BGM*回想 -赤い空へ-
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いつか死を告げられる日が来ると思っていた。
みんなそうやって私の前から去っていったから。
戦乱も苦境も散々に人の心を傷つけ、忙しさで身近な者のことを忘れていった。


貴方も南の冷えにはとうとう慣れてはくれませんでしたね。


ファラミア。
貴方なら分かっているのだろうに。
ほんとうは、とっくに慣れてしまっている。
だがそれを認めたくはなかった。
ここは私の国で、私の城で、私の家なのに。
それを認めれば、私の軌跡が消えると思っていた。

(・・・全ては私の我侭なのだろう)

王は顔を歪めて俯いた。一人で考える事はよくないと思っていながらも、今は一人がいい。
北の空を見ることもしない方がいい。
だが、これはどう見ても。
迷い迷って、王が出した答えはあの時と変わらないものだった。

(デネソール・・・。・・・・・・ボロミア)

名前を呼んでも返事はない。
いつも、そうだ。
だがそれは自分が犯した過ちからの結果だ。

(・・・すまない、ファラミア)



私は、私の心を許した執政達の前から、・・・逃げたのだ。










石牢の王  ・・・さながら、それは。










王の執務室の南向きのテラスからは美しい星が見える。北で見えた一等星はそこからは見えないが、同じように大きな輝きを放つ星が南の空にあった。
木製のテーブルと二組の椅子しかないテラスの手すりはやはり石造りで、白の建物とつながっている。

以前ファラミアから死の予兆を告げられたテラスはこの真逆にある、北側のものだった。あれ以来王がそこに赴く事はなく、北の方角を仰ぐ事もしなかった。
何を恐れているのかはおそらく、王自身が最もよく分かっていただろう。
だがそれを認めてはいけないような気がしていのだ。王位に就いてから、これまでずっと・・・。

しかしファラミアは全てを理解していた。理解していて、王が切り出すまでのこの数十年間、口を閉ざしたのだ。
人というものは解り合えたようで、その実、真に理解を持ったことを告白するまでに行き着くまでには何かの犠牲を要する。おそらく、ファラミアは死の淵にいたってその犠牲を覚悟したのだろう。

そこまで自分に尽くそうとしている相手を。
半生を自分の右腕として尽くしてくれた相手を。

・・・どうして私は彼を信じてやれなかったのだろう。


ふいに、ハルバラドを思い出した。
彼も自分の右腕だった。・・・あの戦で命を落としたが。
思えば彼にはファラミアに抱くような恐れを持ったことはなかった。彼とファラミアとの違い。それは明々白々だったが、言葉にしてはならないことだった。
王はそのとき自分の喉の奥から引きつった声が飛び出るのに気づいたが、構わずに笑った。

(ようするに、私はただ自分を傷つけるのが怖いだけなのだな。それで周りがどうなろうと、構わずその態度を続けるんだ。・・・もう、気づいているというのに、気づかないふりをし続けるんだ・・・。)

ここまで自分は卑怯者だったか。
卑怯者のままでいいのか。
逃げなければ、彼が死なずにすむのか。
自分が動いたところで、何も変わらないのではないか。

(・・・・・・やはり、言い訳だ。)

項垂れてテラスに上半身をあずけると、遥か下方に茶色い芝生が見えた。

(・・・季節に従順になって枯れていくことに、彼らは疑問を持たないのか。)








「殿。執政官殿を看てさしあげてくださいな」
女性にしては低い声は、持ち主の名の如く夕闇にまぎれてこそ力をもつようだった。人間のそれとは違う澄めらかな質に心を奪われる者は多い。だがその声が望むものは、たった一人だけだった。
王は本当の暗闇に埋まりそうだった心を引き上げられたような表情で後ろを振り返った。
テラスに出る大窓のすぐ近くに、王妃が立っている。ウンドミエルの名を知らしめる夕闇の瞳と黒髪が、いつもと同じように輝いている。その身体は朝焼けを思わせる紅の衣に包まれ、冷たい風に僅かになびいた。
同じように窓のカーテンが揺れるのを見て、王は何処か脅えた表情をする。

「殿」
アルウェンは急かすようにもう一度声をかけた。その表情は冷静で、全てを見通すエルフの叡智が全身から染み出ていた。
だが王はそれでも首を縦に振らず、身体を手摺に戻して王妃を背にした。
「アルウェン・・・。だめだよ、私はだめだ」
なんと情けない声だろうと思ったが今は動けなかった。
いま動いたら、自分が、周りが、彼がどうなるのか全く分からなかったから。いや、分かりたくなかったのかもしれない。
だがアルウェンはあくまでも冷静に、しっかりとした歩調で王に近づき、語りかける。

「何がだめだというのですか。臣下の前でみっともなく取り乱すことがですか。殿の泣き顔を彼に曝すことがですか。それとも彼の死ぬところを見ることがですか。外聞を気にしておられるというのならご安心くださいませ。今の貴方が最も質の悪いものとなっていますから」
あまりの言いように、王は一瞬呆気に取られた。
信じられないものを見る目で王妃を振り返り、混乱と畏怖が入り混じった眼で王妃を睨みつける。
だがアルウェンはまったく動じずに、寧ろ聞き分けのない子供を諌める眼で王を見返していた。


「愛するものの死を、どう受け止めたらいいのか解らないんだ。戦乱の中に身を置き、血まみれの手を握ることは多くあったが、彼はちがう。平和な世の、逃れえぬ死なのだ。・・・暖かい寝台の上で死ぬのだ、彼は。」
「殿。それは殿の言い訳だという事に、殿は気付いてらっしゃいますね」
「・・・・・・。」
はっきりと進言してくる女は、エルフだった。
気の遠くなる年月を生き、大いなる叡智を身に付け、永遠を生きることができる種族。人間とは違う、強靭な種族。
だが彼女はそうではないはずだった。
彼女がそれを望み、この王がそれを望んだから。
エルフの姫であったアルウェンが永遠を捨てるという犠牲を払ったことは、王も望んだ事ながら一生後悔することでもある。
(・・・私は、アルウェンに永遠を捨てさせてまでの大きな幸せを、彼女に与えているだろうか)

「・・・・・・・。」
アルウェンは王の目を捉えたまま何処か遠い目をした。
「エオメル様やイムラヒル様の死はどうなるのですか」
「わからないよ。もう、私には何が何やら」
いきなり投げやりになった夫を、今度はアルウェンが睨みつける。
その瞳には相手を射止める力があった。

「貴方はわたくしを失望させたいのでしょうか」
そう言われて王はギクリと身をすくませた。しかし何と言っていいのか分からない。
アルウェンも、ここでようやく肩から力を抜き、表情をいくらか穏やかなものにした。だがその瞳は王を捕らえて離さない。



「わたくしには、愛するものを看取ることも、愛するものを残していくことも、どちらも自分から選ぶことは叶いません。あの丘でわたくしの手を取った瞬間から、選択はエステル。貴方にあるのだから。しかし、その時を最後の場面と呼ぶならば、わたくしは愛するものと共に迎えとうございます」
いきなりなことを言われて、王は顔を上げて胸を切り刻まれたかのような顔をした。
その瞳には涙が滲んでいる。エルダールの目には、それがしかと確認できた。

「・・・貴女は、貴女だけは、そのようなことを言わないでくれ」
搾り出すような懇願の言葉に、だがアルウェンは首を横に振った。
静かに目を伏せて、目蓋の裏に張り付いた、いつかの残像を思い起こす。

「・・・それでも、何れは訪れるのです。しかし、殿よ。わたくしは逃げませぬ。最後まで、貴方と向き合いますわ。たとえ貴方が逃げ出したとしても、この身が絶望で干からびたとしても、私は貴方を看取ります。逃げたりはしませぬ。」
「・・・・・・・。」
王はアルウェンを見つめたまま泣いているようだった。
しかしアルウェンは表情を変えずに王を見ている。まるで、悲しみを孕んだその姿までも脳裏に焼き付けようというように。

「そしてエステル。覚えていてください。わたくしはゴンドールと、ヌメノールと、ドゥネダインと結婚したわけではありません。私は貴方と結婚し、貴方の妻となったのです」
「・・・・・・アルウェン・・・。」


(・・・そして私は、あの丘で再び貴方を見出だすでしょう。エステル。私の希望。そしてきっと、私に大きな悲しみを与えた貴方を赦すのでしょう)

やがてアルウェンは、小さく王に会釈して背を向けた。
言いたい事は告げられた。
あとは彼が決めることだ。
しかし。


(それほどまでに愛していると、この怯えた方は解ってくれているのだろうか・・・)






* * *






「王よ。こちらにおられましたか」

次に声がかけられるまで、一体どれほどの時間を要したのか。
夕などという時はとっくに流れ、夜半に近づいているころだろう。
だが王の身からは時などという現実的な感覚は消えうせていた。

ゆっくりとうだるような緩慢な動きで振り返ると、すぐ後ろにエルボロンが立っている。
父親とは違い、滅多にこれほど接近してこないエルボロンの姿に、王は一気に現実に引き戻されたように感じた。目の前の靄を払うように瞬きを数回繰り返してから、エルボロンに焦点を合わせて、曖昧な表情を浮かべる。その様には、内心ヒヤッとさせられるものがあった。しかしそれを表に出すエルボロンではない。

「・・・エルボロン。お父上の様子はどうかな」
単調な口調だったが、エルボロンは気付かないふりをして頭をさげ、目を伏せた。
「はい陛下。いまは落ち着いて休んでおります。先程まではかなり興奮していたようですが。医師より面会の許可も下りました。・・・如何いたしますか」
そう告げられても、王は表情を変えずにボンヤリと、だが何処か脅えた表情でエルボロンを見ている。
暫く待ってみたが、何の返事もないことを確認すると少し強い口調で進言する。

「お会いしていただけないでしょうか?」
また暫く無言の時が流れた。
冷たい晩秋の風が頬を撫で、すっかり冷え切った衣をなじっていく。
どれくらいたったのか、王は白い息を吐き出して力なく呟いた。



「・・・エルボロン。私は恐ろしいのだよ」
「年老いて死に逝く者を見ることがですか?」
アルウェンと、エルダリオンと同じことを言われて王は妙な感動を起こした。
こんなところで絆を確かめる事になるとは、なんとも世の中は奇天烈なものだった。

「・・・大切なものに先立たれることがだ」
先の二人に返したものと同じことを告げると、エルボロンは肩を竦めて呆れたように浅い息をはいた。そんなところは何故か皇子とそっくりだった。
しかしそのような表情も一瞬で、彼はすぐに顔を上げ、真剣な目を王に送った。
「同じことです。王よ、どうか貴方だけは逃げずに父を見送ってください。・・・父が哀れでなりませぬ」


「・・・・・・・。」
そんなことは分かっているとでも言いたげな表情に、エルボロンは首を横に振る。
一歩踏み出して王に近寄ると、王までの距離はあと二歩といったところになる。
そういえば、何故か正面から彼と向かい合った事はなかったと王は思った。・・・本当は何故か、などと疑問をもつこともなかったのかもしれないが。

「父はああ見えて頑固な方です。私情や我が儘を出す方でもありません。」
「そうだな」
「どなたかとそっくりだと思いませんか?」
からかいのように言われた言葉に王は首をかしげた。
少し背の高いエルボロンを見上げていぶかしむように眉を寄せる。

「・・・私か?」
「誰もそのようなことは言っていません。」
「・・・・・・。」
はっきりと言葉では否定された。その様子があまりに彼の父とそっくりで、王は思わず微笑んでいた。懐かしいものを見る目でエルボロンを見上げる。

しかしエルボロンは自分の心が悲鳴をあげるのを聞いた。
幼い頃から抱き続けた憂いを感じた。それを誰かに話すことは、決してなかったが。
その表情は穏やかだったが、彼の心はすでに決まっていた。



「・・・王よ。父がうなされて呼んだ名をご存知ですか?」
「何だね?」

「私をボロミアと呼びました」



今度こそ、ザッと王の顔が青ざめた。
音を立てて変化したように一気に変わったその表情に、隠しようもない危惧があった。エルボロンは王をひどく痛々しく思ったがこの話を止める気はなかった。
微笑みすらうかべて、王の顔を見る。

「私は伯父上と瓜二つだとお聞きしたことがあります。・・・殿の旅のお仲間でしょう?」
「あんたは何が言いたいんだ?私にどのような返答をさせたいんだ?」
その言葉に怒りが含まれているわけではなさそうだった。そこにあるのは動揺と、自分に対するものではない蔑みの目を恐れる感情だった。
それを認めてエルボロンは、分かっていたこととはいえ、悲しく思った。
それは父に対しての同情なのか、自分に対しての慰めなのかは判断できなかったが。


「・・・私には父上のお気持ちが痛いくらいに解ります」
「それで貴方は私を責めようというのか?・・・エルボロン、それはいい。」
「・・・?」
突然の言葉にエルボロンは眉を寄せて顔を上げた。
そこには、正面から向かい合う王の目がある。その目に逃げは見当たらない。
エルボロンはそれまでとあまりに様子の違う王を、少し恨めしく思った。

「私は罵倒される行いをした者だから、それは仕方ない。・・・だが、貴方の伯父君はけっして」
「私は常々、与えられた名には忠実でありたいと思っています」
勘違いも甚だしい言葉を遮ってエルボロンは進言した。それには自分の伯父への対抗心もあったのかもしれない。
だが王はまたもや苦しげな表情をして顔を伏せた。
「・・・名に縛られていると、後悔をするものだぞ」

(・・・まったく分かっちゃもらえないものだな)
エルボロンは食い違いの多い会話に疲れを感じた。
このような押し問答を続けるばかりではいけない。
とにかくいまは、時間が惜しいのだ。


「いいえ。私は名に縛られているわけではありません。何故ならこれは自由意思によるものだからです。星の所持者エレスサールに、御身に常に忠実でありたいと我が身が望んでいるのです」
「・・・・・・。」
今度は王も黙って聞いていた。少し頼りなげな表情をしながら見上げてくる瞳に、エルボロンは先ほどよりもよっぽど安堵感を得た。言葉を遮られる心配もないと悟った彼は冷静に、だがどこか急かすように口を開く。

「しかし私には父も大切なのです。母は早くに逝きましたが、父は踏み止まってくださいました。それが私の為でなくとも、別によかったのです」
思いもよらなかった言葉に、王は違う種の不安を抱いた。それまで叱られる子供のようだった王は、道を知らない迷子の相手をする大人のような表情をして手を伸ばした。
バラヒアの指輪をした癒し手が、エルボロンの頬を優しく撫でる。
「・・・彼は貴方を愛しているよ?エルボロン」

懐かしい母のような感触に、エルボロンは優しい笑みを浮かべた。
静かに王の手を取り、礼を返す。
「わかっています。父には痛いくらいの愛情を注いで頂きました。あの方は父親の愛情というものを常に気にしていましたから。しかし、母が亡くなって私は気付いたのです」
「?」

「私は父とまったく同じだということに」
王はその言葉に再び首をかしげた。
エルボロンは苦笑するしかない。


肝心なことを言わないところは、やはり父に似ているからなのかもしれない。
そんなことが頭をよぎる。




---あのとき。
母が死んだとき。
母を失った悲しみよりも、母の葬儀に参列した貴方の表情に、私たちは心を痛めていたのです。


---父の気持ちは痛いほど解るのです。
しかし私にはお二人を救うことなど出来ません。

・・・だから今は、父親のささやかな願いを叶えようと思ったのだ。




「・・・私に出来る最後の孝行は、貴方に父を看取って頂くこと以外に思い浮かばないのです」
その言葉に、王はやっとエルボロンの懇願を汲み取ったようだった。一瞬目を伏せるが、すぐにエルボロンに視線を戻す。
それだけでエルボロンは答えを受け取った。
王はいくらかやつれた様子で重い息を吐き出す。
愚痴にしかならなくても、愚痴をエルボロンに吐くことはお門違いと分かっていても、言わずにいられなかった。

「・・・皆が皆、わたしを残していくというのに私に最後の瞬間を預けようとする。」
「殿は愛する者を残していかねばならない辛さもお分かりのはずです。見送る側も、勿論辛いですとも。・・・しかしこう考えてみては如何ですか。」
「・・・?」
王は小さく首をかしげてエルボロンを見上げた。それは昔からの、この王の癖だった。
いまのエルボロンにとっては、最も勇気付けられる仕草であった。

「・・・死ぬこと全てが絶望ではないと。我らエルの次子達は、可能性をその身に抱えた唯一のものです。ならば、死の後に新しき旅をも持っていることでしょう。・・・貴方はそれを送り出す船頭です。船頭は最後に河を渡るでしょう。迷った航海者に行き先を照らしてやるために。・・・エアレンディルの血を引き継ぐ、人間の王よ。貴方はさき逝く者たちに光を照らすべきです。」

言われて、王は目を見開いた。
驚きの眼でエルボロンを見る。
エルボロンは穏やかな微笑を浮かべて頭を垂れた。非礼を詫びているつもりなのか、それとも・・・。
「我々は、私は、いったい何を恐れていたのだろう。・・・なぁ、エルボロン」

王はエルフに対してするように、一度だけ礼をとった。
そして目の前の男に彼の父の姿が重なって、目頭が熱くなった。





ああ。
私の執政、ファラミア。
聞いたか?貴方はこの子の言葉を聞いたか?
貴方はこの子が生まれた日、涙を流して言ったな。
「この子に親として何をしてあげればいいのか分からない」
この子を腕に抱いて、親というものの価値は何で決まるのか、と一人思案に耽っていたな。
エオウィンが「また貴方の悪い癖がはじまった」と笑っていたのを覚えている。
私もまだ父親ではなかったから、何を言っていいか分からなかった。
だから、昔母に言われた、母はそうしたかったのだろうと思ったことを、自分の言葉で私は言った。
「まずは無理にでも傍において、ファラミアがどういう人物か教えてやればいいんじゃないのか?勿論、エオウィン殿も共にだ。子供は親の背を見て育つという。貴方方が思う、貴方方が出来る最も大きな愛を注いでやるのだ。貴方達を見て育ったなら、さぞ素晴らしい人物になるだろう」
「ほんとうに、ほんとうに嬉しいお言葉です、王よ。」
「そうですわね・・・。立派な名前をつけてあげましょう」
「いや、もう決まっているんだエオウィン。この子は、エルボロンだ」
「・・・・・・・。」
「エルボロン?どんな意味ですの?」
「星に仕えし者、だ。」
「まぁ。素敵ですわ」
「ファラミア・・・」
「兄のようにゴンドールに忠実に。陛下に忠実に。どうか私たちに忠実に。生まれた喜びを全てに感謝せし優しき子に。私たちが天寿を全うせしとき、きちんと務めを果たす強き子に。」

そう言って貴方は顔をくしゃくしゃにして泣いて、最後に笑ったな。

私はそのときのファラミアの顔を、生涯忘れまいと誓った。


エルボロン。
平和な時代に生まれた子。全ての世代を受け継いだ子。愛で育まれた子。
貴方は父親にあのような顔をさせた、素晴らしき子だ。
貴方は誰に似ていると思う?
貴方は誰に似たと思う?



永遠などない、か。

・・・ファラミア。

貴方の言った通りだ。

どこまでも受け継がれていく脈は、確かに存在する。

それでいいと思えるようになれたよ。

・・・貴方のおかげだ。







「・・・エルボロン。確かに貴方はボロミアに生き写しだ」
テラスを出る瞬間、王は後ろに控えるエルボロンに声をかけた。
「・・・・・。」
エルボロンは強張った、衝撃を受けた表情を一瞬して立ち尽くす。
普通ならば喜ばしい事も、この男には苦にしかならない。
しかし王はこの日見られなかった、優しい笑みを浮かべて振り返った。

「しかし貴方はとても父君に似ている。・・・彼は、貴方の誇りだろう。エルボロン」


罅割れた、硬い大地に一滴の雫を落とす言葉だった。
幼いころから抱き続けた呪縛は、解かれることがあるのだろうかと思い悩んだ時期があった。
だがこの日に、こんな日にそれが訪れた。
父の視線から逃げる思いだった、後ろめたい日々を、この王が拭い去り、まったく別のものをいま与えたのだった。

「・・・感謝申し上げます、王よ」
どうしても震えてしまう声を、王は優しい表情で聞いた。
そして、彼の待つ部屋へと、足を向ける。

・・・もう答えは出ていた。







別にファラミアもエルボロンもボロミアが憎たらしいわけじゃなく・・・。
ただ、なんというか、いつまでも満たされない思いを抱えてそれに疲れちゃってるってだけで・・・。
死人に心もってかれたまんまの王が不憫なだけで・・・。
んでもって、アルウェンは強い女。精神的にも一番強い。だけど王を愛する。
てゆーか私が書くとどのジャンルも女強し、男弱し、特に受は迷いまくり、周りは受を心配してそればっかりになっちゃうって傾向が強く・・・。
なんとも・・・汗。
でもこんな王サマ、誰もついていこうと思わないんじゃないかと思う・・死。
・・・こんな話書いてよかったのかな。どうか王を嫌いにならないで(必死)。