/ 『ヴァン・ヘルシング』
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『light as a feather』トップページに戻るヴァン・ヘルシング
原題:“Van Helsing” / 監督・脚本・製作:スティーヴン・ソマーズ / 製作・編集:ボブ・ダクセイ / 製作総指揮:サム・アーサー / 撮影監督:アレン・ダビュー,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:アラン・キャメロン / 編集:ケリー・マツモト / 衣装デザイン:ガブリエラ・ペスクッチ、カルロ・ポッジョリ / 音楽:アラン・シルヴェストリ / 特殊効果メイクアップ・プロデューサー:キース・ヴァンダーラーン / 特殊効果メイクアップ・クリエイター:グレッグ・キャノン / 特殊効果スーパーヴァイザー:ブライアン・サイプ / ILM視覚効果スーパーヴァイザー:スコット・スクワイア、ベン・スノウ / スタンド・コーディネーター:R.A.ロンデル / 第2ユニット監督:グレッグ・マイケル / 視覚効果プロデューサー:ジェニファー・ベル / 出演:ヒュー・ジャックマン、ケイト・ベッキンセール、リチャード・ロクスバーグ、ウィル・ケンプ、デヴィッド・ウェンハム、ケヴィン・J・オコーナー、シュラー・ヘンズリー、エレナ・アヤナ、シルヴィア・コロカ、ジョージー・マラン / ユニバーサル・ピクチャーズ製作 / 配給:GAGA-HUMAX
2004年アメリカ作品 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:林 完治
2004年09月04日日本公開
公式サイト : http://www.vanhelsing.jp/
日比谷スカラ座1にて初見(2004/08/28)※先行レイトショー[粗筋]
1887年、トランシルバニアのとある小さな村。松明を掲げ村人が大挙する先は、不気味な気配を纏わせた古城――その一室で、フランケンシュタイン博士は長年の研究の成果である人造人間を完成させようとしていた。だが、人造人間の体を用意するために行った墓暴きが村人たちの逆鱗に触れたことに気づくと、誕生したばかりの生命を連れて脱出を図ろうとする。しかし彼のパトロンを務めた人物はそれを許さなかった。その人物――ドラキュラ伯爵(リチャード・ロクスバーグ)は博士を殺害すると、買収した博士の助手イゴール(ケヴィン・J・オコーナー)とともに連れ出そうとするが、人造人間は予想外に強烈な抵抗を見せ、自らの生みの親と共に逃走、風車小屋へ向かう。脱出の姿を目にした村人たちは風車小屋に火をかけるが、ついで現れた吸血鬼たちの影にあわてて散り散りになる。あとには燃えさかる風車小屋だけが残されていた……
それから一年後。ローマ法王庁の秘密組織・聖騎士団要請によって各地に存在する化物を退治する役割を担った男――ヴァン・ヘルシング(ヒュー・ジャックマン)にドラキュラ討伐の命が下った。トランシルバニアに居を構えるヴァレリアス家は代々魔物調伏の系譜であったが、400年前に「ドラキュラを倒すまで一族のものは天国へは赴かない」と宣言、しかしもはや一族に残された末裔はヴェルカン(ウィル・ケンプ)とアナ(ケイト・ベッキンセール)のただふたりだけで、ドラキュラ伯爵を退治出来る可能性は低い――貢献の多い彼ら一族をみすみす煉獄に落とすわけにはいかない、という話だった。加えて、トランシルバニアのその地にはヴァン・ヘルシングにとっても何らかの因縁があるらしかった。記憶を失って彷徨っていた彼を法王庁の人間が拾ったとき、ヘルシングは記章の入った指輪をしていた。かの地で発見されたタペストリの切れ端に記された記章が、それとまったく同じ意匠だったのだ。
武器開発担当者であるカール(デヴィッド・ウェンハム)を伴って現地入りしたヴァン・ヘルシングだったが――退治した魔物は死ぬ寸前に人間の姿に戻ることから、つまり冷酷非道の殺人犯として知れ渡っている彼は、どこへ行っても熱烈な歓迎を受ける。そのうえ問題の村は繰り返されるヴァンパイアの襲撃のために排他的に凝り固まっていた。どうにか話をつけようとヘルシングが進み出たその矢先――昼間ながら厚い雲によって太陽が覆われているのをいいことに、ドラキュラ伯爵の三人の花嫁アリーラ(エレナ・アヤナ)、ヴェローナ(シルヴィア・コロカ)、マリーシュカ(ジョージー・マラン)が襲撃を仕掛けたのだ。
翻弄されながらも、カールの武器と知識とを駆使してどうにかマリーシュカを塵に返し、花嫁たちを撃退したヴァン・ヘルシングに、だが村人は相変わらず冷たかった。彼らはあまりに強大すぎるヴァンパイアたちを身近に感じるあまり、復讐を恐れている。だが、アナはそんな彼らを制し、ひとまず客人としてふたりを受け入れた。
自らの居城でふたりをもてなし、カールにはヴァレリアス家の先代が入り浸っていた書斎に通ることを認めたものの、ヴァン・ヘルシングの協力そのものはなおも拒もうとした。先に発生した事件がもとで、アナの兄・ヴェルカンは川に転落して行方不明、もはや一族の命運は風前の灯火と化しているというのに、それ故に彼女の胸には自らの手で復讐する、という一心しかない。
その夜、アナは怪しげな物音に目を醒ますと、武器庫を訪れる。ほうぼうに濡れたあとのあるその部屋で彼女を待っていたのは、行方を眩ましていたヴェルカンの、変わり果てた姿だった――[感想]
――あ、アドレナリン出っぱなし。
上のような形で粗筋を記すと随分込み入った話のように感じられるかも知れないが、スクリーンで観ているとそんな印象はない。それどころか、考えるより先にずんずんと転がっていくストーリーに引っ張られて、あっという間に作品世界に惹きこまれてしまう。細かく考えると色々奇妙な点がありそうだ、とは思うのだが、疑問を心の中で検証するような暇がないのだ。この引きずり込む力は、ここ数年に鑑賞した娯楽映画の中でも屈指と言っていい。
ポイントとなるのは、音楽と効果音とを巧みに絡めた、スピード感あふれる演出だ。それ自体がリズムと一体化した騒々しいまでの効果音に、フラメンコ調のフレーズを組み入れたギター演奏など血を騒がせるような作りをした音楽が物語の盛り上がりを助ける一方で、画面は目まぐるしく急速度で事態を追っていく。ときおり音楽を止め効果音も最小限にし、にわかに緊迫した場面を挟んで緩急をつけている。スピード感はあるが、それ故に倦ませるような愚は犯していない。
こうした作り方にもうひとつ貢献しているのが、解りやすいキャラクターの数々である。ドラキュラ伯爵にフランケンシュタイン、更に(出番はわずかだが)ハイド氏など、まず原典を知らなくとも誰しもがその存在を知っているクリーチャーたちが顔を連ねており、一種親しみやすい空気を醸成している。また、金のみで簡単に翻意しいかにもらしい行動をするイゴールや、化物退治の家系に生まれつき唯一の肉親さえ失いながら気丈に戦い続けようとするヒロイン・アナ王女、特殊な武器の開発者で基本的にインドア派だが主人公に引きずり出され厭々活躍する享楽的な修行僧カールといった、自分の個性について自覚的なメインキャラが多いこともそれぞれの方向性を掴みやすくし、理解を助けている。ある意味誰も悩んでいないので、話が非常にスムーズに動くのである。
唯一、肝心のヒーローであるヴァン・ヘルシングはプラム・ストーカーが書いた『吸血鬼ドラキュラ』とそれに基づく作品群に触れたことがないと特徴が掴みにくく、逆にオリジナルを知っているとキャラクター性の違いに引っかかりそうなものだが、こちらも幾つかの要点が纏まっているので割と簡単に受け入れられるはずだ。物語の謎も、ドラキュラ伯爵の目的を除けば彼の過去ぐらいなものなので、その意味では安心して強烈なアクションの渦に身を浸していられる。
ただ、随分とネタを振ってきたわりには、肝心のヴァン・ヘルシングの過去についてはほとんど解らずじまいとなっている。だがそれとてあまりに気にならないのは、僅かに苦さを残しつつも爽快で美しいエンディングを用意したことと――これで終りじゃあるまい、という期待を持たされるせいだ。ここまで魅力的に組み立てられたキャラクターと世界観なのだから、他の著名なモンスターと絡める形で新たな冒険譚を創造することは充分に可能だ。
とは言いつつ、個人的には謎が解かれないこのままの格好でも満足していたりする。スピード感と力強さのあるアクション・アドヴェンチャーとして王道をゆく仕上がりは、細かい矛盾や妙な点はあるものの全体としてはほぼ文句が思い浮かばないし、何よりこの程度ならば想像を膨らませる“ゆとり”とも解釈出来る。こういうヒーローものは、その後を想像出来るくらいでちょうどいいのだ。
何はともあれ、固いこと抜きで楽しんで「あー面白かった」で済ませられる作品。やっぱり映画は単純に面白くなくちゃ、という信念をお持ちの方は迷わず御覧ください。ただひとつ惜しいのは――スタッフロールが10分ぐらいあること。ILMはじめヴィジュアル・エフェクトのスタッフが大勢存在するためだ、というのは解るんだけど、さすがに長すぎます。本編は飽きなかったのにスタッフロールだけで欠伸が出そうになったわよっ。
(2004/08/29)