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『light as a feather』トップページに戻るターミナル
原題:“THE TERMINAL” / 監督:スティーブン・スピルバーグ / 原案:アンドリュー・ニコル、サーシャ・ガバシ / 脚本:サーシャ・ガバシ、ジェフ・ナサンソン / 製作総指揮:パトリシア・ウィッチャー、ジェイソン・ホッフス、アンドリュー・ニコル / 製作:ウォルター・F・パークス、ローリー・マクドナルド、スティーブン・スピルバーグ / 撮影:ヤヌス・カミンスキー,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:アレックス・マクドウェル / 編集:マイケル・カーン,A.C.E. / 衣装:メアリー・ゾフレス / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 共同製作:セルジオ・ミミカ=ゲツェン / キャスティング:デブラ・ゼイン,C.S.A. / 出演:トム・ハンクス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、スタンリー・トゥッチ、チー・マクブライド、ディエゴ・ルナ、バリー・シャバカ・ヘンリー、クマール・パラーナ、ゾーイ・サルダナ / ドリームワークス提供 / 配給:UIP Japan
2004年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2004年12月18日日本公開
公式サイト : http://www.terminal-movie.jp/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2005/02/04)[粗筋]
ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に、ひとりの垢抜けない男性が降り立った。彼の名はビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)。ピーナッツ缶を携えて意気揚々とゲートを潜ろうとした彼だったが、いきなり空港の国境警備局に連れて行かれる。警備局主任のフランク・ディクソン(スタンリー・トゥッチ)が口早に事情を説明するが、ろくに英語も解さないビクターは空港の建物に放り出されて途方に暮れるだけだ。ようやく事情を理解したのは、空港のあちこちにあるTVモニターに流れるニュースを目にしたときだった。ビクターの故郷である、東ヨーロッパの小国クラコウジアでクーデターが勃発、政治的にクラコウジアという国は消失してしまった。つまり、ビクターのパスポートは無効となり、ゲートを潜ってアメリカに入国することも、郷里に戻ることも出来ない。彼は法の陥穽に落ちこむ格好で、この空港に閉じこめられたのだ……
しかしこのビクター・ナボルスキー氏、なかなか逞しかった。改装中のために閉鎖されている67番ゲートを仮住まいに定め、トイレの水道で髭を剃りシャワーを浴び、身繕いを整えると見よう見まねで入国管理の窓口に挑む。入国係官の女性ドロレス・トーレス(ゾーイ・サルダナ)は淡々と“入国不可”の判を捺すだけだったが、ビクターは挫けない。
そんな彼は、昇進を間近に控えたディクソンにとってかなりの厄介者だった。空港内の規律を乱し、査定に傷が付くと考えた彼は、空港の警備に敢えて一瞬の“空白”を設け、それをビクターに打ち明ける。彼が自発的に出て行き、別の管轄で捕らえられることを目論んでのことだったが、ビクターは周囲の様子からそのことを察し、慣れぬ英語でこう宣言する。「僕は待つ」
空港内に“逗留”するビクターの存在は当然の如く、次第にほかの職員たちにも知れ渡るようになっていった。脛に疵のある身の清掃員グプタ(クマール・パラーナ)はビクターをどこかの諜報員か、さもなくば密かに自分たちを査定しているのだ、と言い張るが、さすがにまわりのものは取り合わない。ビクターはそうした周囲の眼も意に介することなく、マイペースで自分なりの空港生活を形作っていった。空港内に放置されたカートをホルダーに返却すると一台につき25セント戻ることを知った彼は積極的にカートを掻き集め、クラッカーで辛うじて癒していた空腹をハンバーガーに変えることに成功する。そして、余ったお金で同じガイドブックのロシア語版と英語版とを一緒に購入し、独学で英語を覚えていった。
空港内で我が物顔に振る舞っている(ように見える)ビクターが煙たくて仕方のないディクソンは、彼が金を稼いでいた手段を、新たな業務に加えて奪ってしまう。ふたたびクラッカー中心の倹しい食事に戻ったビクターに救いの手を差し伸べたのは、フード・サービスに勤務するエンリケ・クルズ(ディエゴ・ルナ)だった。彼は厨房から出る食事を望むだけ分け与える交換条件として、ビクターにある人物の情報を探って欲しい、と頼んできた。その人とは、入国係官のドロレス。日参するうちにそれなりに親しくなったビクターに、彼女の口から色々と聞き出して欲しい、というのだ。まだ曖昧な部分はあるがだいぶ英語の達者になったビクターは快諾する。
やがてエンリケを介して、前はビクターを警戒していたグプタや、荷物運搬人のジョー・マルロイ(チー・マクブライド)とも親しくなっていったビクターだったが、一方でちょっとした悩みを抱えるようにもなった。それは、時々出逢う美しいキャビン・アテンダントの女性アメリア・ウォーレン(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)に対する片想いであった……[感想]
観てから一日間隔を開けたら、出来事の時系列が把握できなくなってました。それくらい、細かな出来事が無数に鏤められていて、記憶のなかで順序通りに繋げておくのが難しいのだ。
CMなどでビクターが空港で入国許可の下りる時を待ち続けた理由である“約束”を前面に打ち出しており、プログラムでも「観賞後に御覧ください」というページを設けているぐらいだったので、作品のポイントは“約束”の内容にあるのだと思い込んでいたのだが、そういう意味では拍子抜けだった。ビクターの人柄と信念の強さを保証する役には立っているが、観客を牽引する材料としてはもの足りず、期待に充分応えるものではない。
また、いまいったい滞在開始から何日ぐらい経過したのか、を把握するための手懸かりがあまりなかったのも、混乱を招く要因となっている。序盤で吹雪により欠航が相次いで空港内が足止めを食った人で溢れた場面があり、終盤でふたたび雪景色が描かれることで季節が一巡したことを窺わせるものの、その中間では外の様子がほとんど描かれないので尚更に時期が特定しづらい。下手をすると英語を覚えはじめるまでの出来事が二・三日程度で一気に起きたように見える。たぶん製作者が嫌ったのだろうが、便宜のために日時か、滞在開始からの日数をときどき表示するぐらいの配慮は欲しかった。
だが、ひとつひとつの出来事、描写、キャラクター造型はいずれも出色だった。なにを言われているのかも解らず空港に閉じこめられたビクターが祖国の現状を知るくだりの、滑稽であるが故に悲しい行動。何処かずれてはいるのだが、一貫して信念を曲げない姿。そんな彼に対して、最初は出世に差し障りがあると判断して鬱陶しさを感じ、やがては意地となってビクターを邪魔しようとするようになる警備局主任のディクソン。ビクターを理由もなく胡散臭がり、しかしいったん打ち解けると全幅の信頼を置くようになるグプタの愛嬌のある言動。毒だと解っていて食べてしまう、と自らの癖を述懐し、奇妙な言動ながらも誠意を感じさせるビクターに惹かれていくアメリア。異邦人であるビクターを介して結びついたエンリケとドロレス――ほか、名もない職員たちまで個性がきっちりと形作られており、そんな彼らの会話や交流が滑稽で、苛立たしく、そして快い。時系列が解りにくく戸惑うことも確かだが、それ故に「ここにいるのも悪くないかも」と思わせてしまう纏め方が非常に巧い。
買って出たかのようにラスト間際まで憎まれ役に徹したディクソンを除き、大半が善人だというのに、決して甘くない展開が続き、結末にも微妙なほろ苦さを留めた作りにも好感を覚える。ただお涙頂戴というだけで余韻も減ったくれもない結末に走るのではなく、幾許か思い通りにならない部分を残したことで、ラストシーンの味わいを深めている。
そう、確かに期待した“理由”ではなかったけれど、その扱いが終始実に洒落ていたことは評価したい。中盤くらいからのビクターの言動に伏線を用意してあり、それを踏まえているからこそあのあっさりとしたとも言える結末が深みを増しているのも間違いないのだ。スタッフロールの表記に用いたお遊びも、この余韻を助けている。
言われるほど“感動の”というイメージは抱かなかったが、洒落っ気とユーモアセンス、個々の要素の素晴らしさは確かに一級のヒューマン・ドラマである。オチがどうこうよりも、ビクターと彼を取り巻く人々の言動にこそ価値のある作品だろう。(2005/02/05)