第2章 5:
「ん〜マザレルナ北の塔」



  デリナダへ行かんとする勇者でしたが、ワープで行けるのは「ラント」と「リッパー」
 の2箇所のみで‘旅の扉’にも入れず、途方にくれていました。レオンにテレポーテー
 ションで送って貰おうと思っても、レオンの能力ではサザラド大陸にしか送れないらし
 く、デリナダへ行くには新たな手段を講じなければならないようです。
  「こんな所でじっとしててもしょうがないか・・・ 」勇者は気を取り直し、ワープを使
 って新たに行けるようになったリッパーへ飛びました。
  リッパーへ到着した勇者は、村の色んな人に話し掛けてみました。
  「どうぞ、小さな村ですがゆっくりしていって下さい。」
  「ディアーザが倒れてからしばらくモンスターが出なくなったけど、最近また出てく
 るようになったんだよ。」
  「北のマザレルナの町では、また色んな魔法を開発中らしい。」
  どうも、今の勇者にとって有効な情報は得られそうもありません。更に‘聞き込み’
 を続けました。
  「この村に、新しく『道具預かり所』ができたんだよ。」
  「マックルコイン王がまたコインを集めだしたんだって。」
  「‘エルフ族の秘伝書’というものが何年か振りに発見されたらしいけど、それを読
 める人は居ないらしい。でも、魔法に詳しい人なら読めるかもね。」

  「魔法に詳しい人か、スラックは今頃どうしているんだろう・・・ とりあえずマザレル
 ナに行ってみるか・・・ 」勇者はリッパーの町を早々に退散し、マザレルナへと向かいま
 した。途中、リッパーの住民が話していたように『ちびあくま』『ミーター』『ベビー
 マウス』『オニオンファイター』といったモンスターが出て来ました。
  モンスターにキズを付けられることも無くマザレルナに入った勇者は、ワープの行き
 先をひとつ増やし、モンスターが落としたアイテムを売って所持金を少し増やしました。
  さて、ここでデリナダに行く手立てを得られなければ、完全に行き詰まってしまいま
 す。勇者はマザレルナの人達に片っ端から話し掛けました。
  殆どは無駄な情報でしたが、スラックの弟子が「大魔道師は今、デリナダにいらっし
 ゃる。」と言ったことと、図書室に居たナークルが「おや、お前さん随分と古い書物を
 持ってるねえ、どれ見せてくれないか・・・ ふむふむ、全然読めないや。でも北の塔の爺
 さんなら読めるかも知れないよ。」と言ったことはどうやら役に立ちそうです。ちなみ
 に、レオンが居た部屋は当然ながら誰も居ませんでした。
  「なるほど、レオンの爺さんか・・・ 話が出来れば良いんだけど・・・ 」一抹の不安を抱
 きながら、勇者はマザレルナを出て、北の塔へ向かいました。

  Xの形をした北の塔に入った勇者は辺りを見廻しましたが、以前と変わりなく見えま
 した。とりあえず階段を探して上の階へと進まないことには、レオンの爺さんに会えま
 せん。
  「???」いきなり階段が無い!「隠し階段か・・・ 微妙に造り替えられている・・・ 」
  最上階に到達するまで、3ヶ所の隠し階段が仕掛けられていました。尚且つ1ヶ所は
 隠し階段のくせにダミーでした。ただ勇者にとって、出現した『悪魔の金貨』『炎の精
 霊』『とげぼう』『マッドプラント』は、さして障害にはなりませんでした。
  どうにかこうにか最上階に到達した勇者は、壺の前で何やら呪文を唱えている老人を
 見付けました。レオンの爺さんです。「話が通じるかな・・・ 」と思いながらも、話し掛
 けないことにはどうにもなりません。
  「ん〜、お主は誰じゃ・・・ 何? レオンの友達か。はて? レオンて誰じゃったかの
 う・・・ おう、そうじゃ、わしの息子じゃ・・・ ん〜、それで何の用かのう・・・ 」
  勇者は半分泣きたくなりながら‘エルフ族の秘伝書’を差し出しました。
  レオンの爺さんは「ん〜、これを読んで欲しいんかのう・・・ どれどれ・・・ う〜む」と
 言ったきり、刻々と時間は過ぎて行きました。勇者が様子を伺うと何やらすーすーと寝
 息らしきものが聞こえてきました。勇者は爺さんの頭を一発張って起こしたかったので
 すが、まかり間違ってそのまま逝ってしまっては大変なので、結局、じっと待つことに
 しました。かれこれ15分位経過したでしょうか、どうやらお目覚めになられたようで
 す。「ん〜、なんじゃ、まだおったんか?」爺さんの問い掛けに、勇者は黙って頷きま
 した。「そうか、よっしゃ分かった。」
  「???」 爺さんが「ん〜」を付けずに話したので勇者はビックリしました。
  「そう驚かんでもええ。いやなに、ボケた振りでもしとかんと、マザレルナの連中が
 何やかやと頼みごとに来るんでのう。面倒臭うてかなわんのじゃ。」
  「今までボケた振りしてただけだったのか・・・ 頭、張らなくて良かった・・・ 」
  「さてと・・・ お前さん、ここに来い。」と言って、爺さんはあごで壺の前を指したの
 で、勇者は壺を挟んで爺さんと向かい合うように立ちました。
  「わしがええと言うまで動くなよ。」と言うと爺さんは聞いたことも無い呪文を唱え
 始め・・・ 「はーっ!!」と叫びました。

  その瞬間、勇者は‘ジャンプL’の魔法を覚えました。これが秘伝書の中に書かれて
 いたことだったのです。

  「その魔法は、まあ言わばフィールド上でも使えるジャンプじゃ。勿論、町の中でも
 今までどおりのジャンプとして使える。ただし、フィールド上で使えばMPを20消費
 するでのう。注意するんじゃな・・・ 」

  勇者は「あっ・・・ 」と思いました。「マザレルナ北の塔」の周りには、確か∩の形を
 したの堀があって・・・ そこをこの魔法で飛び越せば・・・ デリナダに行ける!

  「デリナダでスラックを待たしとるという勇者はお前さんのことか?」
  勇者は頷きました。
  「デリナダへ行く前に、もう一度マザレルナに寄ってみるがいい。あ、くれぐれもわ
 しがボケた振りをしとることは内緒にな・・・ それから、皆がわしのことをレオンの爺さ
 んと呼びよるが、わしはレオンの父親じゃ。くれぐれも間違えんで欲しい。」
  勇者はレオンの爺さ・・・ 親父にぺこりと頭を下げてマザレルナ北の塔を後にしました。
 
                                    つづく



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