北海道数学教育研究協議会(道数協)
高校サークル98年12月例会
あなたは経済大臣
線型代数どこまでやるの?
渡邊勝(元札琴工)
1998年12月26,27日

札幌市。あけぼの旅館


 

基礎資料

 単元;数学C「行列」 、工業数理「予測と計画」−“産業連関表”

指導要領にあるもの;

  1.行列の定義、相等、

  2.行列の和と実数倍、零行列、行ヴェクトル、列ヴェクトル、

  3.行列の積、非可換、零因子、単位行列、

  4.逆行列、二次行列逆行列の公式

  5.連立一次方程式、二次;逆行列の公式使用、消去法、三元一次→消去法

  6.コンピュータによる行列の計算

    定数倍;2×3行列、和;2×3行列、積;2×2行列、消去法;三元連立

必要とされる予備知識;上記1〜4

この指導案で上記以外に準備するもの

  1.転置行列;定義

  2.転置行列の逆行列    *要点参照

この指導案の特徴点

 @ 「掃き出し法」を操作だけに終わらせないで、行列と対応させた。

 A 「掃き出し法」によって、逆行列も算出できることを示した。

 B 二次行列の場合も、逆行列の公式を使わないで、掃き出し法を徹底する。

C 普通高校では扱わない産業連関表=投入産出表をとりあげた。

 D 「あなたは経済大臣」の節を設けて、産業連関表をシュミレーションの材料とした。



 

 産業連関表の歴史

  1.フランソワ・ケネー;Francois Quesnay(1694〜1774年)

ポンパドール侯爵夫人(渡邊勝氏の高校時代一コ下のマドンナI.N嬢に似ている)の侍医、

ルイ十五世の侍医、「百科全書」に執筆、

1758年に「経済表」初版を印刷。(岩波文庫−白43)

重農学派;重商主義によって疲弊させられた農村の復興、

     農業が富の源泉:商工業は不生産的、

     自然法の思想

 

  2.カール.マルクス;Karl Marx(1818〜1883年)

マルクスは経済表(範式)を評して、次のように述べている。(剰余価値学説史、第一章第

十四節)。「この表は、資本の全生産遇程を再生産過程として叙述し、流通をただこの再生産

過程の形態として、貨幣流通を資本の流通の一動機として、叙述するの試みであった。同時に

また、この再生産過程の中に、収入の起原、資本と収入との交換、再生産的消費と決定的消費

との関係、というものを包含しょうとするの試みであった。また、資本の流通の中に、消費者

と生産著(事実上、資本と収入)との間の流通を、包含しようとするの試みであった。最後に、

この再生産過程の動機として生産的労働の二大区分−原生産と工業の間の流通を叙述するの試

みであった。そしてこれらすべてを、一つの表の中に、すなわち実際上ただ、六つの出発点と

帰着点とを結ぶ五つの線から成る表の中に、叙述するの試みであった。しかもそれは、十八世

紀の最初の三分の一、すなわち経済学の幼少時代においてである。それはたしかに最も天才的

な思いつきであった。経済学が今までにこれに負うところは少なくない。」

マルクス自身は、「資本論・第二巻・第二部・第三篇・第20章;単純再生産、第21章;

蓄積と拡大再生産」の中で、再生産表式を展開している。生産財生産、消費財生産二部門にお

ける剰余価値の生産と部門内取引、二部門間取引を分析している。経済主体の相互関連をマク

ロにみている。

例;単純再生産の場合、添字(サフィックス)の1;生産財部門、2;消費財部門

  C;不変資本、V;可変資本、M;剰余価値、W;生産された商品の価値

 

  3.ソヴィエット革命後

ブハーリンの指導下、「ソ連邦国民経済バランス」1926年、

(商品経済消滅→経済学消滅→客観的経済法則の否定→計画経済下の均衡体系を追求)

数理形式主義的偏向があって、スターリンから「数字の遊技である」との批判され、経済バラン

スは中止。産湯を捨てて赤子まで流してしまった。1929年

以後ソ連では、経済学の数理的側面を軽視してしまう。

 

 4.ワシリー・レオンチーフ; Wassily Leontief(1906〜

ソ連からドイツそして米国に移住しハーバード大教授となった経済学者;

「産業連関表」を創案(経済バランスを米国に移植)した。

「アメリカ経済の構造1919〜29」1942年

依って立つ経済理論は真に科学的経済学でなく、現象論に留まっていた。

 

  5.日本;官庁経済学

1957年通産省が「日本経済の産業連関分析」発表、それ以降5年ごとに作成、



 

  産業連関表の問題点

1.剰余価値が隠されてしまっている。剰余価値の生産こそ資本主義的生産の基本動機である

2.「投入量=産出量」;自動均衡論

3.依って立つ学理;「新古典派」等;経済主体;企業、家計とみる、価格は需給決定論

4.真に科学的な経済学で、表を編成し直すことも可能;ただし、初学者には難しい。

参考文献

 高等学校工業科用「工業数理」実教出版1996年

ケネー、戸田正雄・増井健一訳「経済表」岩波文庫(951−951a)1966年

関恒義「現代の経済原論」実教出版1997年

関恒義「経済学と数学利用」大月書店1979年

大阪市立大学経済研究所編「経済学辞典第2版」岩波書店1979年

マルクス、資本論翻訳委員会訳「資本論」新日本出版1997年



 

  転置行列について要点

 A=[ij] B=[ij] 両者ともにn次正方行列とするとき、

[ji] B[ji] これらを転置行列とよぶ。

(@

 (AB)[ij][ij][Σaikkj] ならば、

(AB)[Σajkki][Σbkijk][ji][ji]=B

すなわち (AB)=B′   ・・・・・@

(A

E;単位行列 E=E

(AA−1)=E=E

(−1)=E

上の式より

()−1(−1)       ・・・・・A

(B

(E−A)[(δij−aji)][(δij−aij)](E−A)′ (δij;クロネッカーのデルタ)

すなわち (E−A)(E−A)′  ・・・B



 

  非負解存在の保障

問題;(E−A)d の係数行列(E−A)がはなはだ特殊な形をしている。

(E−A)[ij] i≠jのとき、bij<0 i=jのとき、bij>0

はたして、の要素が非負のとき、の要素も非負であるか?

一般に

のとき、

が保障されるか?

[定理] Hawkins-Simonの条件(首座小行列式が正値をとる)

[証明

n=1のとき <>は、11

C>より 11>0 、11

≧0⇒≧0  即ち<>が成立

n=k−1で成立すると仮定  ・・・<

 

掃き出し法の操作を行い

     

(2)について<>より

行列式の性質により、<Ak>の係数行列<A′k>の係数行列の行列式は等しく、

右辺を展開して、

(3)より ││>0、(1)より

<Ak>より、1j≦0,(4)より≧0(=2,・・・、

まとめて n=k のとき

ゆえに、すべてのn(n;自然数)について成立

参考文献

二階堂副包「経済のための線型数学」新数学シリーズ22 培風館1961年

  次の節へ


 

マサルのレポートへ戻る

ホームページに戻る