───『 Mona Lisa 』 1
























人もまばらな連休中の大学図書館。
勉強するにはうってつけのこの時期、この場所に不似合いな人間が嫌味なほど長い足を組んで目の前に座った。
はそちらへ一度チラリと目をやってから、また視線をテキストに戻した。

「なんや、真剣やな〜」
いつもどおりの、のんびりとした口調。
この男が焦ったり熱くなるのは見たことがない。
テニスをしている時を除けば、だが。

が最近図書館にこもってるゆうて、なんや跡部が不機嫌やで」
「そう」
「そう・・・て、たまには景吾たん構ってやったらどないねん」
「別に私は跡部の子守りじゃないよ〜」
「似たようなもんやろ」
「・・・そういう役目を喜んでやりたがる子達がいっぱいいるでしょ」
、お前わかって言っとるんだよな」
「何が?」

忍足は頬杖をついて大げさに溜め息をついた。
低音の声をいっそう低くして聞こえるか聞こえないかの声でつぶやく。

「こうまで頑なだと跡部が気の毒になってくるわ」

はノートから顔を上げて訝しげに忍足を見た。

「何を言いたいのかわかんないよ。人の邪魔するなら他へ行きなよ〜」
「なあ、そんなん勉強ばっかしとって。司法試験でも受けるのかってみんな言うとるで」

なんだ、という表情で答えた。

「受けないよ。司法修習、どこに飛ばされるかわかんないもん。
うちの弟、今思春期だから家から出たくないし」
「ならなんでこんな時期にこんなとこにおんねん。おまえ、就活もせんかったやろ」
「・・・・・・したよ」
「・・・何やて?」
「だから、・・・したわよ、就活。少しだけど」
「ほんま?」
「嘘言ってどうすんのよ」
「そやけど初耳やもん」
「そりゃそうよ。誰にも言ってないから」
「・・・なんで跡部に言わんの?」
「うるさいもの。跡部ん家の会社紹介するからとかなんとか。」
「天下の跡部財閥やん。うちの大学からだってなかなか入れん大会社やで」
「私にコネで入れっていうの?」
「まあ、はそういうの苦手やからな。けどオレらには就活しとったことくらい言うてくれとっても良かったやないか」
「あんた達に言ったら即跡部に直通じゃない」

図星を刺されて忍足が黙る。

「まあ、あんまし景吾たんが可哀想やったら教えてやるかもわからへんな。
それはそうと、この時期に余裕かましてそんなんベンキョしてるゆうことは、就職決まったんか?」
「・・・まあね」
「いくつ内定もらったん?」
「一つ。っていうか、一社しか受けてないから」
「へぇ〜、どこ?」
「・・・」
「言えんようなとこなんか」
「まさか」
「じゃあ何で教えてくれんの。ええやん、減るわけでもなし・・・」
「減らないけど、うるさい男が一人いるからね」
「なあ、跡部はが心配で仕方ないねん。わかっとるやろ。
だから自分とこの会社に入れたいんやん。一流企業に入っとけばお前だって将来安心やろ。
あいつなりに考えてるんや」
「わかってるよ。」
「ほんなら・・・」
「だからって跡部のコネで入りたくはない」

まっすぐ忍足を射抜くようにきっぱりといい切ったに忍足は半分呆れながら笑った。

「ホンマに頑固やな」
「・・・誉め言葉と受け取っておくよ」

忍足は再びため息もらした。

「ところで、何で勉強しとんの?司法試験受けへんのやろ?」
「入社の条件みたいなものかな。研修までにある程度モノにしとけって」
「お前確か司法書士の資格は持っとったよな」
「去年ね」
「もしかして内定もらったとこって弁護士事務所かなんか?」
「違うよ」
「ってことは企業の法務関係?」
「・・・・・・」
「・・・ふぅーん、そういうことかいな」

忍足はしばらく黙って考え込んでからそう言うと、満足げに一人頷いた。

「・・・そういうことってどういうことよ」
がそこまで跡部に内緒にする理由、わかったわ。」
「ちょっと忍足・・・」
「安心しいや。跡部には黙っといてやるさかい」

組んでいた長い足を下ろして立ち上がった。
入口に向かいかけて振り返る。

「けどなぁ、あんまし意地張っとると大事なもん見失うで」
「何言ってんの?」
「跡部かて、ただの男や。いつまで気長に待てるかわからんで」

ほなな、と手を振って出ていった。










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跡部が出てこない・・・(汗)。
これは、忍足夢?
しかも、関西弁ニセモノだし。
忍足弁ってことで(笑)。