてくれる。これぞ娯楽映画の鑑、と呼ぶべき作品であることは間違いない。ていうかこんなもん読んでる暇があるならとりあえず観たほうが早い。

 ところで。
 本編のエンド・ロールには、内容を見事に反映させた歌詞の楽曲が用いられている。プログラムによるとこれは、何と一般公募により選出された素人の曲であり、クレジットと共に流れているPVも彼らが手懸けたものだという。そんなところにまで徹底された遊び心が何とも、いい。

(2006/11/09)


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