「それ」を見たときに脳裏に浮かんだのは、「もう一つの結末」。

幸せ過ぎる今の生活の中で、いつも引っかかっていた。

本当にこれで良かったのだろうか。

本当に、カカシさんは幸せなの?

今が幸せだからこそ、不安に思ってしまう。




もしかしたら、彼にとって、もっと幸せになれるはずの「未来」があったんじゃないかって。


























                                                       ───  『 キミの隣。 』





























ここ数日、の様子がおかしい。

別にケンカをしたわけでもないし、任務が終わった後は一緒に過ごしている。
が、やはりいつもと何かが違う。


目が合えば、お互い自然と笑みが零れる。
けれどその表情はいつもよりも硬く、何故か寂しそうな笑顔で。

この手に抱き寄せれば、背中にそっと回される細い腕。
けれどその手が強く強くオレを抱きしめることはなく。

の中に入っていけば、応えてくれるその愛しい身体。
けれど心はまるで他の何かにとらわれているようで・・・。

そんな彼女にイラついてしまった昨夜は、いつもよりも激しくしてしまった。
それでも今朝、真面目なは酷使されて悲鳴をあげる身体をどうにか動かして、出勤していった。
きっと今日は疲労で仕事どころじゃないだろう。





待機所で、大げさに漏れる派手なため息に、クマ面の同僚は顔をしかめる。



「おい、カカシ、ウゼぇから、そんなしけた面してんだったら、よそ行けよ」
「ほっといてよね〜、アスマちゃん。」
「ちゃんづけは、やめろ。気色悪ぃ。どうせ、とケンカでもしたんだろ」
「残念でした。昨日もしっかりイチャパラした〜よ」
「・・・・・・そうかよ、ご苦労なこって」

そう強がりながらも、はぁーっとため息がもれてしまうオレめがけて、待機所のドアから突進してくる女が一人。



「ちょっと、カカシ!何があったのよ?!」

その迫力に退いたのはアスマの方。

「どうした、紅、そんな剣幕で。」
「さっき任務から戻ったから、久しぶりにのとこに寄って来たんだけど・・・あの子変よ」
「ん〜」
「ん〜って、何が原因なわけ?」
「それがわかれば、ねぇ〜」
「・・・アンタ浮気でもしたんじゃないの?」

だったら許さないわよ、と凍り付きそうな目つきで睨まれた。

「ちょっと、なんでそーなるのよ?!そんなわけなーいでしょ?オレは一筋よ?!ちゃんと愛し合ってるし!
ゆうべだって、あーんなことや、こーんなことや、○×なこととか、△□△とか───」
「だぁーーーーーーーーーっ!もういい!わかった!!!!やめろ!!」

オレとの愛情の濃さを説明しようとしてアスマに遮られ、がっくりと肩を落とした。


「アスマちゃーん、紅ー、オレどうしたらいいわけ〜」
「こりゃ、重傷だな」
「・・・そうね。カカシ、あんたホンっトに心当たりないの?いつからあの子ああなのよ?」
「はぁ〜、そうだなぁ・・・1週間くらい前?ちょうどリハーサルがあった頃だから・・・」
「リハーサル?」
「そ。火の国の大名の跡取り息子の結婚式。オレ、その代役なの」

近々、火の国の大名の息子が結婚することになっている。
その結婚式を壊してやるという脅迫状が届いた。
各国の首脳陣を招いているため、慌てた大名は新郎新婦の護衛を木の葉の里に依頼してきた。
犯人を捜査するといってもすでに式まで日がない状況。
今さら式を取り止めることなどできない。
結局、新郎新婦の替え玉をたてることになり、カカシとくの一がその代役を務めることになった。
そのリハーサルが一週間前にあったのだ。
の様子に気づいたのは、ちょうど火の国から帰ってきたその夜だった。




が、それを聞いて、紅の表情が曇る。

「・・・一週間前っていったら、」
「どーかした?」
「・・・あの子、研修会の講師として、前にいた火の国の病院に行くって・・・」
「カカシ、と向こうであったのか?」
「え?いーや、会ってないよ。」
「・・・あんた、この任務のこと、に話してたの?」
「まさか。だって、とだって結婚式あげてないのに、なんか悔しいじゃなーい?
できればこんな任務やりたくな・・・・・」


言いながら、頭をよぎった可能性に、思わずガタっと椅子から立ち上がっていた。


「・・・それだ」

呟いたオレに、アスマが怪訝そうな顔を向けながら煙草をもみ消した。

「『それ』?」
「たぶん、見たのね、あの子」
「見たって何がだ?」
「その現場に決まってるじゃない!」
「あ〜?だから何だっつーんだよ。」
「鈍いわね!好きな人の結婚式なんて見たくないに決まってるじゃない!」
「たかが任務だろ」
「あー!もう!女心がわかんないんだから!任務だって好きな人の隣に立ってるのが自分じゃない結婚式なんて、
ショックに決まってるでしょ?! ましてや、は・・・・・・」
が何なんだよ」
「・・・・・・・・・・ん〜!もう!うるさい、熊!」
「お前なぁ・・・だいたい、がその場にいたって証拠はねぇんだ。他に原因が───」
「いた・・・は・・あそこに・・・」
「カカシ?」
「あの式場のホテルは・・・が働いていた病院のすぐそばなんだ」
「ちょっと・・・どこ行くの?カカシ?!」



訝しがるアスマと紅をその場に残して、オレは待機所を出た。


あの時、は確かにあそこにいた。


あの時───。
ろくに顔も覚えてない、中忍のくの一とチャペルの前で打ち合わせをしていた時。
隣に並ぶのが、こんなよく知らない女じゃなくてだったら、と思った。
ただの任務と言えども、たとえ代役と言えども、神聖な祭壇の前を以外の女と歩くなんて。
そのとき、微かに感じた気がしたのチャクラと匂い。
彼女の事を想っただけでそんな幻を感じるなんて。
任務中だぞと自分に言い聞かせながらも、相当溺れてるな、と苦笑いした。

・・・あれは幻なんかじゃなかった。
本物のがあそこにいた。
そういえば前に、火の国にいた頃の話をしたことがあった。
病院のすぐ近くに、ランチが美味しいホテルのレストランがある、と。
いつか一緒に行きたいね、と。
久しぶりに火の国に来たは、たまたまあのホテルに行ったのだろう。
まさか、オレが他の女と未来を誓い合う姿を見ることになるとも知らずに。


この1週間のの表情を思い出して、苦い気持ちになった。
あれが任務だとわかっているから、彼女は何も言わなかった。
普段から、自分はもう忍じゃないからと、任務のことには一切触れない。
それでも、言ってくれれば良かったのに、と思う。
そうすれば、そんな不安や猜疑心、さっさと取り除いてあげられたのに。
いや、はそういう女だ。
苦しみも、悲しみも、いつも一人で何もかも背負ってしまおうとする。
だからこそ、愛おしくて、大切に思うのだが。


だからこそ、苦しみや悲しみだけでなく、喜びや笑顔や幸福をも、一緒に分かち合いたいと、思う。

































礼服を着たカカシさんは、夢見ていたのと同じで、やっぱり素敵だった。
ただ違うのは、その隣に立つのが、私じゃなかったってことだけ。

わかっている。
あれは任務。

隣にいたのは里で見かけたことのある、確か中忍のくの一。
以前、診察したこともあったと思う。。
任務ならばどんなことでも遂行しなければならないのは当然で。
カカシさんの性格からして、今回の任務はきっと気が進まなかったはずだ。
彼はそういう人。
そして私はそんな彼にとても愛されている。
それも痛いほどわかっている。
なのに、こんなにもずっと引っかかっているのは、彼にはもっとふさわしい人がいるんじゃないかと、ずっと思っていたからだ。
彼に愛されれば愛されるほど、大切にされればされるほど、
私なんかよりも、もっと素敵な人と、幸せな「未来」があったんじゃないかと、思ってしまう。






そんなふうに考えながら、過ごしていたある日。
任務中の負傷で木の葉病院に運ばれてきたのは、銀髪と口布の───。





「カカシさん?!」




腕のケガはそんなに深くない。
けれど使い果たしたチャクラのために、意識を失っていた。

すぐに処置をして、病室に移す。
勤務時間が終わってから、カカシさんの病室をのぞいた。
まだ眠りから覚めない彼のそばへ椅子を寄せて座る。


忍なのだから、負傷することも入院することも不思議ではない。
私自身、かつて任務中の負傷が原因で現役の忍を辞めたくらいだから。
それでも、昔の私よりもずっとランクの高い任務に就くことが多いカカシさんは、
それだけ危険も多いということ。
特に最近は、こうしてカカシさんが運び込まれることが増えた。
銀色の意外に柔らかい髪を撫でながら、とにかく命に別状がなかったことにホッと息をつく。

と、その指をそっと包まれた。
眠っていたはずのその顔を見れば、優しく微笑む、少し眠たそうな瞳。

「カカシさん、起きてたの?」
「お姫様のキスがあれば、もっとシアワセな目覚めなんだけどね〜」
「・・・もう、大丈夫みたいね」
「・・・え〜・・・キスは〜?」
「病人が何言ってるの!」

指で彼のおでこをつつこうとした手を掴まれて、ゆっくり引き寄せられる。

「だから、一番のクスリ、ちょうだーいよ」

触れるだけの、静かなキス。

「ごちそーさん」
「・・・カカシさんったら」
「大丈夫。これで、元気になったよー。」
「運び込まれたときは、びっくりしたんだから」
「・・・ごめん、心配かけて」

ううん、と軽く頭を振って答える。
カカシさんの手が伸びてきて、その細くて長い指が頬に触れた。
少しひんやりしているのに、触れられたところから、熱が伝わってくるみたい。

「前にさ、何があっても、絶対のところに帰ってくるって、言ったでしょ?」
「・・・・・・ん。」
「でもさ、もし帰ってこれたとして・・・忍はもうできない身体になってたら、どうする?」
「・・・カカシさん、どうしたの、急に?」
「身体もボロボロでさ、もしかしたら、顔なんかもグチャグチャで、
 フランケンシュタインみたいになっちゃったら、・・・・・・はどうする?」

病院に運び込まれるような事態になってしまって、少し落ち込んでいるのだろうか、
カカシさんはいつもだったら言わないような、弱気なことを口にする。

「それでも、生きて帰ってきて欲しいよ?」
「でも、普通に働くこともできなくなってるかもしれないよ?」
「大丈夫、そしたら、私が働いて、カカシさんの面倒見てあげるから。」
「・・・本当に?そう思う?同情じゃなくて?」
「カカシさんたら、今日はなんか変よ?」
「ちゃんと答えてよ」

一体どうしたのか、カカシさんは何を言いたいのか、
それでもその真剣な眼差しに、一つ息を吐いてから、当然のことを答えた。

「本当よ。同情なんかじゃないから。
どんなことがあったって、カカシさんはカカシさんだか───」

最後まで言わせてもらえず、気づいたときには、私はカカシさんの大きな体に包まれていた。

「オレも同じ気持ちだよ?」
「カ、カカシさん?!ちょ、ちょっと・・・身体・・・」
「今のの言葉、そっくりそのままオレの気持ちだから」
「・・・カカシさん?」
「さっきくれた言葉みたいに、がそういう人だから、オレは好きになったんだ。
だから・・・オレにふさわしくないなんてバカなこと考えるのは、もうやめてよ。
大事なのは、そんなことじゃないでしょ〜?」
「カカシさん・・・知って・・・」
「どんなことになっても、オレはが必要なの。だって、そうでしょ?」
「・・・・・・うん」
「それと・・・は物わかりが良かったけど・・・でもオレは、もしが・・・
たとえ任務でも他の男と結婚式なんてしたら、 相手の男ただじゃおかないよ?」
「え?!」

私の頭の上で、カカシさんがニヤリと笑ったのがわかった。


「当然でしょ?は丸ごと全部オレのものなんだから」



































タキシードの上着を着て、鏡で自分の姿を確認する。
今日は、大名の息子の結婚式。

任務とはいえ、やはり気が乗らない。
だって、そうでしょ?
代役で変化しているとはいえ、神様の前で誓いの言葉を交わすのよ?
その相手は何が何でもじゃなきゃ、イヤだ。絶対に。
とはいえ、自分がどう思ったところで、遂行しなきゃならないのだから仕方ない。
ま、影分身を使えばいいさ。

ため息をついた、その時。

廊下の向こうから、不審なチャクラ。
それは新婦の控え室へと忍び込んだ。
影分身をその場に留まらせて、自分は新婦の控え室へと向かう。
部屋に入った時には、他国の忍らしい不審者は新婦に変化したくの一に取り押さえられていた。
中忍のくの一に押さえられるくらいだから、たいした忍ではないらしい。
首謀者は他にいるってことか。
護衛にあたらせていた部下に引き渡し、くの一を見ると顔色が青ざめていて、様子がおかしい。

「・・・もしかしてキミ、傷負ってるでしょ?」
「い、いえ!なんでもありません!!」
「腕、見せて」
「なんでもありませんから!!大丈夫──痛っっ!!」

隠した腕を強引に取って見れば、かなり深い傷。

「やっぱりね。・・・すぐ病院行った方がいいよ。このままじゃ出血とまらないよ?」
「大丈夫です!このくらい──」
「あのねぇ、キミがよくても、まだ任務終わってないのよ?さっきの忍だけが犯人とは思えない。
そんな腕で何ができる?それに早く手当てしないで手遅れになったらどうするの?忍やめる?」
「あ・・・・」

事の重大さに気づいたらしいくの一は、大人しく護衛の一人に付き添われて行った。
・・・・・ちょっと脅かしすぎちゃったかな?

さて、と。

「あの〜・・・」
新婦の付添人が不安げに声を掛けてきた。
「あと少しで、お式が始まってしまうんですが、花嫁さんは・・・」
「あ〜、はいはい。花嫁さんね〜。」

このままでは花嫁が不在になってしまうため、大名の関係者も焦り出し、騒ぎ始めた。

「はたけ上忍、どうするおつもりですか。このままでは・・・」
「わかってますってば。ちょっと待ってていただけます?すぐ戻りますから」

それだけ言って、瞬身の術を使った。























そろそろ、カカシさんが代役を務めるお式が始まる時間だ。

腕時計を見ながらそんなことを考えていると、向かい側に座っているこの病院の職員に声をかけられた。
今日は、火の国の病院で先日に続いて2回目の研修会。
皮肉にも、ここからすぐのところで、任務とはいえカカシさんが他の女性と誓いの言葉を交わす。

・・・と、何やら廊下がざわついているようで、しばらく様子をうかがっていると、
ドアが開いて現れたのは、変化していても、すぐにわかる、礼服姿のカカシさんだった。


「カカシさん?どうしてここへ・・・?」
「忙しいとこ悪いんだけど、ちょっと手貸してくれなーい?」
「え?・・・きゃっ!」

抱き上げられたと思ったら、周囲が驚いて引き止める間もなく、カカシさんが翔け出した。
もの凄いスピードに、カカシさんの首にしがみつく。
彼の腕の中で見上げると、気のせいだろうか、なんとなく、嬉しそうなカカシさんの表情。
その理由と、病院から私を連れだした理由を聞こうと口を開いたちょうどその時、ストンと降ろされた。
そこは広くてきれいな、どこかの一室。
いろいろな荷物をみると、どうやら控え室らしい。
そして、ソファのところに掛けられた・・・白いドレス。



「カカシさん・・・ここ・・・?」
「ごめん、急に連れ出して。でも、この状況を乗り切れるのはしかいないんだ」
「・・・私?」
「変化ができて、最低でも中忍以上の能力を持っているくの一、」
「え・・・でも・・私はもう──」
「もしくは、それと同等以上の能力を持つ者。しかも今すぐ任務に就ける者──木の葉の里からくの一を呼んでる時間はないんだ」
「・・・つまり、花嫁役が不在ってこと?」
「正ー解。」
「・・・・・・私なんかで、いいの?」
「もーちろん。中忍のあの子には申し訳ないけど、間違いなく、あの子よりの方が能力高いよ。」
「でも・・・」
「大丈ー夫!いざとなったらオレが隣にいるから」
「隣?」
「そ!だってオレ新郎よ?隣にいなくてどうすんの?」
「・・・・・・」
「あら、不満?」

一瞬、困ったという顔をしたカカシさんを見て、思わず吹き出してしまった。

「・・・まさか。もうお式始まる時間よね?」

とりあえず、着替えるね、と言って、ドレスを抱えてバスルームに向かった。
急いでそのドレスを着て、洗面台に置いてあった化粧品を借りて、メイクをさっと直した。
今日は人前に出るからと、今朝いつもよりは丁寧にお化粧をしておいてよかった。

バスルームから部屋に戻って、カカシさんの目の前に立つ。
急ごしらえの花嫁姿に、なんとなく照れくさくてカカシさんの顔が見れなかった。
それでも、カカシさんの隣に立つのが他の誰でもないことに、心は躍る。


・・・、すっごいキレイ・・・」
「ありがとう・・・・・・任務でも・・・嬉しい・・・」

俯きながら、そう言った。



「何言ってんの。相手がなら、誓いの言葉は、オレ本気よ?」



その言葉に、顔を上げた。
今、凄いコトを言われた気がする・・・。


けれど、カカシさんは満面の笑みで、さらにこう言った。










「ウエディングドレスのもキレイだけど、オレ達の本番の時はさ、白無垢姿のが見たーいな。」

















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管理人「ねぇ、カカシさん。わざと負傷して病院行ったでしょ・・・」
カカシ 「え〜?何のこと?」
管理人「だって、チャクラの使いすぎのくせに、元気だったじゃんよ」
カカシ 「あー、あれねー。の顔見たら、元気になったのよ。」
管理人「でもさ〜、中忍のくの一、脅かして帰らせたのって、わざとでしょ?」
カカシ 「・・・・・え〜、やだなぁ、何のこと?」







10,000hitを踏まれた、楠智愛様に捧げます。
リク内容は、
 「カカシが(任務で)結婚式の花婿役をしているのを偶然見かけて、ショックを受けて落ち込むヒロインちゃん。
  そのヒロインちゃんを慰めて最後はらぶらぶv」でした。
智愛様、リクにお答えできたか不安ですが、こんなんでよろしかったら、もらってやってくださ〜い。