|
傍 証 脳の生理的機能 ADDが脳の機能障害である以上、脳自体に就いても触れる必要があるだろうが、最小限にとどめる。詳しく知りたい方は、やはり参考書がたくさん出ているので読んでみてはいかがだろうか。しかし、脳の機能に就いては未知の部分が非常に多い、むしろほとんど分からないというのが現状だ。確かに、おそらく単一の機構としては、人間の脳はこの世にある中で一番複雑な物体ではなかろうか。仮に脳の構造が全て分かったとして、というより解剖学的な構造は相当詳しく分かっているが、それらの機能についてはほとんど分かっていない。人間の意識、心、自我といったものが脳の機能から生じていることは間違いないだろうが、どうしてこの高々1400グラムの灰色の物体が全宇宙にも匹敵する内なる宇宙を生み出すのかはもうまるっきり分からない。 分からない分からないでは話が進まないので、私が知り得た中から要約して書いてみる。脳の構造などは色々な本に載っているし、改めてここに図面を載せる必要ないだろう。 人間の脳は成人で大体1400グラムであり、その中に神経細胞がおよそ150億個ある。各々の神経細胞から複数の神経節がのび、その数は1個の神経細胞から最大1万本ものびておりそれぞれが他の神経細胞に直接間接的につながっている。神経節(ニューロン)は他の神経節または神経細胞に直接つながっているわけではなく、ごく狭い間隙(シナプス)で離れている。脳が働くとき、特定の神経細胞から神経節を伝わって電気信号がおくられるが、シナプスの間は様々な神経伝達物質で連絡されている。 脳全体の構造としては、脳幹、小脳、大脳からなり、大脳は左右の大脳半球に分かれ、その間を脳梁がつないでいる。大脳の主たる部分は大脳皮質で、大脳全体を覆っている厚さ3ミリほどの神経細胞のシートであり、細かい皺がたくさんあるので、広げてみると新聞紙を完全に開いたほどの面積がある。これらの構造は哺乳動物では大体同じで、特に霊長類の脳は人間の脳によく似ている。しかし、決定的に違うのは、前頭葉と呼ばれる大脳の前部が他の動物に比べ際だって大きく発達していることだ。結局、人間が人間であるのはこの発達した前頭葉故であると言えるだろう。つまり、人間らしさ,人間としての心、人格、自我、意識などなどはこの前頭葉の機能だと確定できる。大脳は、各種の運動や判断、認識などを司るが、それらの部分が得た外界の情報を整理し組み立て判断するのが前頭葉であるわけだ。ここに心があるという証明は、実はまだはっきりしていないが、状況証拠として、この部分に損傷を受けると人格が壊れ、意志を保つことが出来なくなる事でも分かる。むかし、凶暴な犯罪者の前頭葉を手術で機能出来ないようにするとすっかり凶暴性が収まるということで、その方法を発明した医師はノーベル賞を受け、世界中で多数の犯罪者が手術を受けた。しかし、この手術が人格を奪うものであることがはっきりし、今はむろん行われていない。 ADD患者の脳を色々調べてみると、この前頭葉の働きが鈍いことが分かった。原因としては色々挙げられるが、先に挙げたシナプスをつなぐ神経伝達物質の働きが弱い事が主原因とされ、その伝達物質の働きを補うために様々な薬品が利用されるようになった。リタリンが代表的なものだが、全てのADD者に効果があるわけではなく、また耐え難い副作用が出たり、依存性があったりして、無制限に使える訳ではない。 いずれにせよ、ADD者の前頭葉の機能が不全であることから、ADD者は性格的な問題を有し知能レベルが低いなどと言う認識が生じてきているのだろう。 とにかく、脳の機能、意識、心などについてはほとんど分かっていないのが現実で、単純に前頭葉の機能が低いから性格に問題があるとか知能が低いなどとは言えない。実際、脳溢血や外傷で脳が損傷しても、リハビリで脳の他の部分が代替機能を果たすようになり、結果として一度発生した症状が消えてしまうことも頻繁にある。パスツールが死んだ後解剖をしてみたところ、脳の左半球が脳内出血で完全に死んでいた事が分かった。が、パスツールは全くその影響など見られないような研究成果を上げた。つまり、150億個ある神経細胞は最大でも30パーセントしか使っていなく、後は予備なのだ。毎日数万個づつの神経細胞が消滅しているが、それでも人間の脳は100年以上十分にその機能を果たすように出来ている。100年生きるとして、毎日5万個づつの神経細胞が死んでも、100年で消える神経細胞は18億個あまり。脳全体の1割ちょっとであり、脳の機能としては影響はない。脳も身体と同じで、正しく訓練をしていれば、死ぬまで機能は向上するのだ。 本稿を読み終わったら、ブラウザの(戻る)で元に戻って下さい。 |