第2章 3: 「♪大きな西の樹の上で・・・ 」 |
「マックルエルフ族の村 西の樹」に入った金の霧の正体は、勇者の目の前で、背中 から生えている羽根を優雅に揺らしながら、宙に浮いた状態で勇者の方を見ています。 「そうか、金の霧ってゴールデンマックルだったのか、でも異様に目付きが悪いなこ いつ・・・」 魔王ディアーザが倒れた後、ゴールデンマックルに限らず、すべてのマックル族はデ ィアーザの呪縛から開放され、平和を愛するおとなしい元の姿に戻った筈です。 ゴールデンマックルも小さな森の中で静かに暮らす、むしろマックル族の中でもおと なしい部類に入る種族です。 勇者は只ならぬものを感じて、警戒しながらゆっくり近付きました。その時、勇者の 持つ‘国王の紋章’がピカッと光って、コンパスの針が真正面を向きました。 「こいつがディアーザ? どういうことだ・・・ 」勇者は更に警戒しながら、いつでも マックルブレードを抜ける体勢で話し掛けてみました。すると、とてもゴールデンマッ クルのものとは思えぬ声で・・・ 「ん? 何故、貴様がここにいるのだ! どうやってここまで来おった・・・ くっくっ くっくっ・・・ まあよい、自分のほうから死にに来るとは・・・ 手間が省けたわ!」 「なるほど、そうか、黒い霧とはディアーザだったのか・・・ 」 勇者は大体事情が掴めました。丈夫な身体が欲しかったディアーザは、高い攻撃力と 防御力を持つゴールデンマックルに目を付け、その身体を乗っ取ろうとしたのです。異 変に気付いたゴールデンマックルは霧に姿を変え、ここまで逃げてきたところでディア ーザに捕まってしまったのでしょう。 「それにしても、生きている者の身体を乗っ取ろうなどとは、どこまで残酷な真似を しやがるんだ。」勇者の心が戦闘態勢に入りました。 「なにをぶつぶつほざいてやがる・・・ この俺様がコイツを操る限り、貴様など即刻地 獄に送ってやるわ!」 2人の間に閃光が走り、勇者対ゴールデンマックルのバトルが始まりました・・・ その頃、デリナダに入ったスラックは「おや?」というような顔をして一人のミラッ クルに話し掛けました。 「お前は・・・ ディコスじゃないか、こんな所で何をしとるんじゃ。」 「ん? 何だ、スラックの爺さんじゃねえか。何って・・・ 爺さんこそ、何しに来たん だよ。」 「相変わらず口の利き方を知らん奴じゃ・・・ まあよい、もうすぐあの勇者がココに来 よるんでな、先に来て待っとるんじゃよ。ほれ、今ココで起こっといる例の厄介ごとを アイツに解決してもらおうと思ってな・・・ 」 「へーっ、アイツが来んのか・・・ そうか、ふーん・・・ 」ディコスは暫く考え事をして いたようでしたが、やがてスラックの方を向くと「オイラはただのヤボ用で来てるだけ だぜ。でも、その用事も終わったしなぁ、もう帰ろうと思ってたんだ。じゃあな・・・ 」 と言って、歩き始めようとした時「おっと!」ディコスがつまずいて危うくスラックに ぶつかりそうになりました。 いくら年老いたとはいえ、そこは百戦錬磨の大魔道師です。素早くディコスを避け、 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっと笑いながらディコスに言いました。「わしから何を盗もうと したんじゃ・・・ お前さん、何を企んどる? ええから言うてみぃ・・・ 」 ディコスは暫くスラックをじっと見ていましたが、「ふっ・・・ 全く敵わねえなぁ・・・ 実はな・・・ 」と言って自分が考えていることをスラックに言いました。 「うーむ、なるほどのう・・・ よし、わかった。ほれ・・・ 」と言ってスラックはディコ スが盗もうとしたモノを差し出しました。 「えっ、良いのかよ」ディコスが少しびっくりした様子でスラックに尋ねました。 「まあ、お前さんに盗まれたことにしよう。どの道、あの勇者君には洞窟の奥まで行 ってもらわねばならんしのう・・・ なあに、構わんじゃろ。あの勇者君の手間が少し増え るだけじゃ。しかし、あの洞窟にそんなもんがあったとはのう。なるほど・・・ 他の者に とっちゃ何の役にも立たん物でも、お前さんにとっちゃ大事な親父さんの形見になるん じゃな・・・ 」 「まあな、アレだけはこの辺の野郎に触られたくないんでな。じゃあ、オイラは洞窟 に行ってりゃ良いんだな。じゃあな、爺さん。」と言って、ディコスは渡し舟の船頭の 方に歩いて行きました。 スラックはディコスの後ろ姿を眺めながら呟きました。「さて、もうぼちぼちあの勇 者が現れても良さそうなもんじゃが・・・ 何かあったんかのう・・・ 」 勇者はマックルブレードを上段から振り下ろしましたが、ゴールデンマックルに1の ダメージしか与えられませんでした。 「くっくっくっくっ、その程度で我に立ち向かおうとは・・・ 笑わせてくれるわ。さて、 こちらからも行かせてもらおうかな・・・ 」 ゴールデンマックルが勇者を攻撃すると、勇者は相当なダメージを受けました。そこ で反撃に出ようとしましたが、ゴールデンマックルは立て続けに炎を吐きました。 「えっ、2回攻撃? 何故ゴールデンマックルが・・・ ディアーザが操るとこんなこと までできるのか・・・ 」ゴールデンマックルの攻撃が終わると、マックルロードとしての 力と‘神秘の鎧’の効力で勇者のキズはすっかり消えました。勇者はブレードLを使お うかとも思いましたが、ゴールデンマックルにはあらゆる攻撃魔法が効かないことを思 い出し、再びマックルブレードで攻撃をしました。やはり与えたダメージは1でした。 ゴールデンマックルは通常の攻撃と口から吐く炎で勇者を攻撃しましたが、2回攻撃 を使っても、ターン毎に回復する量以上のダメージを勇者に与えることはできませんで した。このような攻撃をお互い繰り返し、勇者が「いつまで続くんだ・・・ 」と思った矢 先でした。勇者が攻撃して1のダメージを与えたところ・・・ ゴールデンマックルは力な く倒れました。 「な、なに、どうした・・・ 何をしている? 立ち上がれ! どうしたというのだ!」 ゴールデンマックルを操っていたディアーザが慌てふためいて叫びました。 そうです。ゴールデンマックルは、高い攻撃力と防御力を身に付けてはいますが、そ の生命力は極めて低くHPは僅か8しか持っていなかったのです。 「なんということだ、我としたことが・・・ こいつがこんな役立たずだったとはな・・・ ふん! もうこんな所に用はないわ。貴様、これで我に勝ったなどと思うなよ。貴様が いくら強くなろうと所詮マックル・・・ 我の野望は決して邪魔させぬ・・・ 」 ディアーザの声が消えると同時に、倒れたゴールデンマックルの身体から黒い霧が立 ち昇り、ひとつの塊になったかと思うと‘国王の紋章’のコンパスが指した北の方へと 飛んで行きました。 つづく |
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