cinema / 『SURVIVE STYLE 5+』

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SURVIVE STYLE 5+
監督:関口 現 / 企画・原案・脚本:多田 琢 / 製作:林田 洋、森 隆一、平井文宏、TUGBOAT / プロデューサー:谷口宏幸、福山亮一 / 撮影:シグママコト / 美術:山口 修 / VFXスーパーヴァイザー:石井敦雄 / 音楽:JAMES SHIMOJI / エンディング曲:Cake『I WILL SURVIVE』 / 振付:香瑠鼓 / タイトルバックデザイン:佐藤可士和 / 劇中CM協力:石井克人 / 出演:浅野忠信、橋本麗香、小泉今日子、阿部 寛、岸部一徳、麻生祐未、津田寛治、森下能幸、JAI WEST、荒川良々、Vinnie Jones、三浦友和、千葉真一 / 配給:東宝
2004年日本作品 / 上映時間:2時間
2004年09月25日公開
2005年03月04日DVD発売 [amazon(PREMIUM EDITION)amazon(COLLECTOR'S BOX)]
公式サイト : http://ss5.goo.ne.jp/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2004/09/25)

[粗筋]
――石垣昌宏(浅野忠信)の場合。
 彼がいったいいつから妻を殺したいと思い始めたのかはよく解らない。とにかく、もう石垣には妻・ミミ(橋本麗香)を殺すという意外の選択肢はあり得なかった。自宅で殺害したあと樹海に運び、息を吹き返しそうになった彼女にスコップをたたきつけ、地中深く埋め一息ついたあとで帰宅した石垣が見たものは――たったいま埋めたはずの妻の姿だった。
 翌朝、ミミはありったけの食材を用いて朝食を作った。何も言うことが出来ずそれを黙々と平らげた石垣だったが、食い終わり、食後のお茶を飲み干して煙草に火をつけた次の瞬間、ミミの蹴りが彼を襲った。
 逃げまどう石垣、超人的なパワーで追いすがるミミ。辛うじて一矢報い、ふたたびミミの息の根を止めた石垣だったが、またしても樹海に運び、埋めて自宅に戻ってみると、何故かそこには妻の姿が……
――催眠術師・青山(阿部 寛)の場合。
 独特のパフォーマンスと高い能力で人気の催眠術師・青山は、個性的で強烈に印象に残るCMを製作し、日々思いついたネタをすぐさま記録するためにテープレコーダーを持ち歩いている洋子(小泉今日子)と交際している。だが、あけすけに彼女の作品を批判することにうんざりしたのか、それとも濃すぎる性格が癇に障ったのか、やはり理由は不明だが、洋子は青山を殺すことにし、専門家に依頼する。舞台上に現れた殺し屋は周囲の注目も気にせず、青山の首にナイフを突き立てる。あっけなく青山は死んでしまった――たったいま、鳥になる催眠をかけられたばかりのごく普通のお父さん・小林達也(岸部一徳)を置き去りに。
――ロンドンの殺し屋Jimmy Funky Knife(Vinnie Jones)とその通訳・片桐(荒川良々)の場合。
 片桐はとある高層ビルの一室に“KATAGIRI KILLER SERVICE”なる事務所を構えている。ある日依頼に訪れたCMプランナーの洋子は「折角金を払うんだから外人の殺し屋じゃなきゃイヤ」とご無体な注文をつけた。そのために片桐はわざわざロンドンからJimmy Funky Knifeを召還し、自分は通訳として同伴して仕事をこなす。
 首尾よく青山殺しを片づけた直後、片桐の事務所に次の依頼人が現れた。彼の名は――石垣。自分の手では殺してもいなくなってくれない妻に手を焼き、専門家を頼ることにしたのだ。Jimmyは彼の値切り交渉を何故かあっさりと受諾し、一万円で仕事を請け負うのだった……
――三人のかる〜い空き巣狙いの場合。
 津田(津田寛治)と森下(森下能幸)とJ(JEI WEST)はつるんで空き巣を働き、それで生計を立てている三人組。だが、津田はこんな仕事を続けているわけにはいかないと就職活動に精を出し始め、いっぽう森下はJに対して意味深な態度を取るようになるのだった。そんなある日、彼らはとんでもない場面に遭遇してしまう……
――ごく普通の(でも鳥になる催眠をかけられたままの)お父さん・小林の場合。
 ぽっぽー。

[感想]
 まず企画・脚本と監督のふたりについて(念のために)説明しておいたほうがいいだろう。ふたりとも広告業界に身を置いており、多数のCMで高い評価を得ている。代表作は本編でも主演している浅野忠信が意味もなくバスタブに登場する「富士ゼロックス」、津田寛治が行く先々で失言を繰り返し震えながらコーヒーを飲む「サントリーBOSS」、木村拓哉が謎の人物・岸部一徳に絡まれ続ける不条理なシリーズ「富士通FMV」……挙げていけば解るとおり、異常な展開で印象に残る作品ばかりだ。
 本編ははっきりと、こうしたCM群のノリを敷衍する形になっている。石垣のモノローグでの幕開けこそクライム・サスペンス風だが、自宅に戻り妻の姿を目撃した石垣は口にしていた牛乳を噴きだし、そこから極端にノリのいいオープニング・クレジットに突入する。この緩急のコントロールがラストまで繰り返され、こちらはひたすらに翻弄されるのみだ。
 登場する人物がまた、一人残らずヘンなのが楽しい。蘇ってくる妻も妻だが、そもそも石垣からして生活の背景がまったく解らない。いかに蘇ってくる妻に怯えているからと言って、あの数日間彼は仕事をしなくてよかったのか、そもそもどんな仕事をしていたらあんな家に住めるのか。洋子は随所随所で妙なCM企画を思いつきその都度妄想してみせるし(これがまた面白い)、青山は演じた阿部寛が舞台挨拶で「これまでで最もやりすぎました」と自認するぐらいヘンさが極まっている。会う人会う人に「What's your function here?(お前の役割は何だ?)」と(たとえ相手が殺す相手でも)訊ねる殺し屋に、その殺し屋の言葉をほぼ同時に、どうやら多分に色を付けて通訳する片桐の絶妙なコンビネーションも素敵だし、ほんとーに意味深な態度を取る森下に翻弄されるジェイと空き巣狙いをしながらマイペースに就職活動をしている津田という三人組の醸しだすムードも可笑しい。ほか、レストランで無気力に深刻なことを語り合っている女子高生二人組とか鳥にされてしまった小林さんの家族とか、普通そうでもかなりずれたキャラクターが多く、それぞれを観察しているだけでも笑える。
 ただ問題なのは、そうしたキャラクターの行動が終盤に向かってすべて一点に収束していくのではなく、放り出されたままになるエピソードが大半である、ということだ。こういう幾つものエピソードが混在する作品では、エピソードの要所要所にリンクを用意して観客の関心を繋ぎ、そうしてラストでのカタルシスに導いていくのが普通だが、本編ではそのリンクが弱く、関心を惹くところまで行っていない。たとえば津田ら空き巣三人組が忍び込む家は、青山の催眠術ショーに出かけた小林一家の自宅なのだが、ここでは彼らが鳥と化した小林と出会うぐらいしか全体にとっての主要な描写がない。また、洋子のエピソードは製作者ふたりのバックグラウンドを想起させてそれはそれで興味深いのだが、クライマックスに対しては他のどのエピソードよりも連携が乏しいので、ひたすら浮いた印象を残す。そんな具合に、中盤でそれぞれの話に繋がりが見えないために、特に中盤で激しい中弛みを感じさせてしまう。描写ひとつひとつは珍妙で楽しいのだけれど、それぞれが物語として有機的に繋がらないので、集中力を著しく削ぐのだ。
 が、そのあとに待ち受ける終盤の奇妙な切なさと、あまりに破天荒なクライマックスの衝撃はちょっとしたものだ――衝撃といっても脱力と紙一重の代物だが、このラストシーンのためだけにあれだけのエピソードを紡いでいったかと思うと、やはり頭の下がる想いがする。そしてそのラストシーンを飾るのが、あの人のあの台詞。その場では笑わせられたが、あとにして思うと見事に作品全体を総括していて、実に深い味わいがある。
 物語作りという側面からはまだまだ勉強不足の印象があるが、CMでさえもエンタテインメントに仕上げたその精神は本編にも充分活きている、と感じた。リズミカルな演出にヴィジュアル・センス、何よりキャラクターそれぞれの完成されたブッ飛び具合。話の出来を差し引いても、しばらくそのなかに身を浸しておきたいと思わせる作品世界の完成度は賞賛に値する。

 で、津田さんはその後、地獄めぐりに突入する、と。

 本編にはかなりたくさんのカメオ出演があるらしい、と聞いていたので、鑑賞時はそれも楽しみにしていたのですが、どーも本当にささやかだったり、巧く化けていたためなのか、私はあまり発見出来ませんでした。すぐに解ったのは洋子のエピソードに登場した広告代理店の人間が元ジョビジョバのマギーで、石垣にライターを借りる変な白バイ警官がピエール瀧だった、というぐらい。あとでプログラムを見て、やはり洋子のエピソードに登場したレストランのウェイトレスが三輪明日美だったと知って吃驚。その辺の再確認のためにももう一回ぐらい観てみたい気持ちです。

(2004/09/27・2005/03/03追記)


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