第2章 8:
「オスヤコディの遺品」



  ‘オスヤコディの鍵’を手に入れた勇者が階段を下りて、着いた地下2階のフロアは
 それほど広くありませんでした。フロアの中央に立てば、ほぼ全体が見渡せる程でした。
 その代わりやたらと入り組んでいて、フロアの北側中央にある更に北へ向かう細い通路
 の入り口まで到達するには時間が掛かりそうでした。
  「スラック翁は『‘オスヤコディの鍵’が一番奥にある』と言っていましたが、まだ
 先があったのですね。」僧侶がうんざりといった表情で言いました。
  「まあ、野盗の言うとったことをそのまんま言うただけやろ。そんなん当てにならん
 わ。」モンクがしたり顔で答えました。
  勇者たちが右へ行ったり左へ行ったり、出現した『シェード』『ローパー』『ポイズ
 ンプラント』『首なし棍棒』を倒しながら通路の入り口に到達した時には、階段を下り
 てからすでに結構な時間が過ぎていました。
  通路の入り口に紫色の鍵の掛かった扉がありましたが‘オスヤコディの鍵’を持って
 体当たりをかますと扉は簡単に開きました。
  通路に入って暫く進むと、そこに・・・ もう腐れ縁と言っても良いほど何回も顔を付き
 合わせたミラックルシーフのディコスがこちらを向いて普通に立っていました。
  「やっと来やがったか・・・ 待ちくたびれたぜ。おっ、兄さん達も一緒かい・・・ 」
  「スラック殿から盗んだものを返してもらおう。」戦士がディコスに言いました。
  ディコスは暫く戦士をじっと見て、そして視線を勇者に移し今度は勇者をじっと見て
 いました。そして・・・ 「そらよっ」ディコスは袂からひとつの鍵を取り出すと、勇者に
 差し出しました。勇者は‘白い鍵’を手に入れました。
  「随分と素直に渡したな・・・」勇者だけでなくパーティーの全員がそう思いました。
  「オイラが盗んだモノなら黙って渡しゃしねえよ。そいつはあの爺さんから借りてた
 だけだ。」
  「そうか、盗み損ねたんだな。ということは・・・ どういうことだ?」勇者にはスラッ
 クとディコスとの間に何があったのかさっぱり分かりませんでした。
  「実は、アンタたちに頼みてえことがある。この先にある宝箱の中身を取ってきてく
 れねえか。あんまり言いたかねえんだが、オイラじゃ無理なんだよ・・・ 」ディコスらし
 からぬ言葉に、思わずモンクが尋ねました。「それやったら『宝と引き換えに鍵を渡す』
 言うんがアンタらしいんやけどな・・・ 何で、鍵をくれたんかいな。」
  「オイラはアンタたちが何の為に冒険しているか知ってるしな・・・ それにこの先にあ
 るモンは親父(オスヤコディ)の遺品で、アンタたちの役に立つようなモンでも無さそ
 うだしな。だから、嫌だったら断ってくれてもいいんだ・・・ 」
  ディコスが話し終わると、勇者は即座に通路の奥へと進み始めました。他の3人も黙
 って勇者に付いて行きました。ディコスも付いて来ました。

  5人が通路を進んで行くと、ディコスの言っていた宝箱がありました。ただし宝箱の
 前に見たことのないモンスターがいました。
  「そいつぁ『パワードデビル』っていう奴だ。魔法は使わねえんだが、やたらと力が
 強くてなぁ・・・ オイラのようなミラックルが一番苦手なタイプなんだ。」
  「ディコスさんはココで待っていて下さい。」
  「ギャラリーの前で戦うちゅうのは初めてやな、なんや緊張するわ。」
  「では各々方、参りましょうぞ。」
  閃光が走り、バトルが始まりました。なるほど、不意打ちを喰らった勇者のダメージ
 から考えても相当な攻撃力を持っているようです。
  しかし、モンクの攻撃 → 僧侶のフォースL → 勇者の攻撃 → そして・・・
  「古来より伝わりし‘名刀’正宗・・・ その正宗にオリハルコンの魂を捧げ誕生したが、
 この‘妖刀’村正・・・ その切れ味、おのれの身体で味わうが良い・・・ でやーっ!」
  長々と前口上を述べた後の、戦士の一撃でパワードデビルはゆっくりと倒れました。
  「また、つまらぬモノを斬ってしまった・・・ 」よほどこの台詞が言いたかったのか、
 戦士は肩を震わせて感激に浸っているようでした。
  後ろで見ていたディコスがパチパチパチと手を叩きました。
  「魂を捧げ・・・ て、僧侶はんが鍛冶で創っただけやないか。」
  「何か申されましたかな、モンク殿。」
  「何も言うてまへん。」
  勇者が奥にあった宝箱を開けると、そこには古い帽子が入っていました。勇者は‘大
 海賊の帽子’を手に入れました。が、そのままディコスに手渡し、アイテムの所持時間
 最短記録を更新しました。
  「ありがとよ・・・ じゃあな」と言うと、ディコスはリターンの魔法で勇者たちの前か
 ら姿を消しました。

  「しかし、勇者殿・・・ 何故ディコスの頼みを聞いてやったのでござるか。」戦士の質
 問に、勇者は困った顔をして下を向いてしまいました。どうやらあまり深く考えていな
 かったようです。
  「勇者さんは頼まれるとイヤと言えないんですよね。」僧侶が代わりに答えました。
  大分先の話になるのですが、勇者の選択がこの後の冒険に大きな影響を与えることな
 ど、今の彼らに知る由もありませんでした。

  リターンの魔法で洞窟を出て、ワープでデリナダに戻り、勇者たちは渡し舟の船頭に
 話し掛けました。
  「何処に行きたいんだ。オスヤコディの洞窟か? ん? ひょっとして、お前さんが
 持っているのは大海賊オスヤコディの作った鍵じゃねえか。ということは‘水門’を開
 けに行くのか? だったら金なんかいらねえよ。俺も水門を閉められて困ってたんだ。
 カラ行きの客も結構いたからな。よし、お前さんたちが洞窟やカラ、その先の国に行き
 てえ時は、何時でも俺に声を掛けな、タダで連れて行ってやるよ。」
  ということなので、早速‘水門’まで乗せて行って貰うことにしました。

  ‘水門’に着いた勇者たちは、マックルコインを取った後、スイッチのある小屋の扉
 を開け、スイッチを踏み水門を開けました。北の冷たい海水が水門に流れ込み、南にあ
 るカラの先まで水路が出来ました。これでカラの町とその南にあると言う「復興された
 王国」を救うことができたのです。勇者たちは待たせていた船に再び乗り込み、カラの
 町へと向かいました。

  カラに入った勇者たちは町の人達から感謝されました。ワープの行き先も1つ増えま
 した。ただ、何故か「道具屋」には誰も居ず、2階に上がると道具屋の子供が泣いてい
 ました。「お父ちゃんが、南の国に行ったまま帰って来ないんだ・・・」
  「大丈夫だよ。水路が出来たから、もうすぐ帰ってくるよ。」僧侶が優しく声を掛け
 ました。しかしその子は「違うんだ。王様に掴まっちゃったんだ。お父ちゃんは何も悪
 いことなんてしていないのに・・・ 一緒に行ったオジサンは、自分も掴まりそうになった
 けど何とか逃げて来たって・・・ 」
  「何もしていないのに掴まるなんて・・・ 一体、どんな国なんだ?」勇者は一度も行っ
 たことのない国に、得も知れぬ不安を感じました。
 
                                    つづく



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