cinema / 『スタスキー&ハッチ』

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スタスキー&ハッチ
原題:“Starsky & Hutch” / 監督:トッド・フィリップス / オリジナル・キャラクター設定:ウィリアム・プリン / 原案:スティーヴィー・ロング、ジョン・オブライエン / 脚本:ジョン・オブライエン、トッド・フィリップス、スコット・アームストロング / 製作:ウィリアム・プリン、スチュアート・コーンフェルド、アキヴァ・ゴールズマン、トニー・ルドウィグ、アラン・リッシュ / 製作総指揮:ベン・スティラー、ギルバート・アドラー / 撮影監督:バリー・ピーターソン / 編集:レスリー・ジョーンズ / 音楽:セオドア・シャピロ / 出演:ベン・スティラー、オーウェン・ウィルソン、ヴィンス・ヴォーン、ジュリエット・ルイス、スヌープ・ドッグ、フレッド・ウィリアムソン、ジェイソン・ベイトマン、エイミー・スマート、カーメン・エレクトラ / DVD発売:ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:菊地浩司
日本劇場未公開
2005年04月20日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.movies.co.jp/starsky-hutch/
DVDにて初見(2005/05/01)

[粗筋]
 1970年代のベイ・シティ警察に厄介な刑事がふたり。デヴィッド・スタスキー(ベン・スティラー)は稀代の正義感の持ち主だが、罪の大小に拘わらず全精力を傾注して追いかけるために、各所に迷惑をかけ署内では物笑いの種となり、堅物過ぎるが故に誰と組まされても長続きしない。上司であるドビー警部(フレッド・ウィリアムソン)には名物刑事であった母イヴリンと比較して注意されるが、当人は納得しない。業を煮やしたドビー警部が新たに彼の相棒に指名したのは、もうひとりの問題刑事ハッチことケン・ハッチンソン(オーウェン・ウィルソン)である。
 このハッチ、なかなか極端な思想の持ち主で、長いものに巻かれろ精神を徹底するあまり犯罪組織に深入りし強盗にまで荷担する始末。それ故にハギー・ベア(スヌープ・ドッグ)という裏社会に精通した情報屋らからの信頼は厚いが、成果に結びつかないので警察内ではほとんど信用されていない。ドビー警部は皮肉めかして、互いに補い合えるだろう、とふたりを組ませたのである。
 あからさまに波長の合わないふたりの初仕事は、マリーナに漂着した射殺屍体の捜査。生真面目に当たっていくスタスキーと、屍体の懐にあった財布から金だけ抜き取って報告するハッチと相変わらずのふたりだったが、1974年型フォード・グラン・トリノを愛し女性に対するアプローチは案外くだけているスタスキーと、人当たりの良さでは天下一品のハッチは意外にもいいコンビで、捜査の過程で次第に意気投合していく。
 とは言え、根が問題児であるふたりの行くところトラブルは絶えない。幾つかの物証やハギー・ベアの情報を頼りに、ふたりは屍体となった男が加わっていた更生プログラムの主催者であり、どうも影でいろいろと企てているらしいリース・フェルドマン(ヴィンス・ヴォーン)に着目するが……

[感想]
 さすがにリアルタイムで観ているはずもなく、再放送で観ていたとしても詳しい内容は忘却の彼方にあるため、原作をどの程度踏襲しているのか、比較してキャラクターの出来はどうなのか、という論じ方は出来ない。だが、それ故に“単純に面白い”ということだけは保証できる。
 刑事ドラマなどと言い条、本編のベースはあくまでドタバタコメディであろう。のっけから僅か七ドルを盗んだ男相手に本気の追跡をするスタスキーに、本気で混ざった強盗一味が逃走中に掴まりかかったので慌てて潜入捜査を装うハッチ。両者が意気投合し始めるあたりになると、襲いかかってきた男達にまったく同じアクションで反撃したり、誤ってコカインを服用して無意味にテンションを上げたり、とおよそ刑事らしからぬハチャメチャぶりを示す。
 その一方で、犯人に向かっていく過程にはわりと筋が通っているのが逆に可笑しい。直感や符合に頼っているのであまり論理的とは言い難いが、実際の犯罪捜査というのはこんな感じだろうし、日本でも恐らくこれの原作に源流のある『あぶない刑事』シリーズなどはこの方向性を踏襲していることを考えると、立派なスタイルと呼べるし本編もそれをよく弁えていると感じる。
 また本編を個性的にしているのは、21世紀に入ったいまに敢えて1970年代の風俗を極力再現することに腐心している点である。ハギー・ベアに代表されるサイケデリックな衣装、グラン・トリノなどの今となってはオールド・ファッションであるのが却って斬新に見える車の数々、全篇を彩るカーペンターズ、エリック・クラプトン、エアロスミス、シカゴなどの往年の名曲群などなど、それ自体が今だからこそ作品に独自の世界観を構築している。
 が、何だかんだといいつついちばん楽しいのが、既に幾つもの作品で競演しているベン・スティラーとオーウェン・ウィルソンの掛け合いである。堅物と言いながらチアリーダーの動きを眺めつつステップを踏み始め案外簡単なことで暴発するスタスキー=スティラー、愛らしい二枚目半で清濁併せ呑むキャラクターと言いながらそんなスタスキーのツッコミに廻ることのけっこう多いハッチ=ウィルソンの見事に合った呼吸が、シリーズものの安定した雰囲気をよく再現している。
 オリジナル・シリーズのファンへのサービスとも見える場面も挿入した、いい仕事っぷりの光る快作。しつこいようですが、なんで劇場公開を飛ばしてビデオに直行したのかどうしても理解できません。終盤のカーチェイスなんか、いちどぐらい大画面と大音響で体感しておきたかった……

 ちなみに本編は特典映像もなかなかよく出来ております。お約束の未公開映像とNG特集に、大物ラップ・シンガーのスヌープ・ドッグ演じるハギー・ベアが作中のファッションについて自ら語る映像もなかなかよく纏まってますが、突出しているのはいわゆるメイキングの代わりに収録された撮影秘話。
 こういうのはだいたい本国のケーブルテレビなどで、上映開始前かその直後ぐらいに宣伝やファンサービスを意図して流されるものなので、全員揃って作品を持ち上げるのが常であるはずなのに、監督を除いて誰ひとり肯定的なことを口にしない。次のオーウェンとの競演があるならそれはギャラの話になると言うスティラー、話が来たときは舞い上がったけれど撮影が進むごとにどんどん沈んでいったと述懐するオーウェン、自分とヴィンスが徹底的に脚本を手直ししたと言い張るジェイソン・ベイトマン、途中から何も言えなくなっている製作者、共演者たちは意地悪ばかりだったと語る女優陣……ここまでやっているからネタだと解るが、しかしみんなさすがに役者だけあって表情が真に迫りすぎて怖い。
 それでも笑えるのは、こちらも予め練ったシナリオを用意しているからだろう。とことんコメディに徹する姿勢が窺われ、怖いと同時にちょっと微笑ましくもある特典映像である。購入された方は「どーせオマケでしょ」などと言わずにいちど御覧ください。

(2005/05/02)


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