cinema / 『スパイダー』

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スパイダー
原題:“along came a spider” / 原作:ジェイムズ・パタースン/ 監督:リー・タマホリ / 脚本:マーク・モス / 製作:デイヴィッド・ブラウン、ジョー・ワイザン / 製作総指揮:モーガン・フリーマン、マーティン・ホーンスタイン / 音楽:ジェリー・ゴールドスミス / 編集:ニール・トラヴィス A.C.E / 出演:モーガン・フリーマン、モニカ・ポッター、マイケル・ウィンコット、ペネロープ・アン・ミラー、ミカ・ブーレム、マイケル・モリアーティ / 配給:東宝東和
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間43分 / 字幕:清水 馨
2002年05月11日日本公開
2002年10月25日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://spider.eigafan.com/
日比谷みゆき座にて初見(2002/05/28)

[粗筋]
 一流私立学校に通う、ハンク・ローズ上院議員(マイケル・モリアーティ)の娘・ミーガン(ミカ・ブーレム)が攫われた。三年に亘るシークレット・サービスによる学校近辺の警護をかいくぐったのは、二年間も教師として勤めていた男・ゲイリー・ソーンジ(マイケル・ウィンコット)――障害となりかかった同僚をあっさりと絞め殺しながら、冷静に犯行を成し遂げた手口は驚くほど周到だった。
 そのニュースを自宅のテレビで見ていた犯罪心理捜査官アレックス・クロス(モーガン・フリーマン)の傍らで電話が鳴る。出てみると、聞こえてきたのは少女の朦朧とした、救いを求める声――それは、ソーンジからの挑戦状だった。現役の刑事でありながら犯罪心理学者でもあり、多数のベストセラーを著した文筆家でもあるクロスだったが、八ヶ月前の囮捜査で同僚を死なせたことによる自責の念から引退すら考え始めていた。ソーンジはクロスの自宅の郵便受けにミーガンの靴を入れ、彼に復帰を促す。思惑に乗せられている、と感じながらも、クロスは久々に現場に足を踏み入れた。
 FBIに協力を取り付け、ミーガンの警護目的で三年に亘って学校を警備していたシークレット・サービスのジェジー・フラニガン(モニカ・ポッター)をパートナーに、クロスは学校の調査を開始する。周到に準備を進めていたソーンジは、宛らゲームのようにヒントを配していた。不安を感じるミーガンの両親を、クロスは犯人の計画性からして、重要な手札であるミーガンを殺す可能性は低い、と慰める。
 一方、ミーガンはボートの内部に監禁されていた。相変わらず自分には教師のように接し、しかしいざミーガンが機を見つけて逃走しようとすれば、助けようとした者を容赦なく殺害する男に恐怖を覚えながら、彼女は諦めようとしない。
 ある有名な誘拐事件を意識し、優れた犯罪者たることを狙う知能犯と、失態から引退すら考えていた学者肌の捜査官。縺れた糸を解きほぐし、その果てに勝利するのは一体誰なのか――?

[感想]
 まず、粋を心得た娯楽サスペンスの佳作、と評価を述べておきたい。広告のように『羊たちの沈黙』や『セブン』と較べると深みに乏しいし(あとあと描かれていない部分を解釈する楽しみはあるが)、あまりにあっさりと切り落とした結末が物足りないと感じるが、1時間50分足らず、最後まで緊張感を漂わせる組み立てはお見事。
 いちおう、『コレクター』に続くモーガン・フリーマン演じる犯罪心理捜査官アレックス・クロス、という位置づけになるが、原作の順序は逆で、こちらがアレックス・クロス初登場となる。『コレクター』では単なる虚仮威しの印象があった(と言っても『コレクター』のほうはテレビ放映で漫然と鑑賞しただけなので、本当はもっと丁寧な伏線があったのかも知れないが)結末が、本編はあとになって顧みると実に込み入った計算に基づいて組み立てられたものになっているの恐らく初登場故の意気込みであろう。ちなみに原作小説の邦題は『多重人格殺人者』となっているが――もし本編が原作に忠実なシナリオとなっているなら(未解決の箇所や説明不足の場面についても描写があると推測するなら、間違いなく忠実なプロットだろう)、相当に不釣り合いな題名と言わざるを得ない。そちらも『スパイダー』に統一することを薦めてみたり。
 同じ役は二度と演じないと公言するフリーマンが敢えて続編に、しかも製作総指揮兼任で出演し、更なるシリーズ継続も望んでいると言うあたりからも、このアレックス・クロスという役柄の魅力は伝わるだろう。所謂サイコ・スリラーの探偵役に必要な素養を備えつつ、影と人間的深みを感じさせる。映像版では多分にモーガン・フリーマンの役者としての魅力が加味されているのだろうけれど、そこまできっちりと嵌ったキャラクターを、エンターテインメントのヒーローとして継続して描きたいという意志はきっちりと感じられる。秀でた出来とは言えないが、堅実な仕上がりを保証してくれるシリーズの誕生そのものを喜ぶべきだろう。ただ冒頭、クロスの同僚が死ぬシーンはちゃちすぎて笑ってしまうが。

 ちなみに、シリーズと言いながら前作『コレクター』から監督が交代している。『コレクター』の監督は、現在最新作『サウンド・オブ・サイレンス』が公開中のゲイリー・フレダー、本編は『狼たちの街』を監督し来年には007を担当することも決まっている新鋭リー・タマホリ。しかし、前作の監督に敬意を表したのか、オープニング・クレジットの作り方は非常によく似ている。そうした類似を探してみても結構面白いかも知れない。

(2002/05/28・2004/06/22追記)


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