星の距離を測る
余弦定理-平面・球面
渡邊勝(札幌琴似工業高校)
数教協
第37回全道数学教育研究大会
1997年7月28日、29日
札幌市青葉小学校
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Ⅰ はじめに
問題;地球から牽牛星までは、17光年、同じく織女星までは、26光年、二つの星を望む角度は、34度である。牽牛星と織女星の間の距離を求めよ。
解;
AV2=VE2+EA2-2VE・EAcos34°
=262+172-2・26・17・0.8290
=232.2
AV=15.24
この問題は、教科書(三省堂)にも掲載されている優れた問題です。ひとつは、測量の領域を地上から天界へ飛躍していること、牽牛・織女の恋物語が下地にあって、ロマンをかきたてること。一年に一度の逢瀬しか許されない「二人」の距離を求めることが、好奇心をかきたてているのです。
Ⅱ.地球恒星間の距離
1.年周視差を使って測定
ところで、地球から恒星までの距離はどのように測定するのでしょうか?
目的の天体をAとし、地球が太陽Sの周りを公転している円(楕円)の直径の両端をE1、E2 とするとき、観測地と時刻をうまくとることによって、実線の直角三角形ができます。
∠E1AS を年周視差と言います。これが、測定できれば、⊿AE1S について、
E1S=1.49597870×1011m(1天文単位=AU)が既知なので、辺AE1を求めることができます。
問: ケンタウル座α星の年周視差は 0.75秒です。この星までの距離はいくらか?
解: この星をA、地球をE、太陽をSとして、三角形AESは、∠Sが直角、
AE・sin∠A=ES
∠Aは微少なので、ラジアンで測れば、sin∠A≒∠A
ES=1AU≒1.50×108km
∠A=0.750″≒0.750×4.85×10―6 ≒3.64×10-6
AE≒ES÷∠A=4.12×1013km
≒4.12×1013km÷9.46×1012km/光年≒4.36光年
2.年周視差検出の苦労
コペルニクスが地動説を提唱して(1543年)以来、年周視差が測定されるであろうとの見込みで、多くの天文学者がさまざまな苦労と工夫をしながら測定に従事しました。
1675年光速を初めて測定したO.C.レーマーが、この問題にも初めて取り組みましたが検出出来ませんでした。
その後、色消しレンズの発明があって(1733年、C.M.ホール、
1755年、J.ドロンド)、屈折望遠鏡が発達し、1838年にF.W.ベッセルが、ヘリオメーターという光学器械を使って、白鳥座の61番星の年周視差を測定しました。
その角度は、0.294秒です。視力1.0の人が見分けるのは、1分=60秒といわれています。いかに微少かおわかりいただけると思います。ちなみに、月や太陽の視直径が30分=1800秒です。
現在は、写真撮影のフィルムの比較からこの角度を測定します。ただし、遠い星は、誤差の限界内に入ってしまい測定が不能になります。
また、星雲までの距離を測定する歴史は、一つのドラマを観る思いがいたします。
このあたりは、吉田正太郎著「望遠鏡発達史」上巻(1994,誠文堂新光社)、
ジョン・グリビン著野本陽代翻訳「ビッグバンの探求-宇宙はどこからやってきたか」(1988年、㈱ティービーエス・ブリタニカ)を参照しました。
Ⅲ.恒星間の視離を求める。
1.位置天文学=球面天文学のこと
ところで、二星を望む距離が34度は、どのようにして測定したのでしょうか?トランシットを使って直接測定することもできますが、恒星の「赤経、赤緯」といわれている座標がもとめられていますので、それを基に計算で求めることができます。
地球の自転のために、地上を覆っている天球が、東から西に向かってゆっくりと回転しています。従って、天球上の星は、東から西へ回転しているように見えます。これを「日周運動」と言います。日周運動によってできる最大の円を「天の赤道」と言います。
天球上の天体は、天の赤道に平行に日周運動をしています。天体は一年中赤道に対して位置を変えません。ただし、太陽は、年間を通して、赤道に対して位置を変えていきます。このように年間を通じて、天球上の太陽の通る道を「黄道」(こうどう)と言います。黄道が赤道と交わる点が春分点と秋分点です。
日周運動の軸が天球と交わる点が「天の北極」「天の南極」と呼ばれます。
天の両極を通る大円を子午線と言います。春分点を通る子午線を本初子午線と言います。本初子午線から東に向かって、角度を張り付けます。これを「赤経」と呼びます。普通は六十分法によらず、時間法で表現します。180度と言わず12時と言い、15度いわず1時間と言います。
一方天の赤道から両極に向けて、角度を張り付けます。これを「赤緯」と言います。北極へはプラスの角度を、南極にはマイナスの角度を使います。
天球上の天体は、赤経と赤緯でその位置を表すことができます。
2.球面三角形
天球上の三点によって、球面三角形を描くことができます。
球の半径を1として、球面上の辺は、角度で表します。内角は、下図のように定義します。
a=∠BOC b=∠COA c=∠AOB
∠A=∠B1AC1 ∠B=∠AB1A1 ∠C=∠AC1A1
(∠OB1A=∠OC1A=∠R) (∠OB1A=∠OB1A1=∠R) (∠OC1A1=∠OC1A=∠R)
3.球面三角形の余弦定理
球面三角形に於いても、「余弦定理」と呼ばれる定理があります。
AB1=sinc
A1B1=AB1・cosB=sinc・cosB
OC1=cosb、OC2=cosc・cosa
A1B1=sinc・cosB
A2A1=A1B1・sina=(sinc・cosB)sina=sincsinacosB
OC1=OC2+C2C1
=OC2+A2A1
cosb=cosccosa+sincsinacosB (余弦定理)
輪環変換によって、
cosc=cosacosb+sinasinbcosC
cosa=cosbcosc+sinbsinccosA
4.二星間の視角(視距離)を求める公式造り
天体の座標を(赤経、赤緯)のように表わし、天の北極をA、天体をB,Cして、
B(α1,δ1)、C(α2,δ2)とすると、下図のようになります。
求める視角(視距離)をaとして、余弦定理を適用すると
cosa=cosbcosc+sinbsinccosA
=cos(90°-δ2)cos(90°-δ1)+sin(90°-δ2)sin(90°-δ)cos(α2-α1)
=sinδ2sinδ1+cosδ2cosδ1cos(α2-α1)
=sinδ1sinδ2+cosδ1cosδ2cos(α2-α1)
問;織女星(18時36.9分、38°47′)、
牽牛星(19時50.8分、8°52′)です。
二星間の視角(視距離)を求めてみよう。
解:
時分を角度に換算します。
18時36.9分=18時+(36.9÷60)時=18時+0.651時
=18.651時=18.651時×15°/時=279°2
19時50.8分=19時+(50.8÷60)時=19時+0.847時
=19.847時=19.847時×15°/時=297°7
分を度に換算します。
38°47′=38°+(47÷60)°=38°78
8°52′= 8°+(52÷60)°= 8°87
織女星(279°2、38°78)、牽牛星(297°7、8°87)
求める視角をaとして、余弦定理を適応すると、
cosa=sinδ1sinδ2+cosδ1cosδ2cos(α2-α1)
=sin38°78sin8°87
+cos38°78cos8°87cos(297°7-279°2)
=0.0966+0.7304=0.8270
a=cos-10.8270=34°21
Ⅳ.問題造りのための資料
1.夏の大三角形
琴座ヴェガVega(織女星)、鷲座アルタイルAltair(牽牛星)、
白鳥座デネブDeneb
位置は Vega(18時36.9分、38°47′) 25光年
Altair(19時50.8分、08°52′) 16光年
Deneb(20時41.4分、45°17′)1800光年
度に換算して Vega(279°225、38°783) 25光年
Altair(297°700、08°867) 16光年
Deneb(310°350、45°283)1800光年
視角は、 ∠V-A=34°202
∠A-D=38°015
∠D-V=23°849
星座や星の名前はラテン語用います。読み方は「ローマ字読み」です。従って、英語の発音とは、違いますのでご注意下さい。
2.冬の大三角形
子犬座プロキオンProcyon 、大犬座シリウスSirius、
オリオン座ベテルギュウスBetelgeuse
位置は Procyon(07時39.3分、5°14′) 11 光年
Sirius(06時45.1分、-16°43′) 8.6光年
Betelgeuse(05時55.2分、07°24′)500 光年
度に換算して Procyon(114°825、5°233) 11 光年
Sirius(101°275、-16°717) 8.6光年
Betelgeuse(88°800、07°400) 500 光年
視角は ∠P-S=25°715
∠S-B=27°090
∠B-P=25°953
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