cinema / 『夏休みのレモネード』

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夏休みのレモネード
原題:“Stolen Summer” / 監督・脚本:ピート・ジョーンズ / 製作総指揮:パトリック・ピーチ、ミッシェル・サイ / 製作:マット・デイモン、ベン・アフレック、クリス・ムーア / 撮影:ピーター・ビアジ / 編集:グレッグ・フェザーマン / 音楽:ダニー・ラックス / 美術:マーサ・リング / 衣装:ステイシー・エレン・リッチ / 出演:アディ・スタイン、マイク・ワインバーグ、アイダン・クイン、ボニー・ハント、ケヴィン・ポラック、ブライアン・デネヒー、エディー・ケイ・トーマス / 配給:media suits
2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 字幕:松浦美奈
2003年06月28日日本公開
公式サイト : http://www.mediasuits.co.jp/lemonade/
シネスイッチ銀座にて初見(2003/07/19)

[粗筋]
 1976年のシカゴ。ピート・オマリー(アディ・スタイン)は八人兄弟の下から三番目、アイルランド系カトリックを信奉する両親のもと、貧しいけれど幸せに暮らしていた。
 夏休み前、学年最後の授業でこっそり携帯ゲームで遊んでいたことがばれたピートは、シスターから「あなたのような悪い子は天国に行けませんよ」と窘められる。ピートはショックを受けて、どうすれば天国に行けるのか模索しはじめた。
 ピートが参考にしたのは兄のシェイマスの助言。聖人と呼ばれる人の何人かは、異教徒を改宗させたことで崇められるようになった。人をキリストの教えに導き、天国への道を示すことが自分も天国へ行く近道なんだ――
 夏休みに入るとともに、ピートはいい人間になるため、天国の<探求>を開始した。あろうことか少年は、近所にあるユダヤ会堂を訪れて、責任者であるラビ・ジェイコブソン(ケヴィン・ポラック)に会堂の前でレモネードの無料配布をさせて欲しいと提案する。教義の違いを諭しながらもピートの純粋さと優しさを感じ取ったラビは快く許してくれた。
 だが、昨今はユダヤ教徒も日曜祭日にしか会堂を訪れず、たまに通りかかる人もレモネードを手に取ってくれない。ラビのもとにも信者から抗議の伝言が届いたが、真面目に天国への道を<探求>しようとしているピートのほうがよっぽど誠実だ、と無視した。
 シェイマスが<探求>の様子を見に来たその日、事件が起きた。会堂の近所にあるラビの自宅で火事が発生したのだ。消防隊に勤務するピートたちの父ジョー(アイダン・クイン)の決死の突入でラビの一人息子ダニー(マイク・ワインバーグ)は無事に救出されたが、長年ラビの一家に仕えてきたお手伝いの老婦人は焼死してしまった。悲しみに暮れながらも、ラビはジョーに感謝を示し、追悼の儀式“シヴァ”にジョーとピートの親子を招いた。
 葬儀のあいだ特にすることのないピートはダニーの借りている部屋にお邪魔し、彼が白血病を患っていることを知った。薬の副作用で今年のはじめには髪の毛がすっかり抜け落ちたというが、いまは小康状態に入ったため自宅で療養し、ようやく髪が生えそろったばかりだという。同情したピートは、彼を天国に導くことを<探求>のテーマに決めた。
 乗り気になったダニーと日毎に落ち合い、異教徒であるダニーが天国に行く方法を思案する。いちばん手っ取り早いのは聖体拝領式に参加してキリスト教徒になることだが、ピートは来年、一学年下のダニーは再来年にならないと聖体が受け取れない。ピートが自分の教区のケリー牧師(ブライアン・デネヒー)にその理由を訊ねると、三年生ぐらいにならないと信仰に求められる知識が備わらないから――つまり、テストに通らなければいけない、という風に説明した。具体的な方法が解らない男の子たちふたりは、独自に十個のテストを決め、それをこなせば天国に行ける、と考えた。
 ふたりの純粋で無邪気な挑戦は、だが次第に双方の親を巻きこんで、思わぬ展開を見せるのだった――

[感想]
 本編は、ベン・アフレックとマット・デイモンがインターネット上で実施した脚本公募コンテストの第一回グランプリを獲得した作品を、脚本家自らが監督したものである。
 長年映画界に憧れてきたものの、畑違いの分野で活動していた人物が初めてメガホンを取った作品であり、故に演出もカメラワークも実に実直で素朴、奇を衒ったところはひとつもない。登場人物も時として苛立つくらいに平凡な暮らしぶりと考え方の持ち主ばかりで、不思議な親近感を与える。
 脚本コンテストでグランプリを獲得しただけあって、堅実ながらもよく練り込まれた感のあるストーリーが素晴らしい。私が無知なせいか、冒頭でレモネードを持ち出すくだりがやや理解できないのだが、それ以外は実に合理的で、結末までスムーズに繋がっている。上の粗筋では登場させられなかったが、オマリー家の長兄パトリック(エディー・ケイ・トーマス)と父との反目までがきっちりシナリオのなかで活かされているのだ。
 作者の少年期に合わせたと思しい時代設定があまり有効に働いていない点がやや勿体ないが、それ以外にシナリオで文句を付けるところはない。シナリオの完成度が高いからこそ、あとはある程度の役者を揃え、堅実な演出をするだけで良かったわけだ。
 感涙に噎ぶ、という結末ではないが、ピーターの出した宗派を超える結論は、いつまでも胸の奥で響く。他に表現する言葉が見つからないくらい、ただただ「いい」映画である。

 ちなみに本編で映画デビューを飾ったというアディ・スタイン少年、作中ではアイルランド系カトリック信者の家庭に育っているが、実生活ではラビの息子だという。……そんな複雑な。

(2003/07/19)


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