cinema / 『TAXI NY』

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TAXI NY
原題:“TAXI” / 監督:ティム・ストーリー / 脚本:ロバート・ベン・ギャラント、トーマス・レノン、ジム・クーフ / 原案・製作:リュック・ベッソン / 製作総指揮:ロバート・シモンズ、アイラ・シューマン / 撮影:ヴァンス・バーバリー / 美術:メイン・バーク / 編集:スチュアート・レヴィ / 共同製作:スティーヴ・チャスマン / 衣装:サーニア・ミルコヴィック・ヘイズ / 音楽監修:スプリング・アスパーズ / 音楽:クリストフ・ベック / キャスティング:ドナ・アイザックソン、クリスチャン・キャプラン、イレーヌ・ストレンジャー / 出演:クイーン・ラティファ、ジミー・ファロン、ヘンリー・シモンズ、ジェニファー・エスポジート、ジゼル・ブンチェン、アナ・クリスティーナ・デ・オリヴェイラ、アン・マーグレット、クリスチャン・ケイン / ヨーロッパ・コープ&ロバート・シモンズ製作 / 配給:20世紀フォックス
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:松浦美奈
2005年01月08日日本公開
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/taxi-ny/
有楽町ニュー東宝シネマにて初見(2005/01/08)

[粗筋]
 ニューヨークで自転車便の仕事をしていたベル(クイーン・ラティファ)は、長年の夢であった免許を取得し、晴れてタクシードライバーとして開業する。しかし、自転車便をしていた頃は道を選ばない縦横無尽なスタイルで最速の名をほしいままにし、最後の夢がレーサーである彼女は、タクシーもただのタクシーではない。至急との要望があれば即座に仕様を変更、自転車便の仲間から餞別に貰ったチタン製のスーパーチャージを起動して街を縦横無尽に駆けめぐり一時間の道程を十分足らずに短縮することも出来る。取締の白バイ対策に、必要とあらばナンバープレートの偽装も自動で行える、まさに最強のタクシーだった。
 そんな彼女の不運は、銀行強盗の発生したその日、刑事のウォッシュバーン(ジミー・ファロン)に拾われてしまったことから始まった。無線で事件の発生を知ったこのウォッシュバーン、もともと囮捜査官としてそれなりに有能な警官だったのだが、最大の欠点は免許を取得しながらも運転がド下手だということ。先日も運転ミスにより犯人を取り逃がし、仲間や警察に多大な損害を齎したかどで刑事から巡回に格下げされてしまった。いの一番に現場に駆けつけ逃走する犯人のしっぽを捕まえたウォッシュバーンは起死回生のチャンスとばかり、ベルに強盗犯の車を追わせる。ご存知の通りベルの車は特別仕様、腕に覚えのある犯人グループの一員ヴァネッサ(ジゼル・ブンチェン)をきりきり舞いさせるが、しかし追いつめたところで意外な反撃に遭い取り逃がしてしまう。途中、ウォッシュバーンの失態により後部座席の窓を撃ち抜かれる、というオマケ付きで。
 ベルは事情聴取の名目でしばらく引き留められ恋人ジョシュ(ヘンリー・シモンズ)との約束に遅れたばかりか、一時的にタクシーを取りあげられてしまった。一方、単独行動を上司でもと恋人のマータ警部補(ジェニファー・エスポジート)に咎められ、強盗犯の捜査から外されたウォッシュバーンはそのベルに密かに接触、警察への反感からベルが秘匿していた情報を引き出そうとする。あまりにも頼りない彼に同情したのか、ベルは強盗が目撃情報と異なり女ばかりの四人組であること、使用していた車種がBMW760であること、そしてウォッシュバーンが撃ち抜いたタイヤが特殊なものであり、近辺で扱っている店はたった一軒しかないことを指摘し、彼女たちが必ずそこに現れると推理する。ウォッシュバーンはこれが済んだら彼女にタクシーを返す、と保証して、ベルとともに問題の店で張り込みを行った。
 ……予想以上に時間を費やしたが、やがて推測通りヴァネッサら犯人グループはやって来た。しかしウォッシュバーンが踏み込む際にぐずぐずしていたせいで、ふたり揃ってあっさりと捕らえられてしまう。機転とも言えぬ機転でどうにか乗り切ったがまたしても犯人グループを取り逃がし、銃声と燃やされたウォッシュバーンの車に気づいてやって来た警官に犯人扱いされかかって、自分たちが慌てて逃げ出す羽目に。
 断りもなく遅刻した挙句に帰宅は夜更け、怒ったジョシュにベルはアパートから放り出されてしまった。ウォッシュバーンはウォッシュバーンで再びの単独行動が咎められ、そればかりか犯人に関する情報をFBIに秘匿していたために、とうとうクビを言い渡される。この窮地を脱するには、自分たちの手で犯人を捕らえるしかない……

[感想]
 フランスの映画監督・製作者のリュック・ベッソンが手がけた『TAXi』シリーズの基本的な枠組みだけを借り、舞台はニューヨークに、主人公となるタクシー運転手を黒人女性にするなど多くの変更を施したリメイク作品である。
 変更を施した、とは言うが基本的なテイストはほとんど変わっていない。車のこと以外脳味噌スッカラカンだった主人公が、女性に変わったことで車以外の点でわりと常識人になっていたり、またハリウッドらしく刑事の上司にも女性を配して、組織のなかでの人間関係にロマンスを束ねてキャラクターを整理し全体をスマートにしているが、道化に徹した刑事とドライバーとの軽妙なやり取りや「こんな奴らいてたまるか」と思うくらいのトラブルメーカーぶりはそのままだし、最大の見せどころであるカーアクションにも多くのアイディアを盛り込んでいる点も踏襲している。
 同様に、ツッコミどころの無数にある作風も受け継いだ形となった。あのあからさまに法を犯すことを念頭にしたタクシーに認可が下りるのかとか、あそこまで運転が苦手でいったいどうやってウォッシュバーンは最初の免許を取得したのかとか、そもそもそんなにウォッシュバーンの不手際で損害を被っているならとっくにクビにされてていいんじゃないのかとか、犯人ずいぶん金をかけて準備を整えたわりには男装しているのに声を変える努力をどうして怠っているのか(見れば解るが、犯人のアジトと思しきプレハブには窒素ガスがふんだんに置いてあり、そこをちょっとした笑いどころにしている)とか、思い浮かぶところは多々ある。
 そのわりに突き抜けた印象がないのは、作り手がどこまで意識してツッコミどころを挿入しているのか解らず、それ自体も妙にこぢんまりと纏まってしまったきらいがあることだ。無茶苦茶ではあるのだが、主人公となる運転手と刑事のふたりが犯人の痕跡を独自に追う手段にはそこそこ理屈が通っているし、描写に伏線も張られている。そうした脚本を書き慣れているらしい配慮の数々が、アクションやコメディ描写を全体の印象の枠に嵌めてしまっているのだろう。
 もうひとつ、物語の視点がほぼ追う側に絞られていることも、作品を綺麗に纏めている代わりに突出したインパクトを与えない原因となっているだろう。いちおう犯人の痕跡を手繰る過程も見所となっていることもあって視点が主人公たちに偏っているのだろうが、そのために犯人側の行動の突飛さや奇矯さが目につきづらくなり、余計に作品全体のイメージを丸くしてしまっているようだ。
 だが、その主人公ふたりと周辺人物はなかなか魅力的で面白い。クイーン・ラティファ演じる車狂いだがけっこう常識人で包容力を感じさせるベル、ジミー・ファロン演じる冒頭で有能と言われたわりには運転以外でも間抜けぶりを披露したかと思うと拳銃を幾つも隠し持つ姑息さやくそ度胸の強さを顕したりもするウォッシュバーン、ベテランのアン・マーグレット演じる酒飲みだが息子のウォッシュバーンを思いやり当人も意識せずに色々と解決してしまう変な才能の持ち主である母親、このあたりのやり取りは見ていて非常に楽しい。完璧なトラブルメーカーであるこのふたりに巻き込まれる格好の恋人や元恋人の右往左往する姿もコメディの王道を感じさせる。
 何より、大混雑する都会を縦横無尽に疾駆するカーチェイスは、現実では絶対にあり得ないだけに壮観で、見終わったときの爽快感は見事。テンポのいい演出も相俟って、一時間四十分の程良い尺が更に短く感じられる、本当にスピード感のある一本。何も考えずに楽しめます。

(2005/01/08)


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