cinema / 『運命の女』

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運命の女
原題:“UNFAITHFUL” / 監督:エイドリアン・ライン / 脚本:アルヴィン・サージェント、ウィリアム・ブロイルズJr. / 製作:エイドリアン・ライン、G・マック・ブラウン / エグゼクティヴ・プロデューサー:ピエール=リチャード・ミューラー、ローレンス・スティーヴン・メイヤーズ / 撮影監督:ピーター・ビジウ、B.S.C. / プロダクション・デザイン:ブライアン・モリス / 編集:アン・V・コーツ、A.C.E. / 衣裳:エレン・ミロジニック / 音楽:ジャン・A・P・カズマレック / 出演:リチャード・ギア、ダイアン・レイン、オリヴィエ・マルティネス、エリック・ペア・サリヴァン、チャド・ロウ、ドミニク・チアニーズ、ケイト・バートン、マーガレット・コリン / 配給:20世紀フォックス
2002年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2003年01月11日日本公開
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/unfaithful/
新宿武蔵野館にて初見(2003/01/25)

[粗筋]
 コニー・サムナー(ダイアン・レイン)は年齢に較べて若く美しいが、ほかに格別な欲も取り柄もない平凡な主婦だった。夫のエドワード(リチャード・ギア)は車の販売代理業を行う会社の社長を勤めているが、妻と家族を一心に愛する普通の男。息子のチャーリー(エリック・ペア・サリヴァン)も、標準と較べて心根に幼い傾向はあるが素直ないい子に育っており、コニーの生活になんの不満もない、はずだった。
 息子の誕生日プレゼントを買うために郊外の自宅から電車経由でソーホーを訪れたコニーだったが、暴風でまともに歩けず、転んだ拍子に本を抱えた若者を巻き添えにしてしまった。大風のためにタクシーは乗車拒否を繰り返し、膝からは血を流しているコニーを気の毒に思ったか、若者は間近にある自分のアパートで消毒するよう勧める。古本の売買を職業としている彼、ポール・マーテル(オリヴィエ・マルティネス)はフランス出身の魅力的な若者で、予防線を張りながら急ぎ立ち去ろうとするコニーに一冊の本を進呈した。帰宅後、夫に成り行きを説明したコニーは、その本を本棚の目立たぬところに忍ばせる。
 エドワードの薦めもあって、コニーはお礼のワインを届けにふたたび電車で近くの駅まで向かう。不承不承だったコニーはそこから電話で呼び出そうとするが、ポールは言葉巧みにコニーをアパートに誘い込んでしまった。雑談に紛れて細かなスキンシップを図るポールに、絆されそうになる自分が恐ろしくなって、コニーは早々に退出して夫の職場を訪れる。買ってきたセーターを無邪気に喜ぶ夫の姿に安堵しながら、罪の意識はどうしても拭えない。
 そして、三度目の来訪で、彼女は遂に一線を越えてしまった。若く野放図なポールの抱擁は瞬く間にコニーを虜にした。以来コニーは、エドワードが家を空ける日中に、機会を見つけてはポールのアパートメントに足を運ぶようになる。
 ふたりの逢瀬はその度に大胆さを増していった。流石に誰の目があるか解らないレストランで昼食を一緒に摂ることだけは躊躇われたコニーをけしかけるために、ポールは一計を講じる。いま奥のテーブルで明細の奪い合いをしている男性ふたりのどちらが支払うことになるか賭けよう、と言い出した。賭けはポールが勝ち、他人の目を憚ることなく接吻するふたり――だが、コニーは不幸にも気づかなかった。支払の奪い合いをしていたひとりが、エドワードの会社に勤めるビル(チャド・ロウ)であったことに。
 妻の雰囲気が変わりつつあることに若干の不安を抱いていたエドワードだったが、ヘッドハンティングの交渉に応じていたビルを解雇したとき、彼が残した捨て科白で初めて本当にその可能性を疑った。「人の家族のことをどうこういう前に、自分のことを顧みろよ」
 エドワードは平日、職場の近くで一緒に昼食を摂らないか、と妻を誘った。迷う様子を見せたあと、コニーはエステの予約があるから、と断った。エドワードは職場から、コニーが挙げたエステサロンに確認を取る。――妻の予約など、入っていなかった。

[感想]
 意外とストレートな内容だった。
 広告などでも売りにしているくらいだから、官能描写の迫力と巧妙さは素晴らしい。重要な場面では必ずふたつの場面を交錯させ、台詞や行動を対比させて彼我の差を見せつける演出は、夫婦の距離感を実に見事に描ききっている。
 だが、人物造型に特異な要素はないし、物語の道筋も標準的で格別サスペンスに満ちた展開となることもなく、残酷ながらいちばん自然なところに落ち着いてしまった、という印象がある。『危険な情事』の監督による新作、と聞いていた所為でかなり激しい葛藤を想像していたのだけど、その意味では裏切られた気分がある。
 ただ、前述の演出の巧みさに活かされつつ、決して奇を衒わず迫真の物語を描くことに徹した点では優れたシナリオと言っていいだろう。大がかりな仕掛けはない代わりに、細かい小道具などの伏線が終盤にいたって輻輳した心理をシンプルに伝えるのに役立っているあたりなど、熟練の職人技に映る。
 なんかエッチで背徳的でスリリングな内容、などと期待するとかなり肩透かしを食らうが、一時の気まぐれに端を発した不倫がドミノ倒しのように事態を悪い方へ悪い方へと押しやっていく様を静かに、文学的に描き出した作品としては素晴らしい。若干細部の結びつきが悪く振り返ると些か散漫な印象が残ってしまうが、結末の余韻は重くも深い。
 恋人同士とか夫婦とかで観に行くとあとの話題に苦しみかねないので、映画にせよ本にせよ似たような趣味のある人と一緒か、ひとりで劇場を訪れることをお薦めします。

(2003/01/25)


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