cinema / 『トランスポーター』

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トランスポーター
原題:“TRANSPORTEUR” / 監督:ルイ・レテリエ / アクション監督:コーリー・ユン エグゼクティヴ・プロデューサー:スティーヴン・チャスマン / 製作:リュック・ベッソン / 脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン / 撮影:ピエール・モレル / 美術:ユーグ・ティサンディエ / 編集:ニコラ・トレンバジウィック / 音楽:スタンリー・クラーク / 出演:ジェイソン・ステイサム、スー・チー、マット・シュルツ、フランソワ・ベルレアン、リック・ヤン / 配給:Asmik Ace / DVD発売:Asmik
2002年フランス作品 / 上映時間:1時間33分 / 字幕:石田泰子
2003年02月01日日本公開
2003年07月05日DVD発売 [amazon]
公式サイト : http://www.transporter.jp/
新宿東急にて初見(2003/02/08)

[粗筋]
 契約条項は厳守する。依頼者も自分も名前は伏せる。決して中身は覗かない。
 イギリスの退役軍人であるフランク・マーティン(ジェイソン・ステイサム)がフランスでプロの「運び屋」稼業を続けていくために、それは自ら課したルールだった。常に身の回りを整然と片付け、一切のトラブルに巻きこまれないよう心懸ける。タルコーニ警部(フランソワ・ベルレアン)に目をつけられながらも奇妙な付き合いを継続させ、危険と隣り合わせながらも「運び屋」稼業を続けられてきたのは、繊細な用心の賜物だった。
 銀行強盗の逃走を手伝った翌日、フランクは新たな依頼を受けた。ニースまでの長距離ながら、150センチX50センチ、50キロ足らずの荷物を運ぶだけの単純な仕事。だが、途中に発生したパンクが、フランクの運命を狂わせた。換えのタイヤを取り出したとき、荷物は暴れ悲鳴を挙げた――好奇心を抑えきれず開けたバッグの中には、後ろ手に縛られ口をテープで留められた女(スー・チー)の姿があった。
 途中その女に逃げられそうになり、あまつさえ警察と遭遇して警官ふたりの余分な荷物を詰め込む羽目になったが、とにかくフランクは無事クライアントに荷物を送り届ける。届け先の男――ウォール・ストリート(マット・シュルツ)は、その場で新たな仕事をフランクに言いわたす。預けられた1キロ足らずのトランクは、あるドライブインでフランクが休憩している最中に、トランクに詰めた警官もろとも爆発した。
 フランクはフォールの家を急襲し、せいぜい憂さを晴らしたあと、ベンツを奪って逃走する。だが、どういう巡り合わせなのか、ベンツのトランクにはどさくさに紛れて潜んだ例の女の姿があった。一度は置き去りにしたものの、結局フランクはその女を自宅に連れて帰る。
 疲れで頭が回らないことを言い訳に、フランクはライと名乗ったその女に食事だけ与えて放置した。だがライは逃げる様子も見せず朝食を用意して、爆破された車の件で訪れたタルコーニ警部を前に恋人のふりさえしてみせた。困惑し苛立つフランクは、不意に異様な気配を察する。次の瞬間、フランクの家をロケット弾が襲った。

[感想]
 久々に、真っ当なアクション・ヒーローが登場した、という感じ。
 ヒーローとは言ったものの、主人公は善人ではない。余計なものと関わり合いにならないために、契約を自分にも依頼人にも遵守させ、超過した荷物はたとえ人間でも放棄させる。異常なカーチェイスに当たっては、警察を翻弄することに楽しみを覚えているようにすら見える。
 反面、本編の主人公・フランク自身は進んで人殺しをしようとはしない。トランクに詰め込んだ人間にわざわざ飲物を与え、銃を使っても基本的に手足しか撃たず、戦闘不能にすることのみを念頭にしている。非情な世界に生きながら、そういう部分でもルールを徹底させている主人公の姿は異様なまでに格好いい。
 プロット自体は単純だが、それもこうした主人公の魅力と、全編で展開されるアクションの迫力を存分に見せるために徹しているからだろう。ワイヤーをまるっきり使っていない、はずはないと思われるが、観ている間それを意識させるような使い方はまったくさせていない。あくまで肉体のみで可能だがしかし人間離れした戦闘シーンと、随所に用いられるアイディアを眺めているだけでも面白い。一部派手すぎる、と思わされるきらいはあるし、実は一番肝心な部分について説明していなかったりする(「お前に何が解る」と言われても、いちおう説明してくれないと解りようがないだろーが、と画面にツッコミを入れたくなる)が、物語を進める上で極端な無理をさせていないのも好感が持てる。ここ最近に鑑賞した映画のなかで、最もアクションが美しかったのは『ザ・ワン』だと思っている(SF的解釈の破綻はこの際どーでもいい)。が、個々のアイディアと迫力では本編のほうが数枚上手であろう。実は両方ともアクション面でコーリー・ユエンが絡んでいるのだが。
 難癖を付けるなら、イギリス人のステイサムに香港出身のスー・チーを起用し、テーマの面でも国際性を謳っているのに、物語のなかではそれがあまり反映されていないこと、そして主人公のモチベーションとなるスー・チーの活躍する場面があまりないこと、そしてクライマックスのアクションがそれまでと較べて迫力不足でややカタルシスに欠く、というのがある。が、いずれも全体を通してのテンションと密度が高く、短めの尺に思う存分エンタテインメントの要素を詰め込んだが故に、却って物足りなさを感じさせているからで、作品全体の仕上がりを貶めるものではない。
 結末もほぼ予定調和だが、ほろ苦さも交えて決して単純なハッピーエンドにはしなかったあたりにも気概を感じさせる。混ざりもの最小限のアクションと娯楽を堪能したい、という向きにはこの上なくお薦めの一本。

 ところで本編、ジェイソン・ステイサムが英語圏の人間である(しかもイギリス訛りバリバリ)ことに配慮してか、それとも世界を照準に合わせた作風のせいか、基本の言語は英語であり、随所にフランス語と中国語(流石にどこの言葉かまでは特定できず)を織り交ぜるかたちで会話を行わせている。
 てっきりこれが標準だと思い込んでいたのだが、フランスではきっちり全編フランス語のヴァージョンで上映したらしい。確かに、現地で仕事をしているジェイソン・ステイサム=フランクがまったくフランス語を話せないのも、スー・チー=ライが英語と中国語しか話さないのも違和感があるのだけど、場面場面でその言語を操る必然性は結構認められたので、その辺をフランス語オンリーでどのように表現していたのか、逆に興味が湧く。というか、ジェイソン・ステイサムもフランス語で吹き替えしたんだろうか。似合わねー。

 もひとつ余談。私は本編をかなり前から、劇場の予告編で見知っていて期待していたのだが、公開が間近に迫って目についたのが――バイク便のボックス後ろに貼られた広告。なるほど、「輸送者」という題名と内容に相応しく、印象に残る巧い戦略だと思う――がちょっと待て。
 この話、バイクって出てきたか?

(2003/02/09・2003/07/04追記)


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