傍 証   犯罪とADD

犯罪者がなぜ犯罪を犯すのかとは昔から色々な人が論じてきた。時には、犯罪者が自分はなぜ犯罪を犯したかを説明したりもしたが、それで犯罪が減ったということはない。犯罪とは、その社会が容認しがたい行為を、自分の意志を持って犯す行為を言うが、むろんそれを自覚している場合もあるし無い場合もある。また、自覚できない場合もある。中には、確かに生活苦からつい盗みをしてしまった、とか身を守るためについやりすぎて相手を死なせてしまったなどの理由が納得できる犯罪もある。育った環境が劣悪で、きちんとした道徳を身につけることが出来ず、犯罪を犯すようになったなどという同情すべき理由もある。そして、習慣の違いからある社会では犯罪にならないのに他の社会では犯罪と見なされる場合もあり、これは犯罪とは一概に言えない。ある国では妻を複数もてるが、日本では重婚罪になる。配偶者が居るのに他の異性とセックスをしても、日本では犯罪ではないが、ある国では死刑になる。また時代によって社会の容認しがたい行為も変わってくる。昔は、主人が殺されれば、家族は犯人を捜し出し、敵討ちをしなければならなかった。結局以上の犯罪は、それなりの理由があり、減少させるに有効な方法もある。良い例が、日本の犯罪発生率が世界でも例外的に低い事が挙げられる。生活水準が高く、教育レベルが高く、また集団意識が強いため独自の恥の意識が犯罪抑止力になっているのだろう。それから、後述するが人種の問題がある。

問題は、元々犯罪を犯すように生まれついた人間が存在することで、これは絶対に無くならない。ソシオパスあるいはサイコパスと言われる一群の人間達が居るが、彼らは脳そのものに欠陥があって、他人の心を推し量ることが出来ない、良心がない、自分の欲望のためには手段を選ばない、他人に苦痛を与えることをためらわない、目的を成し遂げるためにはその結果がどうなろうともかまわないのだ。例えば、人を殺すことに喜びを感じる人間は、その結果捕まって死刑になることを充分に承知しながら殺人を犯す。もし充分な知能があれば、巧妙に自分の犯罪を隠し何人でも殺し、その間善良な市民として生活をする。

結局、犯罪を犯すことに対し、全くためらいをもたない、いや全くもてない人間はいつの世にもどこにも居たし、そして今後も出現するだろう。犯罪は絶対になくならない。ここではこの絶対になくならないタイプの犯罪者について述べる。知能犯や出来心のこそ泥は別として、このタイプの犯罪者が犯す典型的なものは連続殺人が上げられる。これは典型的なソシオパスの犯罪と言っていいだろう。

日本にも、津山の30人殺し、大久保清、宮崎勲、酒鬼薔薇(A少年)などなどの連続殺人の例があるが、世界では桁外れの連続殺人者が存在する。100人以上殺した殺人者なども枚挙にいとまがないが、際だった特徴がある。ほとんどが、白人男性なのだ。

殺人だけではなく、粗暴犯の比率で言えば白人が一番多い。黒人はそれより少ないし、アジア人はもっと少ない。これほど犯罪が多発している日本だが、欧米の粗暴犯の数から見れば無いに等しい。もっと顕著な特徴がある。粗暴犯のほとんどは男性である。女性による連続殺人はほとんど例が無く、暴力犯も統計が取れないほど少ない。そのような犯罪を犯す人間の年齢は十代から30歳くらいまでが断然多い。従って、粗暴犯を劇的に減らす効果的な方法は、まず、白人を排除する、男性を排除する、30前の人間を排除すれば良い。むろん、そんなことをすれば犯罪者同様普通の人間も居なくなってしまうので、現実的な手段ではない。

しかし、なぜそのような性別、年齢、人種により粗暴犯の出現率が違うのかを解明する事は無駄ではないだろう。犯罪を行うのは、結局脳の仕業だ。その脳の機能がこれらの分類に従って異なる事は論を待たない。先程述べた脳自体の生まれつきの機能障害でソシオパスになっている人間の数も、今挙げた分類に従って比率が偏っている。今では、その生まれつきの脳の機能異常の大きな原因が脳内神経伝達物質の作用によるものであることが分かっている。そして、中でも男性ホルモンが神経伝達物質のバランスを狂わせる原因に大きく関わっていることも確実なのだ。このホルモンは、男性の方が女性よりもちろん多いし、十代から30歳までといえば生涯でも一番盛んに出ているだろう。そして、白人の男性ホルモン量が他の人種に比べて多いことも確実だ。男性ホルモンは理性を狂わせる。いわば人間を人間たらしめている前頭葉の機能を抑制してしまうのだ。正確には、男性ホルモンが脳内の神経伝達物質のバランスを崩してしまうためだとは脳内神経伝達物質でも書いた。

ほ乳類ではオスとメスの数は大体1:1である場合が多い。人間も例外ではなく、1:1になっている(出生率は男性1.04に対し、女性1.00)。改めて考えてみると、なぜ男性の数はこんなに多いのだろう。ミツバチや蟻などはほとんどがメスで、オスはごく少数女王と生殖を行う時だけ出てきて、用が済めばさっさと殺され捨てられる。魚類などには全てメスで、必要に応じて一部のメスがオスになる種類がある。アブラムシなどはオスが居なくとも繁殖してしまう。惨めなのはアンコウのオスで、メスの200分の一位の大きさしかなく、メスの身体にくっついて血管を直接メスとつなぎ、一生メスに寄生して生きている。もともと、生物は全てメスで、オスは進化の過程でメスが変化してオスが出てきた。神はアダムの肋骨からイブを造ったそうだが、それは間違いで、アダムがイブから造られたのだ。

なぜ人間にはこんなに男性が多いのだろう。せいぜい女性の100分の一も居れば、生殖には問題がないはずだ。なにしろ、女性が生涯に産める子供は20人が精一杯だろうが、理論的には一人の男が地球上の全ての女性を妊娠させられる。(別に私の夢を語っているわけではない ー 余談である)哺乳類や鳥類以外のメスは大抵オスより体が大きく、繁殖以外ではオスは邪魔者扱いされている。なぜ哺乳類ではオスの方が体が大きく、数も多いのだろう。人間に近い猿などを見てみよう。群の秩序を乱し、メスを巡って喧嘩をし時には子殺しさえする。それでもオス猿は群のボスになって群を守るからまだ良いが、ライオンなどは大きな図体で何も働かず、メスが狩りをしてせっかく手に入れた獲物をイの一番に食べ普段は子供の面倒など見ずにあちらこちらのメスにちょっかいを出している。男と生まれたからにはライオンになるか髪結いの亭主になるかだ。それはさておき、男性ホルモンのお陰で男性は病気が多く女性よりも早く死に、そして犯罪も多い。そんな犠牲を払ってまでこれほど男性が多いのは、きっと何かの理由があるにちがいない。

群を守るためとか群のために食料を確保する事ならメスでも充分出来ることは言うまでもない。とすると、秘密はその脳、というよりその思考形式に存在理由があるのではないだろうか。その思考形式が必要なために、男性ホルモンを過剰に持った男性が多数必要なのではないだろうか。男性ホルモンは、生殖のためではなく、脳を女性から際だって異なった機能、つまり暴力を好み独占欲が強く嫉妬心が強く攻撃的であるようないわば犯罪を犯す為に用意されているのだと考えられる。

そう考えてみるとつじつまが合うのだ。人間には武器になるような牙もなく角もなく、早く走れず空も飛べす泳ぎは問題にならないほど下手でしかも練習をしなければ泳げない。力もなく鼻も利かなければ耳も目も良くない。つまり、他の野獣と戦うには絶対的に不利な肉体しか持っていない。とすれば、それを補うのは異常なまでの独占欲、闘争心、攻撃性でなければならない。ライオンに襲われたからと言って逃げてばかりいれば結局はチンパンジーと同じ木の上にでもよじ登るか穴でも掘って中に潜んで夜になってからこそこそ歩きをしなければならない。せっかく二本脚で歩き始め、手が自由になって道具が操れ、火を使い言語まで使うようになった人間の意味がない。だから、ライオンを追い払いそのなわばりを奪い、こうかつに罠を仕掛けて逃げ足の早いシマウマやヌーを捕まえなければならない。その為にはどうしても闘争心や攻撃性が必要不可欠だったのだ。しかし女性は子育てをしなければならない。何しろ人間の子供はひどい未熟児状態で生まれ、10年以上も親が面倒を見てやらなければ生き延びられない。本能だけでは生きて行けないので、色々な生活の知恵をその間教えなければならない。一人の子供にかかりきりになっていれば子供は一人しか育てられないから、何人もの子供を産み同時に育てなければならない。となると、女性はとても子供を置いて狩りなどには行けないからどうしても自分や子供を敵から守り、食料を確保してくれる存在が必要になる。出来るなら、自分のために他のライバル生物を退け、自分たちが安泰に暮らせる環境を、手段を選ばす作り出す役目のものが居れば理想的だ。それが男性というわけだ。

一人の女性と何人かの子供を守り食料を確保するのはどうしても一人の男性が必要だろう。狩りやライバル生物との闘争には多大の犠牲が必要になる。とすれば、消耗品である男性の数は相当数必要になる。が、多すぎれば女性が男性を制御できなくなる。結局、男女比率は1:1にならざるをえない。ちなみに、女性の言語野は男性のそれに比べ良く発達しているが、むろん、言葉で女性が男性をたらし込む為には当然そうなろう。女性の言語野が男性より発達していることは、女性と口げんかをしたことのある男性が身にしみて知っていることだ。基本的に、生物はメスがオスを選び、オスを使役する傾向がある。人間の場合、その手段として女性が身につけたのは言語能力と性的魅力、と言ってしまっては男性としてのひがみかも知れない。

それはさておき、男性ホルモンのために男性の脳が犯罪を犯しやすくなっているのは、進化の必然なのであり、けっして欠陥ではないことが分かる。確かにソシオパスによる犯罪は深刻でしかもその率は非常に高い。が、多少のソシオパス傾向は社会の進歩に不可欠だとさえ言えるのではないか。だからこそ、男性はそのホルモンの力を借りてそのような思考形式が可能になっているのだ。事の良し悪しはともかくとして、人間は自然を克服し、他のライバル肉食獣や草食獣、微少生物を敵に回しながら勝ちを納め、地球の覇者となった。その経過で、人間は(女性に操られた男性は)自然や数々の生物をその征服欲の犠牲にしてきた。時に、人間の女性までが相当数犠牲になっているのは、あるいは避けられない損失だったのかも知れない。

しかし、幸いなことに人間は心を持つことが出来た。今ではむろん女が男を利用し、男が女を犠牲にするなどという関係はとうに脱している。互いに必要とし、助け合う事で成立する段階に至っている。他の生物とは同じには出来ない。一つの例として、大抵の生物はオスがセックスアピールでメスに自分を選んでもらう為に、メスよりも飾り立てているが、人間の場合は、女性がセックスアピールで男性を惹き付けている。未だ女性は最終選択権を手放していないようには思えるとしてもだが。

犯罪を犯すのは結局征服欲なのか。その征服欲故に人間はここまで文明を築いてこられた。犯罪はその為の代償なのだ。社会が発展するためには異端も不可欠だと分かる。ADDを初めASやLDなど各種の異端の思考形式を持っている人間もまた、社会に対し大きな貢献が出来るはずだ。そして犯罪の様な犠牲も払わなくて済む。

余談になるが、日本では最近犯罪が増えてきた、というメディア情報が氾濫している。しかし、現実にはそのような兆候はない。昭和30年代をピークとして、日本での犯罪発生率は減りつつあり、少年犯罪も激減し、犯罪の低年齢化も、犯罪の悪質化もない。(もともと、犯罪は悪質なものであり、善良な犯罪など将来もあり得ない)むろん、この数年だけを見れば、若干の増減はあり、一直線でそれらの要素が低下しているわけはないが、はっきりと言えるのは、日本は世界でも極端に犯罪の少ない国である。

先に多少その理由を述べたが、細くすれば:
日本が自由な社会であることが挙げられる。かつて宗教的な戒律が厳しかった中世ヨーロッパは凄惨な犯罪が蔓延していた。共産党独裁国家であったソビエトでの犯罪発生率は、当時犯罪はないと言われていたのにソビエトが崩壊した後その犯罪の凄惨さ、数の多さはすさまじいものがある。また、イスラム国家で宗教的な戒律の激しい地域の犯罪の多さは話題にもならず、中国も似たようなもの。つまり、社会的、宗教的戒律の厳しい地域の犯罪は社会の優位性を誇示するためにそれらが公にされていないだけで実体は目を覆うばかりだ。その意味で、それほどではなくともヨーロッパや中南米の犯罪発生率も、言うまでもなく日本が天国に見えるほどひどい状態だ。

日本では刑罰が軽すぎるという論議がある。最近犯罪が増えてきたからもっと重罰主義をとるべきだという意見が増えてきたようだが、日本より重罰主義をとっている欧米の犯罪発生率を考えると、まったく説得力はない。宗教的な道徳観が欠如しているから日本でも犯罪が増えてきたという論議は、まったく意味がないが、その理由は欧米やイスラム国家を持ち出すまでもない。

もうひとつ、犯罪に対する認識の違いも挙げるべきであろう。先に書いたように、日本を初め欧米では不倫は犯罪ではないが、死刑になる国もある。日本では酒に酔う事自体、それで甚だしく社会に迷惑をかけない限り、犯罪ではないが、イスラム国家などでは十分刑務所入りの理由になる。未成年の飲酒は、日本ではとりあえず警察で絞られる位だろうが、アメリカではやはり刑務所行きだ。

さらに、多少の不祥事はあるが、基本的に日本の警察は汚れていない。日本以外の警察では、その汚染が話題にもならないほど日常的だ。むろん、万全ではないとしても、日本の警察は優秀であり、社会的信頼度が高く、近年犯罪検挙率は下がったと言われているが、全体では検挙率が20%ではあっても、殺人強盗などの重大犯罪ではいまだ90%前後である。

結局、日本社会は自由であり、権利が守られ、政治も警察も清廉潔白であり、民度が高いということだろう。何処に理想郷は存在しない。日本にも問題は多数ある。清廉潔白なはずの政治家が利権を巡って争い、優秀で信頼されている警察官の犯罪も後を絶たない。だが、それは未来永劫無くならない。ただ、どれだけ少ないかという事であり、その点では、日本は世界で冠たるものだという認識を持っても良いとおもう。

参考文献   「犯罪に向かう脳」  アン・モア/デビット・ジェセル共著          原書房 

       「FBI心理分析官」 ロバート K.レスラー/トム・シャットマン 共著 早川書房
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