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『light as a feather』トップページに戻るスティール
原題:“$TEAL” / 監督・スタント構成:ジェラール・ピレス / 脚本:マーク・エズラ / 美術監督:ギイ・ラロンド / 編集:ヴェロニク・ラング / 音楽:アンディ・グレイ / 撮影監督:テツオ・ナガタ / 製作総指揮:ジョナサン・バンガー、ジョン・フレムス / 製作:エリック・オルトマイヤー、ニコラス・オルトマイヤー、クロード・レジェ、ジェイソン・ビエット、マイケル・リオネッロ・コーワン / スタント・コーディネーター:ミシェル・ジュリエンヌ / 特殊効果:イブ・ランボーズ / 出演:スティーヴン・ドーフ、ナターシャ・ヘンストリッジ、ブルース・ペイン、スティーヴン・バーコフ、クレ・ベネット、カレン・クリシェ、スティーヴン・マッカーシー / 配給:GAGA-HUMAX
2003年フランス作品 / 上映時間:1時間24分 / 日本語字幕:風間綾平
2003年12月06日日本公開
公式サイト : http://www.steal.jp/
ニュー東宝シネマにて初見(2003/12/13)[粗筋]
電光石火の如き犯行だった。銀行を襲撃した覆面の四人組は華麗な手際で現金を奪うと、インライン・スケートの機動力で町を縦横無尽に疾駆し、見事に警察の追跡を免れた。
だが、四人組の計画はそこで終わるわけではなかった。一同のリーダーであるスリム(スティーヴン・ドーフ)は死と紙一重のスリルをふたたび堪能するために、強奪したうちの10万ドルを元手に更なる犯行を画策する。
次の計画は、現金輸送車の強奪。だが、前回の失態を繰り返すわけにはいかない警察の対応は極めて過敏だった。警察側の指揮官マグルーダー警部補(ブルース・ペイン)はヘリコプターまで動員して、スリムらが占拠した現金輸送車を執拗に追いかける。船着き場まで追い込み、マグルーダー警部補が勝利を確信した次の瞬間、現金輸送車は海中へとダイブした。追い込まれる場所まで計算ずくの犯行だったのである。
収穫よりもスリルに執心するスリムたちは、明くる日も次なる犯行に備えての訓練に余念がなかった。そうして訪れたフリークライミングのスタジオで、スリムは金髪の美女と出会う。彼女は最初の犯行のとき、警察の目をくらますためにスリムが保険の販売員を装って声をかけた人物だった。カレン(ナターシャ・ヘンストリッジ)と名乗った彼女とスリムは意気投合するが、犯行グループの一員でありスリムの恋人でもあるアレックス(カレン・クリシェ)は当然面白くない。先の犯行で手に入れた荷物のなかに2000万ドル及ぶ無記名債券が入っていた、と報告する態度も憮然としていた。スリムは恋人のそんな様子にもあまり頓着することなく、債券を換金する方法を模索する。
だが、スリムの派手すぎる犯行は、危険な人々の耳目を集めつつあった。無記名債券の本来の持ち主である組織は、金を奪還するためにサタイヤン(スティーヴン・バーコフ)を雇う。大仰なリーゼントのカツラを被ったこの男、表では教会の牧師を務めながら、裏ではそのサディスティックな本性を武器にヤバい仕事を請け負っているのだ。10万ドルの報酬を条件に、サタイヤンは暗躍を始める。
同じ頃、スリムたち強盗グループは何者かの手によって捕らえられ、冷凍室の中に縛り付けられた状態で脅されていた。近々、廃棄される予定の高額紙幣を奪い、自分の元へ運んでこい、と。逃げ出せば、スリムたちの犯罪の証拠が匿名で警察に届けられる。スリムたちに選択の余地はなかった。
使いに寄越されたジェリーという男と共に、スリムたちは三度目の犯行に及ぶ。大型トラックを用いた奇想天外な計画は、途中まではスリムの計画通りに進んでいた。だが、血の気の早いジェリーが無闇に拳銃をぶっ放したことで、事態は思わぬ展開を見せる――輸送車のなかに隠れていた警備員が、銃弾を浴びながらも反逆のために放った一発が、アレックスの腹部を射抜いたのである……[感想]
スタッフは『TAXi』参加者を中心とするフランス人、キャストはハリウッドを中心に英語圏から集められ、撮影は主にカナダ・モントリオールで行われているけど舞台はアメリカ。
そういう複雑な状況を反映してか、妙に無国籍なイメージのある映画に仕上がっている。会話はすべて英語だし扱われている貨幣もドルなのだが、どちらかといえば雰囲気はヨーロッパに近い。作中、知られた地名が一切登場せず、舞台が特定できないことも一因となっているだろう。
だが、そういう明確でない背景が、派手で荒唐無稽なアクションを正当化している。この物語の犯行計画は緻密に企んでいるようでいて、その実インライン・スケートと車のチェイス、海中からの現金奪取、タンクローリーの片輪走行、などなど非現実的な細部に支えられており、全体を見渡すと相当に無茶な代物なのだ。それが、舞台を特定せずフィクション性を高めた空間のなかで展開しているからあまり違和感を抱かせない。スリムたちが窮地を脱する過程など、細かく突っ込んでいくと穴がある(人数が合ってても検証すれば解るだろー)のだが、鮮やかで爽快な余韻が残る。
ハリウッドの同様の作品と比べると、主人公をヒーローとして描きながら、ロマンスを必要以上に押し出していないこと、痛快ながら微妙に癖のある結末を選んでいる点も特筆しておきたい。主人公であるスリムに恋人がいたり、途中で偶然出会った女性刑事とベッドになだれ込んだりしてはいるが、主人公の気持ちが動いているような印象はないし、全体にドライな態度を貫いている。
主人公スリム以外の登場人物の動向が細切れに、やや具体性に乏しく描かれているために、アクション場面以外での切迫感に欠いているのが少々勿体ない。だが、全体的にはアクションとサスペンスのバランスがよく保たれ、爽快ながらも決して安易に流されていない好編。ラストシーンにおける彼女の笑みが特に素晴らしい。本編の登場人物で最も精彩を放っているのは、主人公のスティーヴン・ドーフ――ではなく、ヅラのリーゼントでキめたクレイジーな使者サタイヤンを演じたスティーヴン・バーコフだろう。登場シーンはさほど多くなく、初登場シーン以外は主人公たちの前に現れたときにしか画面に映らないため、具体的にどうやって彼らを炙り出していったのか謎なのだが、それでも相当際どいことをやって辿り着いたのだろう、と匂わせる危険な言動が実にいい。
それだけに、やっぱりもーちょっと狂った活躍ぶりを見せて欲しかった、という不満が余計に募る。荒唐無稽なアクションをそうと自覚した上で活かし、些末な部分を切り捨てた潔さは、それはそれで評価できるのだけど、ね。それにしても、ニュー東宝シネマはそろそろ座席をどーにかしてください。座り心地が悪すぎます。
(2003/12/15)