久しぶりに学校に来てみれば、半ば引きずられるようにして男テニの部室に拉致られた。



















                                               ───『But Beautiful』 1












「跡部ーっ!見つけたぜー!!」
「ちょっ・・・、何叫んでんのよ!」


まるで逃げ出しそうな人間を離さないかのように、の腕を掴んで、テニスコートのだいぶ手前から岳人が叫んだ。
まだ準レギュラーにもなれない部員達や、ベンチに座って練習を見ているファンの女子達の中を飛び跳ねるようにチャッチャと進む岳人は、
を──テニス部とは無関係な、全くの部外者であることをまったく忘れているのだろう──コートの中に引っ張り込もうとする。
途端、それを見ていた男テニ追っかけの女子たちから、密かなブーイングのような囁き声や呻き声が起こる。
ファンクラブのリーダーや女子テニス部のレギュラーでさえフリーパスでこのコートに入ることなど許されないというのに、
ましてや何故こんな女が──そんな視線をヒシヒシと感じながら、は慌てて立ち止まった。

「岳人っ!私テニスシューズじゃないんだから、コート入れないってば!」
「あ、そっか。忘れてた。」
「忘れてたって・・・アンタ──」

「何騒いでんだよ、このバカ女」

コートに入らないように足を踏ん張っていると、つい今しがたコートでプレーしていたはずの、
傲慢そうな、いや、傲慢そのものの声に遮られた。
見上げれば不機嫌そうな声より更に三倍増し不機嫌な男の顔。
その顔はなまじ整いすぎている分よけいに冷たく見える。

「あのねぇ・・、いくら『オレ様跡部様』にだって、バカ呼ばわりされる覚えはないわよ」

不本意ながらかなり下から見上げて男テニ部長様に呆れながら言えば、失礼にもフンっと鼻で笑われた。


「ちょっと!さん!跡部様に何て口のききかたしてるのよ!」

・・・ほら、出た。恐怖の親衛隊の皆々様。
1人がわめき出すと途端にふくれあがるブーイング。
悪いけど今日は疲れてるからあなた達の相手をする気力はないのよ。
は、心の中で呻いた。
さすがに実際に口に出すほど無謀ではないが。


「うるせぇっ!てめぇら!邪魔するんだったら、とっとと出ていきやがれ!二度と来んな!!」

跡部の吐き出した悪態に、静まりかえって呆然とする女の子達。
中には今にも泣き出しそうな子までいる。

こういうふうにご機嫌を損ねちゃった跡部がしばらくは手に負えないってこと、知らなかったのね。
当分の間、親衛隊が練習の見学する事にもいい顔しないだろう。
が同情めいたことを考えていると、跡部の視線がその他大勢からに移った。


「まあいい。、ちょっと来い」

顎で部室の方を示して、跡部がさっさと前を行く。
後からがついてきているか気にもしない。
その尊大な態度に、このまま回れ右をして帰ってしまおうかと、ふとそんな考えがの頭をよぎる。
が、それを見越しているのか、ぬぅっと現れた樺地に、

「あ〜、わかってる・・・行きますよ・・・」

ジロちゃんみたいに運ばれるなんて、ヤだからね。
そう呟くと、何より樺地自身がホッとした様子だった。

「・・・ウス」























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