cinema / 『ケータイ刑事 THE MOVIE バベルの塔の秘密〜銭形姉妹への挑戦状』

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ケータイ刑事 THE MOVIE バベルの塔の秘密〜銭形姉妹への挑戦状
監督:佐々木浩久 / プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ / 脚本:林誠人 / 製作:高西伸兒、鈴木径男、飴井保雄 / 共同プロデューサー:永田芳弘、畭尾裕俊 / ラインプロデューサー:鈴木浩介 / 撮影:近江正彦 / 照明:紺野淳一 / 美術プロデューサー:平野裟一 / 編集:大永昌弘 / VFXディレクター:古田亘 / VFX:諏訪部正英 / 衣装:高橋京子 / 録音:奥泉秀信 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:黒川芽以『ヒコーキ雲』(YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS) / 制作:BS-i / 出演:黒川芽以、堀北真希、夏帆、草刈正雄、山下真司、金剛地武志、佐藤二朗、宍戸錠、矢部美穂、宝積有香、半海一晃、諏訪太郎、山中聡、小林摩耶、合田雅吏、田中要次、水野晴郎 / 配給:エム・エフボックス
2006年日本作品 / 上映時間:1時間38分
2006年02月04日公開
公式サイト : http://www.bs-i.co.jp/zenigatamovie/
池袋シネマサンシャインにて初見(2006/02/04)

[粗筋]
 銭形警視総監の孫にあたる銭形家の姉妹は揃いも揃って、学生の身でありながら警視庁に籍を置く本職の刑事でもある。長女の愛は現在インターポールに勤務しているが、次女の泪(黒川芽以)、三女の舞(堀北真希)、四女の零(夏帆)は全員警視正の階級を持って現在も活躍中である。
 そんな彼女たちの元にある日、思いもかけぬ情報が齎される。長女・愛が何者かによって誘拐されてしまったのである。キング・アンドリウを名乗る犯人は、愛を返して欲しくば自分の挑戦を受けるように告げる。時を同じくして、三人の携帯電話にそれぞれ事件の報告が着信する。まず、それらの事件を解決せよ、との挑戦に、泪・舞・零は現場へと駆けつける。
 最年少の零が手懸けるのは、寺を訪れた男が突如として炎上、焼死するという怪事件。舞が遭遇するのは、人気漫画家が密室状態の仕事場で額に矢を撃たれて死亡する事件。泪が挑戦するのは、占い師による予告殺人の謎解き。三人は従来から彼女たちのサポートを行っている高村一平刑事(草刈正雄)、五代潤刑事(山下真司)、鑑識課の柴田太郎(金剛地武志)らの協力を得て事件に取り組むが、その背後には意外な陰謀が隠されていた……?

[感想]
『ケータイ刑事』シリーズはBS-iを中心に放送されて人気を博した、ミステリ・ドラマシリーズである。2002年に宮アあおいをヒロインとした『銭形愛』のシリーズが開始され、二代目として三女・舞が翌年に、以降三代目の次女・泪、四代目の四女・零と継続、今年に入ってもなお新シリーズが計画されているという。二代目・舞を演じているのはしばらく前から個人的に注目しており、昨年あたりからは出演映画が矢継ぎ早に公開されている堀北真希であり、またいちおうのミステリ者として、謎解きと銘打っているからにはいちど観ておかねば、と考えていたのだが、時機を逸したまま今回シリーズとしても初めての姉妹共演を実現した映画版が公開されるという情報を知り、本編のとの邂逅はまだだがとりあえず観ておこう、と舞台挨拶のチケットが取れたのをいいことに初日から鑑賞したのだが。
 率直に言って、ミステリとしてもドラマとしても、基本的には子供騙しである。アイドル女優を主役に据えた作品の典型的な型に嵌っている。
 異様に権力を持っていそうな警視総監がずーっと本来の職場を離れており、その娘達が全員高いIQを備えていて、学生の身空で警察官としての階級も備えている――という荒唐無稽な設定はいいとしても、事件の作りがお粗末すぎる。姉妹三人がそれぞれ手懸ける事件は、ある程度ミステリの知識がある者なら初見でトリックが解り、かつ冷静に検証すれば状況設定が強引すぎて成立しないことも解るものばかりだ。
 三つの事件が解決したのち、サブタイトルにもなっている“バベルの塔”が登場、そこでクライマックスが繰り広げられるが、それまでも推理クイズ程度の話運びだったのが、ここでにわかにゲーム大会にまで格下げされてしまうのもどうなのか。数字に強い零、運動能力に長けた舞、それぞれが単身バベルの塔に挑んだ泪を携帯電話越しに助ける、という格好で見せ場を用意している点では評価できるが、内容的なバランスの取り方では失敗している、と言わざるを得ない。
 だが、そういう謎解き部分も雑さも含めて、本編には観る側を楽しませようという工夫がきちんと凝らされており、そのことには好感を抱く。銭形家に忠誠を誓う、と口にする公安部の佐藤公安(佐藤二朗)のわけもなく長いスカーフだとか、やたらとテンションの高い体育会系の刑事五代とか、気障な語り口で胡散臭いことばかり言っている高村刑事といったレギュラー・キャラクターの個性、被害者や容疑者のキャラクターや言動もまたいちいち珍妙で楽しい。よく見ると事件関係者の名前がほとんどスタッフのそれと一致しているあたりにも、遊び心を感じさせる。
 そして何より、これがあくまでヒロインたちの活躍を見せる映画なのだ、ということを外さない構成になっているのは、決してマイナスで捉えるべきではないだろう。三人それぞれにひとつずつ事件を解決し、シリーズのお約束である口上を述べるタイミングも設けている。クライマックスでは泪が中心となって動きながら、シリーズのタイトルにもなっている携帯電話を介して他のふたりが得意分野で姉を助ける、というシチュエーションもある。かなりチープではあるが、そのチープさを自覚した上で楽しみに繋げているのだから、根はしっかりしている。
 ミステリ・ドラマとして本格的とは言い難いが、そのお約束を活用したコメディとしてはなかなか。少なくともシリーズのファンや、主演女優三人のファンの期待を裏切るような作品にはなっていない。
 個人的にはクライマックスで踊る堀北真希がとても可愛かったのでそれだけでも大満足でありました。

(2006/02/05)


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