第2章 4:
「勇者、ラントに戻る」



  勇者は倒れたゴールデンマックルのもとに駆け寄りました。どうやらまだ息があるよ
 うです。その姿はさっきまでとは打って変わり、元のおとなしいゴールデンマックルそ
 のものでした。いくらこうするしか方法は無かったとはいえ、自分の攻撃で付けたキズ
 を見ると、勇者は申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
  やがてゴールデンマックルが意識を取り戻しました。
  「あ、あなたは・・・ 」か細い声でゴールデンマックルが訊いてきたので、勇者はこれ
 までの経緯を簡単に話しました。するとゴールデンマックルが言いました。
  「私に付けたキズのことは気にしないで下さい。私もマックル族のはしくれ、一晩休
 めばキズは治ります。よければこの村の宿屋まで連れて行って貰えますか?」
  早速、勇者はゴールデンマックルを背負って西の樹から出ようとしました。
  「おっと!」危うく長老の頼みを忘れるところでした。勇者は宝箱を開け‘エルフ族
 秘伝の書’を手に入れました。
  勇者は西の樹の最上階の枝から一気に飛び降り、宿屋へ向かいました。ゴールデンマ
 ックルを背負った勇者の姿を見て、門番はびっくりしていました。
  「ようこそ宿屋へ。一泊2G払うよい。」ゴールデンマックルを宿屋で降ろし、2G
 を払い、勇者も一晩休むことにしました。

  翌朝、勇者とゴールデンマックルは長老のもとへ向かいました。長老の前まで来ると、
 勇者は‘エルフ族秘伝の書’を渡そうとしましたが・・・
  「その秘伝の書、お前やる。秘伝の書書いてあること、わし読めない。この村の者誰
 も読めない。お前誰か読める者探すよい。」
  「この村に置いておくより、あなたが持っているほうが安全かも知れませんね。」一
 晩休んで、すっかり元気になったゴールデンマックルもそう言ったので、勇者は‘エル
 フ族秘伝の書’を道具袋に収めました。

  長老のもとを離れ、勇者はゴールデンマックルを伴ってマックルエルフ族の村を後に
 しました。道すがらゴールデンマックルが自分の身に起こったことを勇者に話しました。
  「4日前になります。私たちの森が突然黒い霧に覆われました。滅多なことでは私た
 ちは森の外へ出ることはありませんが、この時は違いました。私だけはでなく仲間たち
 も森から逃げ出しました。その後、黒い霧はひとつの塊になって私を追って来たのです。
 私はエルフ族の村に避難しようとしたのですが、西の樹のところで追い付かれてしまっ
 たようです。その後のことはあまり覚えていません。」
  恐らくディアーザに意識を支配されていたのでしょう。ゴールデンマックルは勇者と
 戦ったこともハッキリとは覚えていないようでした。ただ薄れ行く意識の中で、勇者が
 自分に向かって剣を振るっている姿が朧気ながら見えたと言いました。
  「もう少しあなたが来るのが遅かったら、私はディアーザに身体を奪われたまま、永
 遠に暗闇の中に閉じ込められていたでしょう。本当にあなたにはお礼の言いようもあり
 ません。」
  自分の欲望のためには他人の命や精神など平気で踏み躙ってしまう・・・ 勇者は改めて
 ディアーザに対する敵愾心を強めました。
  「そういえば・・・ あなたはこれから何処へ向かわれるのですか?」
  「あっ!」と勇者は思いました。デリナダへ行かなくてはならないのですが、そこへ
 行く手段がありません。「しょうがない、ワープでラントに戻って、またレオンに送っ
 てもらうしかないか・・・ でも、今度は何処に飛ばされるのやら・・・ とりあえず海の上じ
 ゃなきゃいいけど・・・ 」と思ってワープを使おうとしましたが、「やられた!」何と、
 ディアーザによって、又、ワープを使えなくする呪いが掛かっていたのです。
  勇者の様子を見ていたゴールデンマックルが言いました。「あの・・・ リッパー辺りま
 ででしたら、私が連れて行って差し上げますが・・・」
  「!?」勇者はキョトンとしてゴールデンマックルを見ました。
  「私には羽根があります。そんな遠くまでは無理ですがリッパーまででしたら大丈夫
 でしょう。サザラド大陸の北岸まで一緒に来て下さい。」
  とてもありがたい話に、勇者は一も二もなく頷きました。勇者と共に北岸までやって
 来たゴールデンマックルは、勇者を後ろから抱え込み「しっかり掴まってて下さい。」
 と言って羽根を羽ばたかせました。すると二人の体は宙に浮き、やがて北へと飛んで行
 きました。

  サザラド大陸を離れ、リッパーの村の近くまで飛んで来たゴールデンマックルはゆっ
 くりと着地して勇者を離し、「やっぱり私にはここまでが限度のようです・・・ 」と言っ
 て、相当疲れた様子で座り込んでしまいました。「暫く休んだら、私は森に帰ります。
 仲間たちも帰って来ていることでしょう。あ、そうだ。もし私たちの森に来れるように
 なったら、是非立ち寄って下さい。そんな大したモノではありませんが、助けて下さっ
 たお礼を差し上げます。ではお元気で・・・ 」ここまで言うとゴールデンマックルは肩で
 息をしながら、下を向いて体を休めているようでした。
  勇者はぺこっと頭を下げて、リッパーの村に入って行きました。これでワープの行き
 先が「ラント」と「リッパー」になりました。早速、教会へ行き、呪いを解いて貰いま
 した。とりあえずワープが使えるようになりホッとした勇者でしたが、そうゆっくりも
 していられません。なにより一刻も早くデリナダへ行かなくては、スラックに言わせれ
 ば「ディアーザを探すどころではない」らしいのです。マックルエルフ族の長老から貰
 った‘エルフ族秘伝の書’のことも気になるのですが、今はデリナダ行きを優先させる
 べきだろうと考え、勇者はワープを使い、一旦ラントへ戻ることにしました。

  ラントに戻った勇者は早速レオンを探しました。今度こそデリナダに送ってもらおう
 と思ったのです。レオンはすぐに見付かりました。レオンも勇者を見付けると驚いた様
 子で駆け寄って来ました。「おー、生きてたのかよ、それでお前、俺のテレポーテーシ
 ョンで何処に行ったんだ?」レオンが訊いてきたので、勇者はこれまでのいきさつを話
 しました。
  「何だって! サザラド大陸? そうだったのか・・・ で、また俺にテレポーテーショ
 ンでデリナダに送って欲しくて戻って来たのか? うーん・・・ 悪いけどそいつは無理だ。
 何回やったって行き着く先は同じだよ・・・ 俺のレベルがもう少し高けりゃ何とかなるの
 かも知れねえけど、今の俺にはデリナダへお前を送る力は無いらしい。無理して別の所
 へ送ろうとしたらお前の命が危ない。サザラド大陸にだったら何回でも送ってやれるけ
 ど、他の所へ送ってくれという頼みなら、もういくら頼まれても絶対聞かないよ。」
  レオンの意志は相当固そうだったので、勇者はレオンに送って貰うことは諦めました。
  「‘旅の扉’はまだ直ってねえのかなあ・・・ 」とレオンが言いました。
  「そうだ」と思って、勇者は一旦ラントの町を出て‘ラント西の祠’へと向かいまし
 た。‘ラント西の祠’に到着した勇者は、早速祠の中に入ろうとしましたが・・・
  「???」祠の入り口には見たことのない白い扉があり、勇者は中に入れませんでし
 た。「ど、どうすればいいんだ・・・ 」勇者は途方にくれました。
 
                                    つづく



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