サボテン今昔 13 先人たちの用土
サボテンの用土について、われわれの先輩達か体験から生み出した用土の工夫が過去の文献に残っている。その幾つかを拾って見よう。(何れも抄録)
仙人掌特科植物要覧 | 草刈省三 | 明治45年1912 | 用土は砂質が第一。真土でも良い。 |
仙人掌及多肉植物名鑑 | 棚橋半蔵 | 大正6年1917 | 軽くて未熟のものを含まない土壌に砂を加える。 |
仙人掌の種類と栽培 | 大塚春雄 | 昭和4年1929 「培養土」の頃 |
仙人掌は砂漠の様な所に生えているから、全然砂に植えた方がよいと考えられる向が可成り多い。事実はこれに反して相当肥料分の含まれている土地である。1年生の草木やススキの様な丈夫な宿根草木は相当繁茂している。これに充分な水さえ与える事が出来たならば、麦その他農作物が充分発育し得る程度の土質である。故に用土は砂のみでは不可能で、壌土または壌土に少量の砂を混じた程度のものを用ふる事か必要であり、一歩進んで発育の促進を計るためには壌土5分腐葉土3分砂2分を混合したものが良く、極端な方法としては腐植土6分壌土2分を混じたものを用いる。腐植質土は1.5mmの篩を通した粗粒を用いなければならない。腐植質土は醸熟用として使った綿屑の腐植したものか最も好成績。砂のみでは発育か思う様に行かず、粘土の場合は排水不良で腐敗する。有機質に富む腐葉土のみの場合も腐敗の因となる場合か多い。 |
趣味の仙人掌栽培 | 石井勇義編 | 昭和6年1931 | 「シャボテンの面白味」東京 能島武文 現在まで、日本に於けるシャボテン栽培は原始期であったと言ってよい。例えば培養土だけに就いて見ても、天神川が好いという人、木曽川を主張する人、腐葉土だけの人等全く千人千様で、まだこれが最適だというものが決定していない。 「仙人掌の趣味栽培」千葉市 石井治 仙人掌には何か特殊な培養土でもある様に思われる方もあるようだが、各人各様で一定した用土の調製法はない。仙人掌は如何なる土質でも不適当ではないことを意味する。然し東京を中心に関東地方では、腐植土(塵土)を主とし、これに適宜に砂を混じたものを用い、名古屋以西では砂のみを用い、またはこれに多少の腐植土を配合するという地方色が認められる。その何れを主として用いるとしても、成育の年齢や品種によって配合の割合を加減することが必要で極端に一方に偏することは当を得たものではない。私は次の標準で配合を行っている。即ち幼苗と刺毛に重きをおかない品種及び多肉植物の大部分には、腐植土5分、真土2分、砂2分、細粉を除いた赤土少量。中球及刺毛の強大なものには、腐植土3分、真土2分、砂3分、赤土1分。輸入品及び老齢のものには赤土7分、砂2分、天神川の荒砂1分と腐植土少量。これは唯参考に述べたので決して完全なものとは思っていない。初心の方に容易且つ安全な用土としては壌土に2〜3分の荒砂を混じたものか適当と思うが、一歩進んで発育の促進を欲するならば、真土5、腐植土3、荒砂2位の配合が安全。腐植土の量は7割を越すと危険。 「多肉植物の品種と培養」 東京 松渾進之助 用土は仙人掌と全く同様でよろしく、同好者間でも木曽川砂を用いる人、玉川砂かよいという人もあるが、要は砂を使用して排水をよくするということ。私は手近にある玉川の粗目の砂と腐葉土を半半の割に混合して使っている。腐葉土は十二分に風化した完全なものでなければならない。 「棚橋半蔵氏と二宮仙人荘」 二宮農場 高橋惣吉 (棚橋氏は)各種属の習性により異る培養土を使用された。即ち、玉、蝦仙人掌等に使用する用土混合は、牛糞4分、川砂2分、壁土2分、赤土1分、軽石1分。この牛糞は石灰を加用し切返えして2〜3年位で腐蝕しほとんど土の如くなったもの。川砂は普通の川にある白色の砂。壁土は田舎家、土蔵にあるぼろぼろになった古いもの。丸仙人掌(マミラリアなど)には牛糞を3分にして代りに木炭粉1分を加える。 「仙人掌多肉植物類を栽培して」稲垣郁二郎 私のよいと思っている用土はよく朽ちた腐葉土または芥土を日光消毒したものに川砂と壌土をわずかに入れたものである。 |
仙人掌目録 | 横浜京楽園 | 昭和6年1931 | 培養土は腐葉土6分、川砂4分の混合か最もよろしく、また川砂のみにても、また如何なる用土にても結構であります。 |
シャボテン総目録 | 大阪光兆園 | 昭和6年1931 | 川砂(あまり細粉でないもの)を腐植土(ピート)と半々に混合したものが適当であります。純良ピート(土気の混らぬもの)ならば砂2ピート1の割合で合せて植えます。畑土、粘土等はシャボテンの真の用土としては不向きです。川砂だけでも育ちますかピート入りの用土とは比べものになりません。 |
シャボテンN0.3 | 紅波園 | 昭和10年1935 | 「仙人掌栽培法」津田宗直(直筆原稿へ) 砂4、ピート1、体径12〜15cm以上の大株には砂5、ピート1、ここでいうピートとは綿実柏の腐熟して黒褐色の土のようになったものを言う。ピートの乾燥したものは非常に軽いから重い砂と混合するときは全体に軽く水を撤いて何度も何度も切返して完全に混合する。 |
サボテンの常識と作り方 | 堀田千代 | 昭和10年1935 大増補改訂 |
用土の第一条件は排水のよい肥沃なこと。私共では砂に腐葉土を混合します。砂は川砂で塩分や酸分のないもので細か目より、ほんの少し荒目の混じったのが宜しい(左官砂というコンクリートを壁につけるときに使う大きさ)。配合は苗の大きさ3〜5cm位のものですと腐葉土2〜2.5、砂7.5〜8の割合で、ごく少量の石灰を入れ混合します。 |
シャボテンと多肉植物の栽培智識 | 龍膽寺雄 | 昭和10年1935 |
シャボテンの根は非常に空気を好むから.角目の多い粗い砂礫を多分に培養土に含めること。適当な有機質土を与えて、根の活動を促すこと。腐葉土ないし腐植土は養分供給のためだけでなく、気孔が多く、水温を保ち、黒色を帯びるが故に熱を吸収する等重要な条件をも具有している。このほか各種経験家が推賞するものに繊維状に風化した牛糞がある。これを培養土中に1割内外混用する。また炭末、特にモミ殼の燻炭の加用が推賞される。寒ざらしの赤土の微粉を除いたものは化粧土によろしい。 |
以上、戦前の目ぼしい文献から用土に関する部分の要点を紹介した。良質の田砂が手近に得られる愛知県近辺や関西は川砂主体、余り上質の川砂に恵まれない関東は土を主体に砂は補完的という傾向があったようである。私は東京育ちだが、川砂主体の用土を使っていた。名人と謳われた津田先生の栽培に少しでも近づきたいというのか少年の願いであった。