cinema / 『T.R.Y.』

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T.R.Y.
監督:大森一樹 / 原作:井上尚登『T.R.Y.』(角川書店・刊) / 脚本:成島 出 / 製作:岡田裕介、角川歴彦 / 企画:坂上 順、永田洋子、亀山千広 / 撮影:加藤雄大(J.S.C) / 美術:稲垣尚夫、竹内公一 / 音楽:住友紀人 / 主題歌:『We can be Heroes』 song by 織田裕二 / 製作協力:中国電影合作制片公司、中国上海電影集団公司 / 出演:織田裕二、黒木 瞳、シャオ・ビン、ソン・チャンミン、ヤン・リューチー、ピーター・ホー、渡辺 謙、今井雅之、松岡俊介、市原隼人、伊武雅刀、石橋蓮司、夏八木勲、丹波哲郎 / 配給:東映
2002年日本作品 / 上映時間:1時間44分
2003年01月11日公開
公式サイト : http://www.try-movie.jp/
池袋シネマサンシャインにて初見(2003/02/15)

[粗筋]
 20世紀初頭、上海。様々な国籍の人々が徘徊し、設け話と血腥い犯罪が跳梁するこの町を根城に、伊沢修(織田裕二)はいた。貧しい人々の手を借りながらペテン師稼業に勤しんでいたが、ある日年貢を納めることになる。
 刑務所にいた伊沢を、かつて彼のペテンにあって上海中の笑いものになった武器商人が訪れた。復讐のために、商人は闇の組織“赤い眉”に暗殺を依頼した、と伊沢に告げる。間もなく、食堂で起きた喧嘩のどさくさに、伊沢は刺客(ピーター・ホー)に襲われた。必死の抵抗も虚しく、刺し殺されそうになったところに、ひとりの男が割ってはいる。男の名は関 飛虎(シャオ・ビン)――中華黎明会を名乗る、革命組織の一員であった。関は伊沢がいることを知った上で刑務所に潜入し、接触の機会を計っていたのだ。武器商人を騙した一幕を賞賛し、その力を自分たちに貸してほしい、と言う関に、伊沢は苦笑いする。革命になど興味はない、とはねつける伊沢に、関は「ならば自分がお前を殺す」と言い放った――どちらを向いても敵しかいない。いつの間にか伊沢は退っ引きならないところにいた。
 棺に隠れて脱獄を成し遂げた伊沢は、黎明会の計画を聞かされて言葉を失う。彼らは、東正信中将(渡辺 謙)が上海に運び込むよう手配している武器と弾薬をかすめ取ろうとしていたのだ。風聞にすぎない情報を頼りに企てた大雑把な計画。加えて東中将は清廉潔白、完璧を絵に描いたような人品であり、ペテンにかけるための取っかかりが存在しない。逃げを打とうとする伊沢に、クラブの歌手というふたつめの顔を持つ女・丁愛鈴(ヤン・リューチー)の銃口が向けられる……
 いったんアジトを離れた伊沢を、黎明会が青幇を通して手打ちにしたはずの“赤い眉”の刺客が襲った。追ってきた愛鈴の手助けで辛くも難を免れたものの、伊沢は関らの計画性の乏しさを改めて痛感する。
 伊沢は韓国出身の詐欺師であり、全幅の信頼を寄せる数少ない人物でもあるパク・チャンイク(ソン・チャンミン)と接触し、東中将に付け入る隙を捜す。相変わらず完全無欠にしか見えない中将の周辺を探っていた伊沢は、ある二枚の写真に目をつけた。
 ――舞台はひとたび日本に移る。東中将を罠に嵌めるため、伊沢たちの暗躍が始まった……

[感想]
 ……ちと、消化不良気味。
 前半・中盤の展開はいい。スピーディで緊張感に満ち、それでいて騙し騙される快感に満ちている。自ら「三流のペテン師」をもって任じる伊沢=織田裕二の演技が今回些かわざとらしいが、それすら主人公のいかがわしい雰囲気を形作っていて、当時の上海が具えていた雑多な雰囲気を匂わせて楽しい。このあたりの場面での問題は、アジア各国からのキャストが話す日本語にいかにも「その場で仕込みました」といった印象があって、細かい単語が聴き取りづらい点だろう。日本に滞在した経験がある、という設定の関=シャオ・ビンぐらいはもうちょっと流暢な言葉を話してほしかった。また、様々な要素を取り込みたかったためか
 最大の難点は、クライマックス。最後のペテンの絡繰りが説得力に欠き、そのあとのどんでん返しの連続に明確な伏線がないため唐突で、またばたばたした印象が付きまとう。ある意味盛大な場面にはそれなりのカタルシスがあるのだけれど、コン・ゲームの結末としては物足りなさを禁じ得ない。
 これから世界が暗い時代に向かうことを知っている我々に、決して暗い後味を齎さない決着は巧いのだが、終盤の安易さがエンタテインメントとしての安定感を崩してしまった気がする。相変わらず独特の色気を放つ織田裕二と、頑固一徹の軍人を迫力いっぱいに演じた渡辺謙、そして如何にも大作らしく贅沢な脇役陣、そして日本映画としては敢闘賞もののロケーションなどなど、筋の完成度よりは画面とそれが醸成する空気を堪能するほうが無難だろう。コン・ゲームの魅力を堪能したいのなら、たぶん原作を読んだ方が早いです。……予習が間に合わなかったもので私自身は未読なんですが。

 なお、中国・韓国のキャストの人名表記は、一部ブラウザでは表示不能の文字があったため、全てカタカナで統一させていただきました。プログラムでのアルファベット表記を元に書いているため、実際の発音と異なっている部分があるかと思いますがご勘弁を。

(2003/02/15)


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