円錐や角錐の体積
カヴァリエーリの法則

渡邊勝(立命館慶祥高校)
 

 
部活が終わって、素男と聡子がなにやら話している。
素男「円筒の中に円錐があるとするよ。底面が共通でさ、高さが同じ円錐の体積が円筒の体積三分の一というのがどうもおかしいよ。」
聡子「どうして?」素男「円筒を上から下まで包丁で切ると、断面には円錐部分が三角形で現れるよね。その面積と残りの円筒部分の面積は等しいよね。」
聡子「そうよ。」
素男「断面積が等しいのに、立体になると体積が等しくないのは変じゃない。」 
聡子「断面積が体積を作るわけでないと思えば良いんじゃない。」素男「そうかな?」
 

 
そこへ彼らと同じ部にいた、今は高校生になっている樺先輩が現れた。中学生の練習を見に母校にやってきていたのだ。           
樺先輩「素男君のように縦割りでなくて横割りで考えられるよ。」
素男「どうやってですか?」
聡子「切る場所によって断面積が変わるのに、何か上手い手を考えたんですか?」
樺先輩「カヴァリエーリの法則というのでその問題は解けるよ。」
素男「河馬なんとかって何ですか?」
樺先輩「カヴァリエーリ!こんな図のように高さが同じ立体図形があって、同じ水準高の断面積が一方のk倍なら、体積もk倍になるという法則だよ。」
 

聡子「ということは、最初に断面積の比を出して、次ぎに体積を出すときは、その比を使って一方の体積を他方の体積で表されるんですね。」
樺先輩「その通りだよ。二人で計算してみたらいいよ。」
素男と聡子は、樺先輩の手助けを得ながら下のように計算をした。

 
 
 
 
 
 
 

 


頂点から断面までの距離をx、円錐の断面積をS(x)、四角錐の断面積をS(x)
とする。断面積はxに比例するから、円錐について、  
これから  四角錐について、
 これから  円錐の体積をV、四角錐の体積をVとすると、

カヴァリエーリの法則から、 即ち
式を簡略にして、 =π これより

 

素男「四角錐の体積が分からないと、円錐の体積が分からないス」
聡子「四角錐の体積は”底面積掛ける高さ割る3”で出せるから、この場合、1/3だから、上の式に入れて、=1/3π となります。」
樺先輩「その通りだよ。聡子君は計算が正確だね。」
素男「先輩!僕は、円錐の体積を出すとき3で割ることが、納得できなかったのですが、今度は、四角錐の体積を出すときも3で割りますよね。どうして3分の1になるのですか?」
樺先輩「カヴァリエーリの考えを初めから言うと、鉛筆で定規に沿って線分を描くとするよ。一本描いては、定規平行にをすこしずらしてまた一本描くという具合に沢山描くとある図形ができるよね。」
聡子「平行線で出来た図形ですね。」
樺先輩「カヴァリエーリは、無数の平行線線分が面積をつくり、無数の平行平面分が体積をつくると考えたんだよ。」
素男「無数の線は引けるのかな?」
樺先輩「現実には引けないけど、引けるものとして考えるのさ」
素男「ちょっとインチキくさいスね。」
樺先輩「先ず面積だけど、正方形を対角線で分けると二つの二等辺直角三角形ができるけど、その面積が等しいことを、構成する平行線分が等しいからだと言ってるんだ」
素男「どうしてそうなるスか?」
樺先輩「BCに平行なPQという線分をBCから初めてADまでずらしながら線を引いていくとするよ。左のx′と等しい線分が右のyに必ず現れる。逆に右のy′と同じ線分が左のxに現れるので、線を引き終わったら結局同じ線分が等しく二つの三角形に在るので、面積が等しいということさ」
 

素男「実際には線を引けないでないスか?」
樺先輩「そう、PQを動かすことに主眼があって、PQが動くとその後に無数の線が引かれたと考えたらしいよ」
素男「へぇー、運動すると自動的に線が引けるのか!?」
樺先輩「今のを式で表してみると、こんな風になるよ。」

無数の線を引いて面積ができることを、例えば、xの部分がBからAに向かって動いて三角形ができる場合、 と表し、yによる三角形の場合は、と表すとする。上の図と下の図を比較すると、上のx、yが下のy、xになっているように
必ずxの相手方yに、同じ長さの線分が現れるので、 ところで、この二つで長方形ができるから  だから
 
聡子「三角形の面積の公式ですね。」素男「それで、四角錐の体積はどうして出したんスか?」
樺先輩「前の図でxとyを一辺とする二つの正方形を作り、xとyを動かしていくと、無数の正方形によって二個の四角錐ができるよね。」
素男「よくわからないス」
樺先輩「それじゃ図を描いてみるか。PQがABからCD方向へ動いて行くと左側に先端に向かう、右側には底辺に向かう角錐ができる。 PQがCDに達したときには、同じ形の四角錐がふたつできるよ。」
 

素男「わかるス。それで体積はどうやって計算するんですか?」
樺先輩「正方形を立ち上げる土台の平面をこんな風に、縦に二等分するGEという直線を引くよ。yの長さの中でGEより左にある線分をzとするよ。PQが動くときxとyから正方形を作っていったけれど、今度は、zを一辺とする正方形も作るんだ。」
 

素男「なんだかこんがらがってきたス」
樺先輩「そのなんとかスというのやめてくれない。ぼくは酢の物が苦手なんだ」
素男「はい、すいません。そうしまス」
樺先輩「それじゃ、また絵を描いてみるか。」
素男「zはHI線に近づくと0になるけど、その先はどうなるんですか?」
樺先輩「今度はxの中でGEより右にある部分をzとするのさ」
素男「あっそうか」聡子「すると、zによっておなじ四角錐が二つ出来るんですよね」
 

樺先輩「そうだよ。それで、xによってできる四角錐とzによってできる一個の四角錐の体積を比べてみると、zの方はxの方の8分の1になるよね」
素男「えっ?半分じゃないの?」
聡子「正方形の一辺を半分にすると、元の正方形の4分の1になるでしょう。」
素男「ああそうだね。それで、体積になると?」聡子「直方体の一辺を半分にすると、元の体積の8分の1になるっしょ。」
樺先輩「直方体の例がでたけど、一般に相似の図形では、長さを半分にすると面積は4分の1,体積は8分の1になるよ。それで実際に計算してみるよ」

直方体の体積;∫a=ah、ところで、a=x+y なので、
   ∫a=∫(x+y)=∫x+∫y+2∫xy=ah ・・・@、 
   x=1/2・a−z、y=1/2・a+z、から、 xy=1/4・a−z
PQが中央線HIを超えたら、 
   x=1/2・a+z、y=1/2・a−z、から、 xy=1/4・a−z
おなじ結果になる。
 ところで、∫z は、AEを始線として動線1/2・aがHOまで行き、さらにそれを超えてGCまで行くときにできる立体図形の体積を表す。AEからHOまでの図形は、求めるべき四角錐と相似で辺、高さが半分なので、体積は、8分の1になる、したがって、
    ∫z=2・1/8∫x=1/4・∫x
ゆえに、
    ∫xy=∫(1/4・a−z)=1/4・∫a−∫z=1/4・ah−1/4・∫x
@の式は、∫x=∫y2 を使って、2∫x+2∫xy=a
上記の結果を使って、2∫x+2(1/4・ah−1/4・∫x )=a
すなわち、3/2∫x=1/2・a
     ∫x=2/3・1/2・ah =1/3・a
 
聡子「あっ。四角錐の体積。面積×高さ÷3だ。」
素男「あっ。ホントだ。やっと3分の1に出会った。だけど、回りくどくてなんかスットした気持ちになれないな。」
樺先輩「そうだけど、一般に理屈を追うと、本当に納得するまで時間がかかるよ。」
素男「先輩!四角錐は分かったんですが、円錐の場合はどうするんですか?」
聡子「さっきやったしょ!カヴァリエーリの法則だって!」
素男「おおそうだった。だけど、その法則はどうして出すんですか?」
樺先輩「書いて説明するよ」

 例えば、さっきの三角形の面積から話を進めるよ。
動線分のxを3倍して動かして作る三角形と元の三角形の面積を比較するよ。
     
xを総計すると∫x=S、3xを総計すると、∫3x=3S
だから、  ∫3x=3∫x
 もう一つ、動面積を4倍にした四角錐の場合をみるよ。
   
   
動平面xを総計して、∫x=V xの4倍をを総計すると、
     ∫4x=4V つまり、∫4x=4∫x
 一般に、∫kx=k∫x
平行線の範囲内の全ての位置で、動線分がk倍ならば面積もk倍になる。また、
     ∫kx=k∫x
平行平面の範囲内の全ての位置で断面積がk倍であれば、体積もk倍になる。これが「カヴァリエーリの定理」だ。
 
素男「それにしても先輩、ずいぶんカヴァリなんとか先生の説に詳しいですね。ひょっとして、樺先輩の御祖先ですか」
樺先輩「カヴァリエーリは17世紀のイタリア人。今高校で習っている数学の渡邊先生から、カヴァリエーリのこと宿題に出されたんだ。それで、一寸前にレポートを書き終わって中学校にやってきたわけ。」
聡子「ああ、そんなんだ。さっきから樺先輩のこと尊敬しまくっていたんですよ」
素男「ところで、高校にはこんな変な宿題を出す先生もいるんですね」
聡子「そんなことより、線が動いて面をつくる。面が動いて体積を作るってすごく素敵なアイディアみたい。」
素男「それがさぁ。ちょっと変だよ。線が動いて面を作ると言うけれど線には幅がないだろう。幅がないのに面がでいるわけないよな。それに、面には厚さがないだろう。厚さが0の物がいくら沢山集まっても体積になるわけないよ!」
聡子「だけど、実際に今やったようにちゃんと体積が求まったでしょ。」
素男「それもそうだけど。どうも腑に落ちないな。先輩どうなんですか?」
樺先輩「今素男君が言ったこと。当時もずいぶん批判されたんだ。けれど、カヴァリエーリはキチンとした答を出せなかったんだ。どうやら線や面の運動に何かをつくり出す秘密があると考えたんじゃないかな」


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