cinema / 『TRICK −劇場版−』

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TRICK −劇場版−
監督:堤 幸彦 / 脚本:蒔田光治 / 撮影:斑目重友 / 美術:稲垣尚夫 / 音楽:辻 陽 / 主題歌:鬼束ちひろ「月光」(東芝EMI/Virgin Tokyo) / 声の出演:郷里大輔、田中亮一、森山周一郎 / 出演:仲間由紀恵、阿部 寛、生瀬勝久、前原一輝、山下真司、芳本美代子、川崎麻世、相島一之、竹中直人、ベンガル、石橋蓮司、大木凡人、ふせえり、岡田眞澄(写真だけ)、伊武雅刀、野際陽子 / 製作:テレビ朝日、東宝 / 配給:東宝
2002年日本作品 / 上映時間:1時間59分
2002年11月09日公開
2003年06月21日DVD発売 [amazon]
公式サイト : http://www.trick-movie.com/
日劇PLEX2にて初見(2002/11/23)

[粗筋]
 山田奈緒子(仲間由紀恵)は売れないマジシャンだ。優れたマジシャンである父・剛三(岡田眞澄=写真だけ)に憧れて同じ世界に飛びこんだものの、観客はいなくなるわすぐに首になるわ年がら年中家賃は滞納するわで全く芽の出る気配がない。
 その日またしても舞台を首になり、アパートに戻ってみれば大家の池田ハル(大島蓉子)がここをマンションに建て替えて家賃を大幅値上げするなどと言われていよいよ窮地に追い込まれた状態となった奈緒子の前に、糸節村青年団の団長・神崎明夫(山下真司)と副団長の南川悦子(芳本美代子)と名乗る2人が現れた。2人は奈緒子に、糸節村に300年に一度現れるという「神」を演じてほしいと頼む。
 糸節村では300年ごとに巨大な亀が現れ、村に大いなる災いを齎すという。だが一方、善行を重ねれば「神」が訪れ、災厄から村を救ってくれるという言い伝えも存在した。そこで、一般に顔の知られていない奇術師である奈緒子に適当にマジックを演じてもらって、「災いは私が取り除いた」とでも言ってくれれば八方丸く収まる、という提案なのである。最初こそ「人を騙すなんて」と渋っていた奈緒子だったが、それなりの報酬を前に結局承諾してしまう。
 アパートに戻ってみると、そこには「糸節村に行ってはならない」という壁いっぱいの脅迫文と、何故か石像が置いてあった。たじろいだところで突然鳴った電話の相手は――日本科学技術大学の上田次郎教授(阿部 寛)。弱虫で臆病で知ったかぶりで奈緒子とは数年前からの腐れ縁である上田だったが、今日は同窓会の余興にマジックを演じてほしいと言ってきた。いちおうエリート揃いということで急ぎ馳せ参じた奈緒子は、だが審美眼とプライドだけは高い一同の冷笑に遇され激昂して立ち去る。
 その頃、上田たちの同窓会の席で異変が起きていた――徳川埋蔵金を発見した、と豪語したクラスメイトの1人臼井(三宅弘城)がトイレで何者かに殺されたのだ。床には臼井がいまわの際に残したと思われるメッセージが残されている。「トイレツマル」と読めるそれを上田と似たもの同士の馬鹿者どもは鵜呑みにして埋蔵金がどこかの汲み取り式トイレに隠されていると思い込み、それぞれの職権を乱用して横取りを目論むのだった。
 翌日、奈緒子は神崎らに連れられて糸節村に赴く。何だか妄信的でヤバげな村民に怯えつつも、頃合いを見て神を演じた奈緒子だったが――反応はとっっても薄い。なんと、既に神を名乗る人物が3人も集まってきて、それぞれに奈緒子以上の奇跡を演じてみせたというのだ。それぞれに対決させて本物を見極める、という村人たちによって、奈緒子は小屋に閉じ込められる。
 その格子の外に突然、上田が姿を見せた。『どんと来い、超常現象3』の取材という名目の元、こっそりと糸節村に潜入していた上田は、例によって意図の不明瞭な話をし始める。その中で上田が漏らしたダイイングメッセージが実は糸節村を指し示していたことを看破した奈緒子は、他の神候補に打ち勝って、村人たちを動員して宝の横取りをしよう、と上田に提案、万一のときのために暗号まで用意してことに臨んだ。
 果たして奈緒子はこの窮地を脱し、埋蔵金を奪取できるのか? そしてドラマシリーズレギュラーの矢部(生瀬勝久)と石原(前原一輝)に出番はあるのか?!

[感想]
 やっぱり『TRICK』はどこまで行っても『TRICK』なんだな、うん。という話。
 ミステリ映画を期待すると、かなり消化不良の気分になる。怪奇色ふんだんな事件が連続し、ちゃんと犯人も出てくるのだが伏線も動機も説得力があるとは言い難い。何より、実は一番重要な事件がひとつ未解決のままとなっているのがいけない。いちおう、『TRICK』らしい事件と話を形作る上では非常に役立っている一件なのだが、ちょこっとでも解決らしきものを提示しなかった(或いはそうと解る形で表現しなかった)のはミステリとして大きな疵になっている。
 また、多くの要素を詰め込みすぎたために、ミステリとして以前にお話としてぎくしゃくしてしまった感があるのも残念だった。ドラマシリーズのレギュラーを全て登場させ、そのうえ豪華ゲストをガンガン使い捨てる姿勢は最高だが(本気で褒めてます)、そのために登場人物たちの行動ひとつひとつの整合性や説得力が失われてしまった。
 とは言え、この支離滅裂ぶりを許容させてしまうキャラクターと演出の力はドラマシリーズと変わらず素晴らしい、というか逞しい。コント的な間を利用して随所に細かな笑いの技を入れてみたり、その一方でのちのトリック解明に繋がるヒントをさりげなく埋めこんでいたり、という手管は見事の一言に尽きる。とりわけ、幾ら説明されても解らない人には解らないかも知れないトランプトリックと、箱の中身当てのロジックは巧い。
 そして、奈緒子と上田の関係継続を暗示するラストは、見え見えながらやっぱりぐっとくる。矢部たち警察の使い方も憎いし、スタッフロールの最後まで観客を席に釘付けするスタイルに至るまで、ドラマシリーズの味わいは完璧に留めている。
 ミステリ映画としては肩透かしだし、単体の映画としては説明不足や伏線の取り漏らしが多くて物足りなさを感じるだろう。が、そうしたポイントでさえ、ドラマ本編の魅力を理解している人であれば満足間違いなしの出来である。この思いっ切りぶりを賞賛しつつ、本気で待つこととしよう――ドラマシリーズパート3を。
 ……で、臼井はなんで殺されたんだっけ?

(2002/11/23・2003/06/20追記)


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