第1章 4:
   「黄色い花・紫の花・白い花」



  「いち、にー、いち、にー ・・・ 」
  先程から2人は壁と池の間の通路を何回も往復しています。「うまい具合に出てく
 りゃ良いんだけどなぁ・・・ いち、にー、いち、にー、はいターン、いち、にー、いち、
 にー・・・ 」レオンの掛け声に合わせて行進している2人の前に閃光が走り、当然なが
 らモンスターが出て来ました。
  「また違う・・・ 」残念そうに呟いてレオンが『ちびオーク』を一撃で倒しました。
  2人は何をやっているのでしょう。そうです。これこそ最後の黄色い花を摘む唯一
 の方法なのです。
  この方法を思い付いたのはレオンでした。「つまりだなぁ、マックル族は戦いで相
 手を倒すと南を向く習性があるんだよ。そもそも昔からマックル族は争いや戦いを好
 まない種族だったんだな。んで、どうしても戦わなきゃいけなくなった時は全力で戦
 うんだけど、戦いが終わったあと勝ったほうは南を向いて『太陽神』に報告というか、
 戦ってしまったお詫びをしてたそうなんだ。まあマックルは元々北半球のカラッカ周
 辺で誕生した種族らしいから・・・ だから・・・ 早い話、花の北側でモンスターを倒せば
 良いってこった。そうすりゃ、花のほうを向いた状態で立てるだろ。」
  という訳で、2人は壁と池の間を何回も往復していたのでした。
  ピカッ!「よっしゃぁ、来た!」 ようやく目的の場所でモンスターが現れたよう
 です。現れたのは『ウィルオーウィスプ』3匹と『ブルースライム』3匹でした。
  「サンダーL!」とレオンが唱えると、凄まじい稲妻が辺り一面に降り注ぎ、6匹
 のモンスターは一瞬で消え去りました。
  「何も、あんな雑魚敵相手にそんな魔法使わなくても・・・ 」と勇者は思いましたが、
 ともあれ、ようやく最後の黄色い花が摘めそうです。

  「この花を摘みますか?」「はい」 最後の黄色い花を摘んだ瞬間・・・

  ゴゴゴゴゴ・・・ と2人の後ろで音がしました。慌てて振り向くと、今まで聳え立っ
 ていた壁が左右2つに開いて中央に一本の通路ができました。通路を渡るとどうやら
 このフロアを出られそうです。
  早速、通路に向かって歩き始めた勇者を、何故か、レオンが止めました。
  「ちょっと待て、何か忘れてる気がすんだよなぁ・・・ 」
  「はて・・・ 」勇者もそういえば何か忘れている気がしましたが、思い出せませんで
 した。「あれ・・・ 何だろう・・・ 」
  「あっ、そうだ!」レオンが思い出したようです。「確かあの掲示板には『紫の花
 は精霊の花 摘んでもよいが踏んではならぬ』って書いてあったぞ。何故、わざわざ
 『摘んでもよい』なんて書いてあるんだ? たぶん『摘んでもよい』ってことは摘ま
 なきゃいけないってコトなんだ。」
  レオンの申し出により勇者は紫の花を摘むことにしました。「間違っても踏むんじ
 ゃねぇぞ。」レオンに言われるまでもなく、勇者は細心の注意を払って紫の花を摘ん
 でいきました。

  紫の花は全部で8輪ありました。その最後の8輪目を摘んだ時のことです。8輪の
 花が勇者の手を離れ、ゆっくりと空中に浮いて行ったかと思うとやがてまばゆい光を
 発し始めました。
  ぽか〜んと口を開けてその光景を見ていた2人の前で、8つの光は集まってひとつ
 になり、壁が開いてできた通路の奥にもの凄いスピードで飛んで行きました。
  「うわっ!」レオンも思わず声が出てしまいました。「な、何なんだ今のは・・・ ま
 あ、あんたに訊いても・・・ ごめん、もうやめる。」
  不思議な光景を目の当たりにして2人は暫くぼーっとしていましたが、特に被害を
 被った訳でもなく、また周りの風景も紫の花が無くなったこと以外は何も変わらなか
 ったので、すぐに落ち着いたようです。
  「何だか、摘んで良かったのか悪かったのかも判らねぇや・・・ とりあえず先に行こ
 うや・・・ 」レオンに促され勇者は通路へと歩き始めました。

  通路は、最初北へ向かっていましたが途中で西に曲がっていました。「祠の跡」へ
 近付いてはいるようです。やがて上の階への階段を見付けました。
  早速階段を上がると、然程広くないフロアが広がっていました。そしてそのフロア
 の中央に、小さな白い花が1輪咲いていました。
  「まあ、確証がある訳じゃねえんだけど、あれがさっきの光の正体なんだろうな。
 つまり、紫の花を摘み忘れてココまで来ちまったら、コイツにゃお目に掛かれなかっ
 たってこった。」
  レオンの意見に、勇者も「その通りなんだろうな」と思いました。

  さて、その白い花を摘むなり踏むなりしなければならないようなのですが、問題は
 その花の周りにあの「矢印の床」が並んでいることでした。

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                ↑↓←←←←←←↓
                ↑↓     ↑↓
                ↑↓     ↑↓
                ↑↓  花  ↑↓
                ↑↓     ↑↓
                ↑↓     ↑↓
                ↑→→→→→→↑↓
                ↑←←←←←←←←

  「な、何だこりゃ〜 中に入れねえじゃねえか。」レオンの言う通り、ジャンプを
 使っても矢印の床に乗ってしまい、乗ったが最後、永遠にぐるぐると廻り続けてしま
 うことになりそうです。流石のレオンも頭を抱え込んでしまいました。
  「うーん、こんなもん、どうにもならねえよ・・・ 放ったらかしとくしかねえだろ。」
  レオンは花を無視して早く先に進みたかったようですが、勇者は諦めきれませんで
 した。「何とかなる筈なんだ。何とか・・・ 」
  勇者は暫く目を閉じて、謎のレンクル「サイモン」の言葉を思い返しました。そし
 て、カッと目を見開き、花に向かって歩き始めました。
  「お、おい、よせよ。」レオンの忠告にも耳を貸さず、勇者は矢印の床へどんどん
 近付いて行きます。
  「おい、よせったら・・・ あー、もうダメだ〜」レオンの断末魔と共に2人は矢印の
 床に乗りました。

                                   つづく




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