cinema / 『スパイダーマン』

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スパイダーマン
監督:サム・ライミ / 原作:スタン・リー・スティーブ・ディトゥコ / 製作総指揮:スタン・リー、アビ・アラド / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:トビー・マグワイア、ウィレム・デフォー、キルスティン・ダンスト、ジェームズ・フランコ、クリフ・ロバートソン、ローズマリー・ハリス / 配給:Sony Pictures Entertainment
2002年アメリカ作品 / 上映時間:2時間1分 / 字幕:菊地浩司
2002年05月11日日本公開
2002年10月23日DVD日本版発売 [amazon|限定版:amazon]
2004年06月23日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.spider-man.jp/
日劇PLEX1にて初見(2002/05/11)

[粗筋]
 ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)は幼い頃に両親を亡くし、ニューヨーク郊外に住むベン(クリフ・ロバートソン)とメイ(ローズマリー・ハリス)・パーカーという伯父夫妻のもとに引き取られて育った。ハイスクールでは科学賞を獲得するほどの秀才だが、線の細さと冴えない風貌、万事引っ込み思案の言動故に目立たず一部の生徒からはいじめられていた。6歳の時に隣に越してきたメリー・ジェーン・ワトソン(キルスティン・ダンスト)に随分と昔から想いを寄せているが、告白する勇気さえない。
 卒業を間近にしたある日、ピーターたちのクラスは校外学習としてコロンビア大学を訪れた。相変わらず、親友のハリー(ジェームズ・フランコ)以外の男子生徒からはいいように揶揄われていたが、学校新聞の写真撮影に託けてメリー・ジェーンと話せたことでちょっとだけピーターはご機嫌になっていた。そんな彼の手を、見たこともない蜘蛛が咬んで姿を消した――それが、研究室で遺伝子操作により生み出され育てられていた15匹の新種の蜘蛛の一匹であることに気づいたのは、だいぶあとのことだった。
 咬まれてから一晩の体調不良が治まると、ピーターの体は一変していた。勉強のために衰えていた視力は眼鏡を全く必要としないほどに恢復し、貧弱な体はいじめていた男子生徒を廊下の隅にまで弾き飛ばすほどの力を得ていた。そればかりではない。ピーターの手首からは粘性の糸が出るようになり、掌には細く固い体毛が生え、そのためにビルの壁も天井も自在に動き回れるようになっていた。それは、新種の蜘蛛がピーターに齎した奇跡だった――
 有頂天になったピーターは、メリー・ジェーンをドライブに誘うため、車の購入資金をプロレスの余興に飛び入り参加することで獲得しようとする。ピーターの圧倒的な能力は、チャンピオンを制限時間内に伸すほどだったが、「3分戦っていない」という理由から広告の十分の一にも満たない賞金で片づけられ憤る。だから、入れ違いに事務所に入った強盗の逃走を、ピーターは手助けしてしまう。
 迎えに来る伯父との約束の場所までやって来たピーターは、だがそこで信じがたい光景を目にする――暴漢に銃で撃たれた伯父の姿を。目の前でベンが息絶えると、洩れ聞こえた警察の無線連絡を頼りにピーターは暴漢を追う。手首から発する糸はピーターを車よりも速く跳躍させ、強靱な体は車から車へ飛び移る荒技を可能にした。そうして廃屋で追い詰めた暴漢の顔を見て、ピーターは更なる衝撃を受けた。――その男は、ピーターが事務所で逃走を手助けした強盗に他ならなかった。敵討ちを果たしても、ピーターの胸には虚しさと自責の念が残るだけだった。
 伯父の死の衝撃が癒えたころ、最後に聞かされた言葉が不意にピーターの脳裡に響く。
「大きな力には、大きな責任が伴う」
 ――ピーターは、己に与えられた力に対して責任を負う決意をした。そして、摩天楼を跳梁する怪人・スパイダーマンがここに誕生する――

[感想]
 あろーことか、私はこの『スパイダーマン』は原作、アニメ版など全てひっくるめてどれひとつまともに読んだ(観た)ことがない。故に、何故これ程長い間支持されてきたうえ、今になって実写化されたのか、いまいち理解できていなかった。予告編でVFXの質に圧倒されて、「動きを見るだけでもいいか」と、いちおーは楽しみにして観に行ったのだが……参りました。これは支持されるわけだ、というか支持されない方がおかしい。
 実の処、力を得る過程やヒーローとなるまでの推移にそれほど新味はない。或いはこの原作が発表された当時としては異色の設定だったのかも知れないが、今となってはむしろ自然な経緯だ。しかし、出色はここからの展開だろう。伯父の死を償うように、蜘蛛と蜘蛛の巣をあしらったスーツとマスクに特徴を隠し、時間を作っては人助けを繰り返すスパイダーマンを、逆に「何故あれほどタイミング良く現場に出没できるのか」と疑い、マスコミは彼を犯罪者と同類扱いする。加えて、事件と絡んで二度命を助けられたメリー・ジェーンがスパイダーマンに仄かな想いを寄せはじめ、それを打ち明けられる。――いずれも幾たびと提示されてきたシチュエーションだが、これほど無理なく丁寧に描かれた例を私は殆ど知らない。
 単純な勧善懲悪ではなく、スパイダーマンにも人間としての悩みを与え、また後半から大いなる敵として登場しピーターを惑わせるグリーン・ゴブリン=親友の父にも、頷けないとは言え犯罪に手を染める動機を与え、人間性を演出している。トビー・マグワイアとウィレム・デフォーの、台詞には現れない葛藤を垣間見せるような演技も称賛に値する。対決も決着も予定調和に過ぎないが、何とも言い難い虚しさと不思議に清々しい余韻を残す結末となったのは、そこに至るまでの描写が如何に丁寧であったかの証左だ。
 そして、そうした設定と共に圧巻なのが、蜘蛛の動きという複雑怪奇な映像を可能にしたVFX。仮にシナリオそのものの支えがなくとも、このVFXだけで一見の価値があると言いきってもいい迫力である。グライダーなる乗り物に乗って空を飛び回るグリーン・ゴブリンの方は……ときどき滑稽だったがそれも良し。
 ストーリー、映像、音楽に至るまで完璧な娯楽大作。些細な欠点など目に入らないくらいの牽引力を備えた、畢生の一本である。文句なくお薦め。

 余談。私はこの作品のものも含めた、Sony Pictures配給作品の予告編を集めたDVDを持っているのだが、どーしたことか、『スパイダーマン』の予告編に使用されているBGMは大半が昨年ティム・バートンによってリメイクされた『猿の惑星』のものなのだ。『猿の惑星』も本編と同様ダニー・エルフマンが音楽を担当しており、或いは似たようなスコアでお茶を濁しやがったかっ?! と一瞬不安になったが、いざ完成作を観てみれば、やっぱり全編オリジナルだった。『猿の惑星』『スパイ・キッズ』ほどではないが印象深いフレーズもあちこちにある。ではあの予告編は何だったんだ、と帰宅してから再度見直してみて、ふと気づいた。
 そう言えば、この予告編が制作された段階では、まだ本国での公開もしばらく先の話だったはず。『猿の惑星』リメイクでは有名なエピソードとして、実に公開直前まで音楽が完成しなかった、というのがある――多分、同じ事が起きたのだ。仕方がないので一時的に、同じエルフマンによる別作品のスコアで一時を凌いだのだろう、たぶん。

 もうひとつ余談。こうして鑑賞翌日に感想を書く場合もあるため、毎回記念にと購入しているプログラムは結構重宝しているのだが、今回なかなか素敵な誤植があった。――それも、キャスティングに。
キャスト
スパイダーマン:トビー・マグワイア/ピーター・パーカー
ウィレム・デフォー:ノーマン・オズボーン/グリーン・ゴブリン
キルスティン・ダンスト:メリー・ジェーン・ワトソン
ジェームズ・フランコ:ハリー・オズボーン
(以下略)
 すぐには気づかず、ふと違和感を覚えてしげしげと眺めて……笑う。これを作った人、今頃頭抱えてるんだろうなー。

(2002/05/12・2004/06/22追記)


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