目が覚めれば、見慣れない天井。 馴染みの無いベットと、シーツの匂い。 それから。 知らない背中。 ─── 『 不覚 』 1 目が覚めたら、そこはいつもの自分の部屋とは違う部屋。 一糸まとわぬ自分の身体。 そして、目の前には大きな均整のとれた背中。 あちらを向いているから顔は見えない。 けれど、このチャクラ。 自分の推測が当たらないで欲しいと思う、その相手。 割れるように痛む頭に、回らない思考。 それでもなんとか記憶を辿れば、 昨夜、上忍仲間の飲み会でしこたま飲んだところまでは覚えている。 問題はそのあと。 どうやら自分のこの姿から察するに、 この背中の持ち主の部屋へ、しかもベットまでなだれこんでしまったらしい。 ぐでんぐでんに酔っぱらったあげくに服を脱いでしまっただけ・・・ というわけには、どうやらいかないようだ。 その証拠に、記憶がぷっつりと途切れているにしても、自分の身体の奥深くに残る「余韻」。 まいったなぁ、と心の中で呟く。 声に出さなかったのは、それによって相手を起こしてしまうのが恐かったから。 この見事な背中の持ち主が誰かを知るのが、なんとも恐ろしいのである。 そんな考えに集中していたから、背中の持ち主が寝返りを打ったのに気付いたのは、 無意識なのだろう、眠りながらも抱きすくめられる形になったから。 その感触に、記憶がほとんど無いのにもかかわらず、甦るのは。 確かに、この匂い。 そう思った瞬間、がばっと目の前の人間が起き上がった。 「・・・っ!」 一瞬にして、警戒のチャクラを全身にまとう、その人は・・・・ 思わず、大きな溜め息をついた。 「・・・・・・・・・・・・やっぱり、カカシか・・・」 起き上がってがっくりうなだれる私に、不審なチャクラなどまとっていないのを感じだのだろう、 ゆっくりと警戒を解いたあと、けれど目を瞠るカカシ。 「・・・・・なんでがここにいるのよ・・・・・」 私に言っているのか自分に質問しているのかわからないカカシを見ながら、 シーツの中で膝を立てて、そこに肘をついて苦笑いした。 「さぁ・・・なんでだろうねぇ・・・・」 「・・・しかも・・・・なんで・・・何も着てないわけ?!」 「・・・・・知らないわよ・・・・・」 「なん・・・ていうか・・・もしかして・・・・この状況って・・・アレか・・・やっぱ・・・」 「・・・・でしょうねぇ・・・覚えてないけど・・・」 「・・・・覚えてないってことは・・・何も・・・・」 「なかったって・・・・思う?」 「・・・・・・・・・いや・・・・」 そう言って目を逸らした。 どうやら、私同様、カカシも記憶はなくとも身体の方はしっかり覚えているらしい。 気まずい。 とにかく、気まずい。 そりゃそうだろう。 仕事仲間で、しょっちゅうふざけたり、時にはケンカしている、恋愛感情など感じたことのない相手と、 どうやら一晩しかもベッドの中で過ごしてしまったらしいのだ。 二人して同時に、溜め息をつく。 「まあ・・・いずれにしても・・・私たち、上忍失格よね」 記憶がざっぱりと抜け落ちてしまうほど飲んだくれるなんて。 召集でもかかったらどうするのだ。 緊急の任務が入っていたら・・・・。 「・・・はぁ・・・・そうだな・・・って、今はそんなことより!」 同じようにため息をつきながら自己嫌悪に陥っていたカカシが、いきなり我に返った。 「なによ」 「なによ、じゃないでしょーよ。どうすんのよ」 「だから、何が」 「だーかーらー!この状況でしょ?!」 「そんなの、過ぎたものはしょうがないじゃない」 「しょうがないって・・・おまえねぇ・・・」 「じゃあ、何?私たち寝ましたって宣伝して回る?」 「そうじゃなくて――」 「だったら、何も問題ないじゃない。今までどおり何も変わらないわよ」 「変わらないわけないでしょーよ!現に・・」 それ以上は言葉に出せなかったカカシは、目を逸らしてガシガシと頭をかいた。 いつもは重力に逆らっている銀髪が、今は見るからに柔らかそうに顔の周りで揺れている。 一瞬、どんな感触だっけと考えてしまった自分を振り払う。 「記憶がないんだから問題ないわよ。お互い初めてってわけじゃないんだし。でしょ?」 「そりゃそーだけど」 「じゃあ決まり。はい、この話はこれでおしまい。シャワー借りるわよ」 シーツを一枚身体に巻きつけて、浴室へ向かった。 「・・・なんでそんなに冷静なのよ?」 背後からかけられた言葉に、顔だけ向けた。 カカシはベッドに腰掛けて、頭を抱えている。 「今さらジタバタしたってしょうがないじゃない?無かったことにできるわけでもなし。」 「そうだけど」 「アクシデントだと思えばいいじゃない。はっきり覚えてないのは・・・かえってラッキーだったのよ」 覚えていたらさすがに私だって、とてもじゃないけどいつもと変わらない顔なんてできない。 だけどうっすらと身体に残る感触なんて、日が経ってしまえば消えてしまうもの。 大丈夫、忘れるのは難しいことじゃない、きっと。 「だから、カカシ、これからも今まで通り、普通でいてね」 「あんた達ケンカでもした?何か変よ」 見知った上忍仲間が集まった『人生色々』。 紅の鋭い指摘にカカシは焦った。 がカカシの部屋に泊まった日から1週間が経った。 最初の2、3日こそ、顔を合わせるたびお互い内心ドキッとしたが、 日が経つにつれての方は少しずつ記憶も薄らいでいった。 そうして変わらない態度で接してくるに、穏やかでないのはカカシの方だった。 どうして何もなかったように落ち着いていられるのか。 自分はこんなに心乱されているというのに。 答えに詰まってをチラと見る。 「別に。何もないわよ?」 「そうなの?」 サラリと答えたに、紅が問いたげにカカシを見た。 二人の間に何かあったとしても別に構わない。 お互い思慮分別もある立派な大人だ。 だが幼い頃から共に修業してきた。 多くの仲間を失ったゆえに、生き残った数少ない仲間は家族のようなものでもある。 傷ついたりするのはできるかぎり見たくはない。 そういう紅の気持ちが手に取るようにわかっているは、思い出したように付け加えた。 「あぁ、この前カカシが私のお弁当を勝手に食べたのよ」 「はあ?」 「任務から帰ってきて、くたびれきってて、やっと食事が取れると思ったら、 待機所にお弁当置いてシャワー浴びてる間に食べられちゃったの。」 「あれってのだったの?」 驚いたカカシにが冷たい視線を送る。 「任務終了の伝令飛ばした時に受付所の乙葉ちゃんに頼んどいた東屋の特製弁当だったのに。許せない」 「・・・なんだ、そんなこと?くだらないケンカ、いつまでもしてんじゃないわよ」 呆れた顔の紅の隣で、はカカシにわざとらしく笑顔を作って見せた。 「そうね、カカシには1週間分のお弁当でも奢ってもらわなきゃ」 |
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